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異世界冒険奇譚 ~勇者の支援致します~  作者: 鉄火巻太郎
第1部「始まりの冒険者」第0章「初まりの始まり」
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第一話「なんで俺?」

本日2つ目の投稿です。と言うよりかはここからが本編と相成ります。


「やべぇ・・・仕事が入ってこねぇ」


 時刻は深夜1時。もうすぐ秋になろうかと言う季節。街灯の明かりも薄暗い、公園のベンチで俺は独り座り込んで、そう呟いた。

今時の都心部では空いている土地なんてそうそう無いに等しく、つまりはこの公園も小さく空いた隙間に作られた公園で、

ベンチが2つあるだけで遊具など何も無い。そんな小さな公園で俺は独り途方に暮れていた。


「やべぇ・・・・・・全く仕事が入ってこねぇ」


 再度呟く。いやまぁ何度呟いた所で仕事なんざ入ってこないかもしれないけども。

今の俺の格好はよれよれのシャツに穿き古したジーパン、足元はサンダル。

ちょうど煙草を切らしたからコンビニで煙草とビールを買いに行って、ふらっと帰り途中にあるそんな公園に足を運んでみた。

そんな小さな公園だから夜に人なんて居るはずもなく、そんな寂しげな雰囲気で独りビールを呑んでるからか、昔の事ばかり思い出していた。


◇◇◇


 今は日雇いで食い繋いでる俺だが、昔からそうだった訳じゃない。

あんまり頭が良くなかったし、これと言って夢なんて無かったから大学には行かなかったけど、なんとか高校だけは留年もせずに卒業した。

成績はまぁ、中の中。それこそ十人並みってやつかな。運動も座学も真ん中ら辺の「ザ・平凡」を地で行く成績だった。

高校出た後は級友のコネで運送会社に入ってバリバリに働いていたし、20代中頃には月収だって手取りで40万位あった。

30歳になった時だったかな、当時通ってたキャバクラの女の子を口説いて結婚した。まぁ子供はできなかったけど。

ただまぁ、その後はいきなり世界規模で景気が悪くなって、俺が働いてた会社も潰れた。

どこもかしこも会社が潰れたり、リストラが激しくなったりして。俺の級友とかも結構な数が職を失ってた。

そんなこんなで何年か無職だったり日雇いだったりを繰り返してたら奥さんにも離婚された。まぁ、当たり前かなーとは自分でも思う。

こればっかりはしょうがねぇかな。あいつの人生はあいつのもんだし、つまる所金が無いと生活も成り立たない訳で。

人伝に聞いた話じゃ結構な金持ち掴まえて幸せにやってるらしい。

俺が幸せにしてやれたら良かったけど、あいつが幸せなら、まぁそれで良いかな。

でだ、そんなこんなでやってたら俺も、もう40歳だ。アラフォーだ。これから先どうなっちゃうんだろうねぇ?


 と、そんな事をうだうだと考えてた時だった。こんな人気の無い公園に変な奴がやってきた。

背格好は細身の長身の男で金髪碧眼、年の頃は20代後半位、ハリウッドの俳優みたいなイケメンさんだ。

イケメンさんなんだけど・・・俺が「変な」と言ったのはその格好だ。

こんな夜中の人気の無い公園に来たその格好は真っ白いスーツで白い革靴。って白い革靴なんて売ってるんだ!?

そんな妖しげな男が俺に近づいて来てこうおっしゃった・・・。



「失礼します。中村真一さんで宜しいですか?異世界への派遣には興味は御座いますか?」


 やばい人だ!これ絶対やばい人だ!なんで深夜の公園に真っ白のスーツとか着てんの?なんで俺の名前知ってんの!?

今時分は世間がうるさいから「ドッキリ番組」なんてやってないはずだし、やってたとしたって俺なんかを「ドッキリ」させたって面白くも無いだろ!?

て言うか、言うに事欠いて今「異世界」とか言ってたよね!?変な薬でも決めてんのか!?格好も変だし!?この辺ホストクラブなんて無いよね!?

俺は若干パニックに陥って、返事も出来ずに支離滅裂な事を考えていた。


「これは失礼致しました。服装のTPOが合っていなかった様ですね。それに些か少し話の内容が性急に過ぎました。」


 そう言って白スーツ男が指を鳴らすと、身に着けていた服装が一瞬でその辺で幾らでも見かけるカジュアルな格好に変っていた。


「は?え?は?」


「やはり服装はきちんとその場に合わせた格好にしないといけませんね。人との接触が殆ど無いので人の世に降りる時はいつも時代が変っていて。

どうしてもその時の状況に合わせた格好が判り難いのですよねぇ。ついいつもの服装で出て来てしまいました。」


 と言って顎に手を当てて憂いの表情を浮かべる。イケメンは何着ててもイケメンだなチクショウ!

