領地想いの子爵令嬢
申し訳ございません、平成29年11月5日20時に大きく修正しました。
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「おとうちゃま、なんじぇにちのはちはなおだないの。」
「ん・・ああ、橋のことかあの橋を直すためにはこれだけのお金がいるのだよ。だから今は無理なのだよ。」
「おたちいよ、ここのきんがくがおおきちゅぎるの、きっとまちがっているの。」
「うむ、確かに間違っている。これなら橋を直せるぞ。」
「やったー!おとうちゃまじゃいちゅき。」
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「行ってらっしゃいませ、お屋形様」
久しぶりに領地に帰ってきたウィサヴィラ子爵が家族を連れて湖に出かけていくのが見えます。
私は離れのテラスで馬車が見えなくなるまで眺めていました。
「さて仕事の続きです。」
休憩を終えた私は、執務室で書類仕事の再開です。
何ですかこの多額の宝飾品の請求は、また子爵夫人の無駄遣いですか・・歯がゆいですがこれは私では止められません。
しかし
「この見積もりを出してきたのは誰ですか。」
単価が明らかにおかしい見積もりを補佐役の騎士に突き返す。
「これは西のアルバスを任せている、騎士エクセアですが、何か問題がございますか?」
本気で言っているのですか・・・
「契約しているドロス商会の単価表と見比べましたか?」
しばらくして騎士も理解したみたいです。
「些細な額の違いなど気になされる必要は無いのではありませんか。」
まって、あれだけの時間をかけて考えた答えがこれなのですか・・
「もういいです。騎士エクセアと直接話をしますから、あなたがアルバスに行き、速やかに彼を連れてきてください。」
役に立たない補佐役の騎士を追い出して仕事を再開します。
「お嬢様、お茶のお時間でございます。」
いつのまにか日もすこし傾いていました。
私はいつものテラスに向かいます。
「あら、今日のお菓子は素敵ですね。」
きっと、子爵たちが持っていった分の残り物でしょうけど・・
しばらくして庭を眺めると湖から帰ってきた子爵の馬車が見えます。
馬車が止まると子爵家の跡取りが飛び降りる。
「まあ、お行儀が悪い。」
つい口に出してしまいましたが、この距離で聞こえることは無いでしょう。
しかし、子爵も子爵夫人も笑っているだけで注意している様子がありません。
子爵家の跡取りなのですからもう少々何とかならないものでしょうか。
私の仕事をいずれはお任せしなければならないのに・・
期待が持てない未来にため息をつきつつ執務室に戻りました。
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私も十二歳になりました。
子爵家に仕えている騎士の家からも子息や令嬢が王都の学園に入学していきます。
私は机に並べた大量の書類から数枚を取って部屋の外に出ました。
「騎士ジリス、東の領地に向かいます。」
少々心配ですが、補佐役の騎士に準備を任せます。
「わかりました、お嬢様」
着替えを終えて離れの玄関を出ると一頭の馬に荷物が詰まれています。
いつもの事なのであきらめて馬に飛び乗り東の領地に向かいます。
ハア、うちの領地はなぜこうも子悪党や馬鹿が多いのでしょうか。
私は申請された計画書を机に叩きつける。
「騎士タリスト、この橋の修繕はこちらで行います。」
「それは出来ません。すでに幾つかの商会とは契約をしております。」
子爵の承認がないのに契約したというのですか。
「貴方に拒否権など無いのですよ。橋を新たに掛けられる予算を使って修繕するなどばかげています。このことは子爵に報告しておきますので解任されたくなかったら貴方の責任でその契約は破棄しなさい。」
騎士は不満そうな顔をして、こちらと目をあわせようとしない。
「一週間以内に報告がない場合はこちらにも考えがあります。」
そう言って私は次の領地に向かう。
明後日は大事な用事があるので、今日中に後一箇所回らないといけません。
これでまた商人からの信用が低下してしまいますけど、悪徳騎士に群がってくる悪徳商人が相手ですから良いことにしておきましょう。
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私は王都にある美しい学園の前にいます。
学園の門番に貴族の紋章を見せて乗ってきた馬を預けます。
今日はお茶会の作法とダンスの試験です。
自信がある者は毎日学園に通わずに試験のときだけ登校することも可能です。
