①
皆さんは人型戦闘用ロボットというものが好きだろうか。
俺はもちろん大好きだ。
子供のころに漫画で読んだ、ビルよりも電波塔よりも高いロボットが怪獣と戦うその姿に、俺の心は釘付けになったものである。
普通は幼少期になくなるであろうその情熱を、良い大人になっても持ち続けた結果、今の俺の仕事は、そのロボットの整備担当になった。
今俺の住む小さな国は、数年前までは中央一局の独裁政権による政治だったが、その娘が起こしたクーデターにより一夜にして変貌。
民主主義を掲げるその女王様は、5つの地方に分かれたこの国の各地に、最新鋭ロボットを派遣し、それぞれ競技としての戦闘を行い、最後まで勝ち残った地方のロボットに政権を委ねる、というとんでもないルールを発表した。
今日は、そのロボットのパイロットとなる人間が、俺の住む地方に来る日であるが、末端の整備員である俺には関係のない話なので、今日もいつも通り、他の軍人が操るロボットの整備をのんびり行っている。
普段通りに、コックピット内に入り、メンテの為に調査していると、閉じたはずのハッチが空き、光が差し込んできた。
「ゆーがっとめーる!」
振り向いて視線を落とす。平均身長より若干低めの彼女「スキッパー」は、体に見合わない大きさの胸を張って、俺に一通の手紙を差し出した。
受け取って、その場で開封する。
文面は、まあ予想できていたものなので特に気にしない。予定通りだ。
俺の顔面をのぞき込んでいた彼女に向き直ると、
「迎え、よろしくって。ジュリー様が」
と言ってきたので、俺が行っていいのか聞くと?
「そのほうが安全でしょ?ジュリー様は一応この軍のトップみたいなものなんだから」
とだけ言って、後よろしくーとひらひら手を振りながら去っていった。
俺は、ロボットのコックピットから出て、作業用服から、長く着ていない軍服に着替える。少しきついので太ったかなと苦笑して、今日は汚れる作業してないから外見は大丈夫だろうと判断して駐車場に向かう道を歩く。
すれ違う他の軍人や職員たちが、
「ボブおはよー」
と挨拶してくれるのにこちらも返しながら歩いていると、胸ポケットの振動で着信に気が付き、表示されたメッセージを見て表玄関へと進行方向を変える。
玄関には、長身で細身ながらしっかり筋肉のついた女性「スルワ」が、車にもたれかかりながら立っていて、俺の姿を見ると、そのまま運転席のドアを開けて座った。
後部座席に座りながら、俺が運転するよと提案してみたけれど、
「あなたに運転させると何があるかわからないから」
と冷たく一蹴された。そんなに自分の運転は酷いのかと悲しくなりながらも、車は発進し、この地方唯一の飛行場へと向かった。
ただでさえ小さなこの国の、北の辺境地方には、空港なんてご立派なものはない。
昔はレアメタルが発掘されていたらしいが、最近はご無沙汰で、俺たち軍人の主な任務は、表向きは友好国で実際は属国扱いしている小さな市国が山を越えたところにあるので、その国の監視と統治が中心だ。市国もクーデターで王族が一人を残して皆死んで、今は一人の姫が治めているからこの国と色々似ているのだ。
そんなことを考えていると、飛行場に着いたようで、スルワに運転席で待っているように頼んで自分だけ降りる。
ちょうど飛行機が到着したのか、大勢の人でロビーは込み合っている。
しかし、この辺境に用事のある人間は限られているので、見知った顔以外を探したら、案外簡単に目的の人物は見つかった。
まだ幼さを残した眼鏡を掛けた少年と、それに付き添うスーツ姿の女性。俺が近づくと、制服を着ていたからかすぐにこちらの意図に気が付いてくれた。
「ああ、軍の迎えの人?」
スーツの女性は、見た目よりも砕けた言葉と雰囲気を発して、自己紹介してくれた。
女性の方は、サンディ、少年は弟で、パトリックというらしい。
こちらも自己紹介して、サンディと握手する。すると、俺の手を握ったサンディが何かを確認するように何回か握っては離すを繰り返し、ふむふむと納得したように呟いた。
「・・・決めた。ボブ、君があれに乗りなさいよ」
サンディが指さしたのは、飛行場からも見える俺たちの軍の基地にある、最新鋭技術を集約した、これからこの国の未来を決める為だけに作られた、俺のあこがれの機体。
ratha。それが、あのロボットの名前だ。