ってそうじゃなくて!今こいつ服が変ったな?なんかの手品か?何だ!俺に手品を披露してお金でも要求する気か!

自慢じゃねぇが今の財布の中身は100円切ってるぜ!コンチキショー!


「さて。では中村様。少し私の話を聞いて頂きたいのですが、お時間の都合は如何でしょうか?」


「え?いや、間に合ってます。」


「・・・いえ、そうおっしゃらず、せめて話のさわりだけで「失礼します!」


 そう言って慌ててその場を離脱しようとした俺の視界が眩しい光で埋め尽くされる。

爆弾か何かか!?そう慌てたが実際は爆発音なんて聞こえなかった。ただ光で埋め尽くされただけだった。



そして・・・・・・


◇◇◇


 今、俺は真っ白い部屋の中に居る。壁も、床も、天井も、それどころか部屋に置いてある机や書棚、椅子までも白い。

いやこれ目がチカチカするな。遠近感もなんだかまともに感じられない様な気がする。そんな部屋に居るんだが・・・。

戸惑っている俺を前にして、さっきのイケメンが先程来ていた白スーツに着替えていて、やっぱり憂い気な表情でこちらを見ている。

事ここに至って俺は冷静になっていた。いや違うな、状況が変りすぎて着いていけなくなったって言うか。

何から突っ込んでいいのかさっぱり分らなくなったって言うか。

そんな俺に対してイケメンが色々と事情を説明してくれた。してくれたんだけど・・・。


 イケメンが言うには、この真っ白スーツのイケメンさんは地球がある世界の管理者「レブラン」さんと言うそうだ。

で、レブランさんとは別に、他の世界を管理してる管理者仲間がいるそうで。

勿論、管理されてる世界は二つとかじゃなくて沢山の世界があるそうで、管理者もそれぞれの世界を各自一つずつ管理しているらしい。

管理の仕方とかはそれぞれの管理者に一任されていて、さらに全ての管理者を纏めている創世神さまがいるそうだ。

で、その管理者の一人が他の管理者達に、とある救援要請を行ったらしい。


その管理者がいる世界には魔力と言う物があって、人々は弱いながらも生活の中で魔法を使って生きているそうで。

管理者が定期的に未来予知って言うのを行っていて、ある時、管理している世界に魔王(ゲームかよ!)が生まれる事が分ったんだそうだ。

その対処をする為に他の管理者に救援要請を行ったんだと。

いやいやいやいや、勇者とか勘弁してくれ。俺は喧嘩とかもした事が無い一般ピーポーだぜ・・・


「って言うか何で俺なんです?」


「あまり詳しい事情はお話出来ませんが、様々な条件から適合する人材を検索した結果、中村様が最も条件に適合していた事が理由となっております。」


 話せる内容だけでも、と言う事で聞いてみた結果、次の事が条件の中にあるそうだ。

一つ、俺には子共とか奥さんとか居ないし、親もすでに他界してて直近の親族が居ない事、会社に就職していない事、等から社会的に束縛されていない事。

一つ、あちらの世界には魔力の元となるものが存在しているんだけど、そう言った所謂非現実的な現象に対して理解がある事。

一つ、精神が善性に傾いている事。

最後の一つはどうなんだろう?俺って別に善人でもないと思うんだけど?まぁいいか。

それと、別に魔王とは直接は戦わなくて良いんだって。っていうか魔王が生まれるのはまだずっと先、およそ100年後とかなんだそうだが、

今現在は魔物みたいなものすら殆ど居ないらしいので、そもそも魔物と戦える人材自体がいならしい。

だからそう言った戦力の拡充と言うか、魔王と戦う為の環境作りを頼みたいんだそうだ。


 所で、今迄の説明の中に非常に興味深い内容があった事は読者諸氏にも分って頂けたと思う。

そう、魔法があるのである!


「え?俺にも魔法使える様になるっすか!?」


「はい、勿論使える様になりますよ」


まじか・・・魔法とか!やべぇ!どんな魔法が使えるんだろうなー、ワクワクしてきた!