更衣室でドレスに着替えて試験会場に向かいます。
やはり試験前は緊張します。
大丈夫なはずです。この日のために一人ままごとと空想の王子様とのダンス練習を・・・ちょっとだけ泣いてもいいでしょうか。
気持ちを切り替えて、今回ご一緒する令嬢たちにご挨拶をいたします。
「ウィサヴィラ子爵の三女ミィリシェアと申します。今日はよろしくお願いしますね。」
私から話しかけられて皆さんは少々驚いたご様子です。ドレスは地味でも子爵家ですわよ男爵と騎士爵家の皆様
試験のことは話したくありません。
まあ話す相手なんていませんけどね・・・
次の試験前は教師を雇おうと心に決めました。(ああ、わたくしのお小遣いが・・・)
悲しい現実は忘れて昼食にいたしましょう。
食堂で子息や令嬢と楽しく談笑している婚約者のコレスト伯爵の次男シスバーン様を見つけてしまいました。
どうしましょう、ご挨拶くらいはしたほうが良いかしら。
そう思い近づいて行くとシスバーン様が目を細めて私を睨みました。
今は都合が悪いようです。気を利かせて視界に入らない食堂のすみでお食事をいただきます。
「あら、美味しいわ」
毎日こんな食事が食べられる寮生がうらやましくなりました。
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月日が経つのは早いもので学園主催の夜会を終えたら卒業です。
私はこの三年間のことを思うと涙が出てきそうです。
一年生のときは西のアルバスを任せている、騎士エクセアを解任し、二年生のときは子爵夫妻たちが長期旅行に出かけて魔力不足を補うのに苦労し、三年生のときは私の自由に出来るお金をためて婚約者に贈った一点物のアクセサリーを他の男性が着けていて驚いたり本当に色々ありました。
心残りは騎士タリストを解任できていないことです。
いけません、今日は婚約者に会うために学園にきたのです。
夜会は五日後だというのにお手紙を出しても一度も返事が返ってこないので、直接お話しするために来たのですから。
あちこち探し回り学園の中庭で見つけることが出来ました。
シスバーン様は、男爵家のご令嬢と談笑しておられます。
あ、また睨んできましたが今日を逃すと後が無いので無理にでも聞いていただきます。
「ごきげんよう、シスバーン様」
「・・・」
いくら親が決めた婚約者だからといって、さすがに無視するのはどうかと思いますよ。
「ねえシス、この女だれ?」
私のほうが誰ですかと聞きたいですわ。
「お初にお目にかかります。わたくしウィサヴィラ子爵の三女ミィリシェアと申します。」
「え、子爵家・・・」
驚いたのはわかりましたけどそちらはどちら様ですか・・美人ですけど色々と残念な人みたいですわね。
彼女は無視して当初の目的を果たしましょう。
「シスバーン様、夜会のエスコートの件でお話がございますの。お時間をいた「シスは私をエスコートするのよ、勝手に割り込んでこないで!」」
はて・・
「シスバーン様、さすがに婚約者を無視して他の方をエスコートされるのはいかがなものでしょうか。」
たとえお飾りでも婚約者がいるのですから、それはまずいのではありませんか。
「ねえシス、あなた婚約者はいないって言ったじゃない。どういうことなの、遊びじゃ済まされないのよ。」
「いや、大丈夫だよ。両親にもこれから話して君との結婚を認めてもらうから。」
「当然ですわ、私はもう他の人へは嫁げませんもの。」
・・ちょっと待ってください。
これはおそらくあれをごにょごにょっとしてしまったのですね。
「シスバーン様、正式に伯爵家より婚約破棄の申し入れがあれば、相応の対応が可能だと思います。今日のところこれで失礼させていただきますわ。」
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今日は夜会の日です。
あれから伯爵家からは何の連絡もありませんが、待っていても伯爵家からエスコートのための迎えが来る様子はありません。
代理のエスコート役も用意していますし、とりあえず夜会へ向かいましょうか。
「ガリル様、今日はよろしくお願いいたします。」
「お嬢様、こんな老体でよろしければ、いつでもお相手いたしますぞ。」
ガリル様は子爵家の騎士の中で数少ない立派な騎士様です。
会場についてからも玄関ホールでしばらく待っていましたがシスバーン様はいらっしゃいませんでした。
「ガリル様、お願いいたします。」
会場内は可憐な花々が咲き乱れています。私は少々場違いに思えてきました。
「わたくしは草原に咲き乱れる花も森にひっそりと咲く花も、ともに美しいと思います。」
