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4/4

翌日、いつも通りに狭い兵舎で目を覚まし、身支度を整えたのち朝食を食べるために部屋を出ると、目の前の廊下にサンディが佇んでいた。


「あら、案外早起きだったのね。起きないなら突入しようかと思っていたのに。」


そう言って、手に鍵をちらつかせる彼女は、昨日のスーツではなく、役職のない一般兵が着るような制服だった。


俺が驚いてそれを見た理由は、彼女も分かったようで、


「誤解されがちだけど、私実働兵なのよ。パトリックが指揮官。」


歩きながらそう説明してくれたサンディに、俺は質問を続ける。


「彼はまだ子供に見えるが。」


俺の言葉は、サンディには聞きなれたものだったようで、首をすくめる。


「首都はクーデターで万年人材不足なのよ。まあ、それだけであの子が選ばれたわけではないけれど。」


歩いている間にペースに乗せられた俺は、食堂ではなく格納庫に向かっていたようだ。


サンディに誘導されなくても、ここが俺の職場なのだからと言おうとしたが、目の前に飛び込んできた光景に、俺は足を止める。



普段格納庫には置かれていないはずの「ratha」が、戦闘機や小型宇宙艇を押しのけて、主役のように鎮座していた。


白銀のフォルムに、闇の中でも反射して光る赤い目のついたコックピット部分となる頭部。そのハッチを開けて出てきたのは、辺境総司令であるジュリー空将と同じデザインの、真っ白な軍服を、当然のように着こなしたパトリックだった。


パトリックは普段眼鏡を掛けているようで、俺の横で手を振るサンディに視線を投げると、ハッチを閉じて降りてきた。


「お疲れ様!」


サンディが紙袋を渡す。中身はベーグルとコーヒーのセットで、俺にも同じものを渡した。


パトリックは空腹だったのかすぐに食べ始め、俺もそれを見て追従する。


「よく整備されてる。むしろ今まで使われなかったのがもったいないくらいだって。」


なぜかパトリックではなくサンディに、機体の様子の評価を言われて、当たり前だと俺は思ったが、ここで誇るのもキモオタだと言われそうなのでおとなしくしておく。



「当たり前だろ。税金で戦争兵器使うことに抵抗あるくらいには平和なんですよ、ここの辺境は。」


自分の言葉を口の中で噛みしめる。


「それって、20年前の最前線になった経験から来てるの?」


サンディの言葉に、口の中が一気に乾き、何も含んでいなかったタイミングに感謝する。


「その話、地元民の前では絶対に出さないで下さい。家族が死んでる人も多いので。」


俺の忠告は、分かり切っていると手で示し、サンディはまたパトリックに向き合って、なにやらへえほうと何も言う様子の無いパトリックから何かを読み取っていた。





町中が燃えて逃げ場のないあの景色、迫りくる熱量に息も出来ず、唯怯えて震えていたあの日。

憧れた巨大ロボットも、戦闘機も、全てが火の海に飲まれて、唯の鉄くずへと変化していく光景。

町の大人の9割が死んだ日。



いつの間にか飛んでいた意識は、差し出されたキャンディーによって戻ってきた。


俺の目の前にいつの間にか来ていたパトリックは、無言で包みを差し出し、俺は礼を言って受け取った。





「あれは、君の機体だね。」





パトリックの、有無を言わせないその言葉に、俺は思わず頷きそうになったが、その時、入り口から聞こえる喧騒が、2人の意識をそちらに向けた。







「おはよう諸君!!!!!!いやあ見事な機体だ。私に乗られるためにあるとしか思えない!!!!」



入り口には、当然のようにスルワとルナを葉侍らせて、満面の笑みのジュリー空将が、嫌味に見える笑いを隠さずに、光を背にして立っていた。




ため息を隠さないサンディに、気づいていないように挨拶できる神経を持つくらいには、この男の面の厚さは伊達じゃない。

辺境一の貴族であり、政府すら頭を下げる存在がルールのこの男。


辺境に逆らえる人間はいるはずない。




しかしそうだ、サンディ、この女は違う。



「私の一存で、ボブを正規パイロットとして中央に報告しましたわ。」




サンディの言葉に、場の空気が全て凍り付いた。



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