あれ?でも俺にも魔法が使えるらしいけど、こっちじゃ魔法なんて見た事も聞いた事もねぇよな・・・使い方とか判んないけどどうなんだ?


「あちらの世界に渡る為には魂だけを向うへ送り出し、その後で肉体の再構築を行います。その新たな肉体を以って魔法使用も可能となるでしょう。」


「へー、肉体の再構築っすか、て事は見た目の年齢とか若くしてもらえるのかなぁ・・・?」


「その辺りの細かい調整はあちらの世界の管理者にご相談下さい。あくまで私はこちらの世界の管理者なので、実際の状況には手出しが出来ません。

希望が御座いましたら、あちらの管理者に伝えて頂ければ常軌を逸しない条件範囲の中でなら叶う事でしょう。

ですが我々の都合で渡って頂きますので、言わずともある程度の事は対応して頂けるはずですよ。」


「あ、そうなんっすか(あ、やべ、テンション上がり過ぎて口調が素に戻ってた)」


しかしそうか・・・ある程度は都合聞いてくれるのか・・・・・・あー・・・いや、待てよ。


「ちなみにこの話を断った場合はどうなるんです?」


「はい。その場合は先程までの私との会話に関わる記憶を消去した後、公園まで送らせて頂きます。

中村様には特段、不都合が生じる事は無い事をお約束させて頂きます。」


そうかぁ・・・別に無理矢理って訳でもないし、とりあえず騙されてるとかでも無いのかな。これが夢じゃなければだけども。

未練があるわけでもないしなぁ・・・あぁでもゲームとかアニメとかもう楽しめないのか・・・それはちょっとだけ、いやかなり未練だけど。あ、そう言えば。


「あの、こっちの品物を向うに持ってくとかってのは可能なんですか?例えば携帯端末とか。」


「可能か不可能かで言えば可能ではありますが・・・。申し訳御座いませんが、携帯端末をあちら側へ送り出しても、

私もあちらの管理者も加工を施す事は出来ませんのですぐに使用出来なくなると思われます。」


 加工ってのが何か詳しくはわかんないけど、まぁ普通に端末持ってっても充電とか出来ないだろうし、そもそも通信も通話も出来ないから意味無いか。

それにぶつけたりすれば普通に壊れるだろうし。銃だって弾が無くなったら使えないし。て言うかそもそも銃なんて持ってないから考えるだけ無駄だけどさ。

あれこれ悩んでもな。なる様にしかならないか。

ちなみに向うに渡る場合は、公園で死亡した事にして魂だけで渡るそうだ。まぁ行方不明よりはいい・・・のかな?わからん。

 でも必要とされるのはなんだか嬉しいな。奥さんと別れてからは誰に必要とされる事も無かったしな。

そう思うと、ちょっとだけこれからが楽しみに思えてくるから不思議だ。


「わかりました。その話、乗ります。送っちゃって下さい。」


「承諾して頂いて本当に有難く存じます。諸注意事項等はあちらの管理者から話されるでしょう。世界を渡る道を開きますので今暫くお待ち下さい。」


今まで話をしていた白い部屋の壁に切れ目が入る。縦に入った切れ目はやがて横に広がって、人が一人通れる位の黒い穴?になった。

この黒い穴を通った先がこれから俺が新たに生きる事になる別の世界なんだろう。

て言うか携帯小説の異世界物って主人公は若いよね?高校生とかが主流な様な気がするけど。

いやそもそもこれは現実・・・現実、かぁ?まぁ現実と言う事にしておこう。あんまり深く考えても仕方ない。

実際は高校生なんて拉致ったらあちこち大騒ぎだろうしな・・・俺みたいなおっさんの方が騒ぎも大きくならないのかも知れない。

いや、生活環境とか状況次第か。ともあれ、これでこの世ともおさらば。異世界生活が俺を待っている!

あんまり考え込むと悪い方へ行っちゃうから楽しい事だけ想像しとこう!よし!


「道が繋がりました。これで世界を渡る事が可能です。向うの管理者にも宜しくお伝え下さい。」


そう言う白服イケメン改め、この世界の管理者、レブランさんに背を向けて壁に開いていた、黒い穴へと一歩を踏み出す。

そうして俺は、後ろ向きに右手を振りながら、生まれ故郷に別れを告げ、新しい世界へと旅立って行ったのだった。





最後までお読み下さいまして有難う御座います。

今後とも宜しくお願い致します。


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