笑いかけてくるガリル様に私も笑って答える。
「ありがとうございます。」
会場のあちらこちらから奇異の目で見られているように感じます。
おそらく伯爵家との婚約関係で興味がおありなのでしょう。
ですがガリル様がそれとなくかばってくださいますし、ダンスにも誘っていただけました。
あのボンクラ婚約者様とは大違いです。
「お嬢様、申し訳ございません。久々のダンスで少々疲れてしまいました。今日はこの辺でおいとましませぬか?」
今日はガリル様のおかげで楽しく過ごせました。
「ええ、そういたしましょうか。」
会場を出ようとする途中で「あれが染められてから、光を失ったご令嬢」という声が聞こえました。
帰りの馬車の中でガリル様にその言葉の意味を尋ねましたが、なかなか教えてはいただけませんでした。
「お嬢様、お聞かせするのもはばかられますが、そのような噂があることをご存知でなければ、余計に問題が大きくなるやも知れませぬ。」
そこで言葉を切ってから目で私に問いかけてきました。
「かまいませんわ、教えてくださいませ。」
「あれはおそらく閨を共にした後で婚約者を奪われたといっていたのだと思われます。」
え・・ここは顔を赤くするところなのでしょうか、ですが私は困惑するしかありません。
そもそも、手紙を出しても返事がなく、婚約の顔合わせ以外でまともにお話をしたことも無い相手と閨をともにしたなどと言われても困ってしまいます。
「わたくしにとって、これは大きな問題ですわね。」
こんな噂が立ってしまっては、次の結婚相手など中年の後妻か色ボケ爺くらいです。
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はっきり言いましょう。私はあきらめました。
さようならローズマイヤー王国
あのあと義弟の結婚に悪影響があるからと、お義母様である子爵夫人に家を追い出されました。
父である子爵も何も言ってくれませんでした。お父様に褒めてもらうために今まで頑張ってきたのに・・・さすがに私の愛も品切れです。
噂は元婚約者様が私の屋敷の離れに泊まったことにして逢引していたためだそうです。
いい加減にしやがれこのくそ野郎!
せめて姉たちが居てくれたらよかったのですが遠方に嫁いだので、まだ手紙も届いていないでしょう。
お姉様たちと騎士ガリルそしていつもお世話になっていたドロス商会にだけお手紙を出しておきました。
数日をかけてやってまいりました。
ここはイースガルド王国ゲミスト伯爵領です。
騎士タリストに監視されながらゲミスト伯爵にご挨拶に向かいます。
「ここの領主様の奥様は先年なくなられたそうだ、頑張ればおまえでも後妻に納まれるかもな。」
そう言って下卑た笑みで見つめてきます。
この子悪党は、義弟に取り入って側近に納まっている。
お義母様には、三年間は子爵領に帰ってきてはいけないと言われているが、こんな状態で三年後も子爵領は存続しているのでしょうか。
そんなことを考えていたらいつのまにかゲミスト伯爵の前に到着していました。
「お初にお目にかかります。わたくしはウィサヴィラ子爵の三女ミィリシェアと申します。」
伯爵様はかなり不満そうな顔をしてこちらを見ています。
「そこの騎士よ、さすがにこのちんちくりんを妻には出来ぬぞ。だが約束どおり三年間は侍女として預かろう。」
最悪です。私はこの太った中年の後妻として売られかけていたのですね。
いろいろなところが小さくて良かった。
でも、うれしいけど悲しいよ・・
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意外とここの生活は快適です。
昨年までの領地経営と学園を両立させていた時より休みや休憩もあり気楽です。
「失礼いたします。」
先輩の侍女と一緒に伯爵様の執務室でお茶の用意をします。
今日は商人との取引のようで、机の上にはいろいろな契約書が置かれています。
こんなに散らかっていてはお茶を置く場所に困ってしまいます。
お茶を置くために少しだけ紙をずらした時に気付きました。
一部の金額が明らかにおかしいのです。
ですがこの場で侍女の私が発言するわけにもまいりませんので、少し離れている場所で立っていた騎士にそのことを伝えました。
子爵領以外でも悪徳商人は生息していたのですね。変な話ですが少々安心いたしました。
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――屋敷の片隅で――
「あの娘が契約書の仕掛けに気付いたぞ。まさか、お屋形様に我らのことが露見したのではあるまいな。」
