サスペンデッド
ある日、私は車に轢かれました
学校の帰り道のことでした
信号が青になったのを確認して、横断歩道を渡っていた時にパトカーのサイレンの音が近くで聞こえて、誰かが逃走劇でも繰り広げているのかなぁとのんきに考えているときに、思いっきり撥ねられました
後で聞いた話によると100㎞/h以上のスピードが出ていたそうです
私がこうして生きているのは、本当に運がよかったんだなぁと改めて実感しています
一緒に歩いていた友達がすぐに救急車を呼んでくれたのもよかったと担当医の方が言っていました
もし、少しでも通報が遅れたら記憶喪失になっていたかもと冗談っぽく笑いながら
その際に、とある提案をされました
その提案は今になっては、受けるべきではなかったと思っていますが、当時の私にとっては面白そうだからとその場で快諾してしまいました
提案を受けたその数日後、私は棺桶の中にいました
何故か、死体検案書が発行され、両親への話も終わり葬式が執り行われることになっています
ちなみに、メディアには、遺族が取りあげないでくれと言っていると伝えられているのでほとんど報道されていません
この医者いったい何者なんだろうなとか思っている間に私は運ばれ、火葬されることになりました
ここにも話が通っているらしく、火葬室に私が入った後はランプをつけて家族や親族の人に控室に戻ってもらった後、私は外に出て、代わりに作った骨を中に入れて焼きました
生前葬儀という、あまり体験できないものを体験できて面白かった一方で、ちらりと見えた両親の表情がが表面上だけ悲しんでいるようにしか感じなかったのを今でもはっきりと覚えています
また数日後、今度は変装をして裁判所に来ていました
自分の死亡事故の裁判を見る機会なんてないので結構興奮しています
加害者は20代男性
髪を金色に染めていて、ピアスをしているという典型的なDQNっぽい人でした
実際、口調も悪くて全然反省しているように見えなかったのでそうなのかもしれません
加害者側の弁護士のあきれたような顔を見て思わず笑いそうになりましたが担当医さんに足を踏まれ何とか耐えていました
両親の顔は、嫌な予感がしたので一度しか見ていませんが、なにかに囚われているように感じました
蛇足というか、どうでもいい話ですがこの人は3か月前から違法薬物に手を出していたようです
判決結果がでました
懲役18年の実刑判決と一億ニ千万円の賠償金だそうです
担当医さんに話を聞くとちょっと多いかな?と言っていましたが、法律に詳しくない上に、裁判の内容も全然頭に入っていなかったので実際どうなのかはわかりません
両親は、私にそこそこ多額の保険金をかけていたようなので実際入るお金はそれ以上でしょうか?
この判決がなされたとき、両親の顔が少し緩んだのは私の見間違いでしょうか?
ここからが本題です
私が担当医さんに提案されていた『死んだ娘が戻ってきたらどんな反応をするのか?』ということで私は担当医さんと家の前にいます
担当医さんが、今時珍しいカメラのついていないチャイムを鳴らすと、少したってから母が出てきました
声は少し沈んでいて、落ち込んでいるような雰囲気でしたが、18年も一緒にいたのだからわかります
全然落ち込んでいません。むしろいい化粧品でも買ったのか、肌が潤ってます
ちょっとショックでしたが、顔には出さずに口を開きます
「お母さん、ただいま」
それを聞いた母は、驚き、目を見開きました
が、すぐに元に戻り、こういいました
「私の娘は先日死にました。いたずらにしては不謹慎すぎますよ」
私は、さらにショックを受けました
自分の娘だとわかっているのに、気づいているのに、気づかないふりをされている
何も言葉は出てきませんでした
それを見た担当医さんは、謝罪をして、私を連れて病院に戻りました
次の日、父のいる会社に行きました
今度は、怒鳴られました
悲しいとか、辛いとかは一切感じませんでした
ただただ、おかしかったです
思わずその場で笑いそうになるくらいでした
だって、自分の娘が返ってきて顔も見せているのに、怒鳴られる
もう笑うしかないじゃないですか
なので後日、まだ契約されていた私のスマホで両親に電話をかけました
「私はあなた達を絶対に許さない」と
さて、ここまで書きましたがどうだったでしょうか?
このお話はこれで終わりです
その後、私がどうなったか気になる人もいるかと思いますので一応記しておきます
自殺しました
恐らくですが、ニュースにも出てる頃だと思います
自殺の理由ですか?
私は、両親のようにはなりたくありません
ですが、遺伝子で自分もああなるのではないか?
そうでなかったとしても、私は両親に育てられました
確実に、影響を受けているはずです
こんな理由で自殺をするなんて馬鹿みたいだろおもいますか?
私の持論を言いますと、どうせ生物は死ぬのです、死に方なんて関係がありません
寿命で死のうと、病気で死のうと、他人に殺されようと、自らの手で死のうと
死ぬことには変わりないのです
寿命で死ぬ人をあなたは馬鹿みたいだと思いますか?病気で死んだ人を馬鹿みたいだと思いますか?
自殺に追い込まれる人は大抵、勇気の出せない人が多いです
そんな人たちが恐怖に打ち勝ち勇気を出して自ら死ぬ道を選んだことに対して私は敬意を表していました
まあ、私はまたちょっと別だと思いますが
この紙も空きスペースがなくなってきたので気になっている事を
両親への恨みつらみではなく、あの担当医さんのことです
彼は結局、なんだったのでしょうか?
ネームプレートを胸につけていたはずなのですが名前が思い出せません
顔もぼんやりとしか覚えていません
私が覚えているのは不思議な担当医さんがいたということだけです
彼には感謝していますが、それと同時に恐怖もしています
最低でも骨折していたであろうこの体がほぼ無傷だったりしたのも彼の仕業かもしれません
最後に一つだけ、お願いです
私のような両親はほとんどいないと思います
これを見てもあなたの両親を疑わないでください