「そんなことは無いはずですわ。同行した騎士に鼻薬をかがせて確認しております。ですが危険があるなら消えてもらうのが一番ですね。」
「まて、あれは他国の貴族だ。穏便に離れに隔離するのが良かろう・・」
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最近私の周りでおかしなことが起こります。
ガシャン
振り向くと誰も居ない廊下の花瓶が割れています。
あの、これはもしかしてお体が透けて見える方々の仕業でしょうか・・
割れた花瓶を片付けていると侍女長がいらっしゃいました。
「また貴方なのですか。」
弁償しろと言われても困りますのでしっかりと説明いたしました。
あの、少々心に刺さるので、さげすんだ目で見るのはやめてくださいませ。
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ここに来てもう二年です。
今の私の仕事は一人で離れの管理をしています。
部屋もここの一室に移されたので母屋へ一切立ち入ることも無く、侍女長の目が無いここは地上の楽園です。
水を汲むために外に出ると伯爵様がこちらを通られるようです。
私は脇によって控えます。
伯爵様がハンカチを落とされましたが、おつきの方がいらっしゃらないので直接伯爵様にお渡ししました。
後から来た騎士がこちらを睨んできましたが、どうしてでしょうか。
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――屋敷の片隅で――
「おい、あの女がお屋形様に手紙を渡していたぞ。」
「まさか、あの者は母屋に一切立ち入らせていませんし、商人たちとも合わせていないのですよ。我々のことに気付くはずがありません。」
「くそっ、あの女は目障りでしょうがない。最近少し成長したせいか、お屋形様もすこし興味を示しだした。今のうちに帰国させられないものか。」
「わたくしに考えがありますわ。知り合いの家の男爵様が少し成長の遅い娘を探しているそうです。」
「良いのか、それではウィサヴィラ子爵との約束が・・・」
「問題ございませんわ。子爵との約束は三年以上国外に留め置く事ですもの別に結婚して一生帰らなくても問題ないのですよ。」
「だが、どうやってお屋形様も説得する。」
「男爵様から紹介料がもらえることに成っております。あの者が間者で無いなら、お屋形様は頷いてくださるはずですわ。」(しかし、頷かれなかったら・・・ここも潮時かもしれませんわね。)
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うわ、侍女長だ。
「ウィサヴィラ、お屋形様がお呼びです。付いてきなさい。」
私の楽園は唐突に魔物に蹂躙されてしまいました。
しかし伯爵様にお会いするのも久しぶりです。
「お屋形様、ウィサヴィラを連れてまいりました。」
「ウィサヴィラ、侍女長の報告によると君の態度には少々目に余るものがあるようだ。この状態で君をこのまま屋敷においてはおけぬが、ウィサヴィラ子爵との契約もあるので縁者の家に行ってもらう。」
最近は物も壊れていないし何か問題を起こしたでしょうか・・
そう思い侍女長を見た瞬間にいろいろなことが理解できました。
今までなぜ気付かなかったのでしょう、この目は子爵家の悪徳騎士たちと同じ目です。
私のここでの立場は一応行儀見習いに来た他国の貴族です。
それほどひどい扱いはしないでしょう。
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はあ・・
この展開にも慣れてまいりましたよ。
さようならイースガルド王国、こんにちはヴェルアス王国
伯爵!縁者の家って国外ですか。
さあここが新しい職場です。明日からお仕事を頑張りましょう。
・・・・・・・あれ・・・・・・
あの日から三食昼寝つきの生活を送っています・・・・鉄格子の中でですけど。
エレビア男爵のお屋敷で朝を迎えることなくヴェルアス王国の騎士団にお屋敷が包囲され全員が拘束されました。
ヴェルアス王国の騎士は私がミィリシェア・ウィサヴィラであることだけを確認すると鉄格子付きの馬車に押し込みました。
そして今も私は馬車の中です。こいつらは何を言っても申し開きは王都でせよと、それしか言いやがりません・・
窓から見えるのは低木が幾つか生えている草原です。
チャンスは今しかありません、このままでは大変なことになってしまいます。
私は意を決して口を開いた。
「お花を摘みにいかせてくださいませ・・・」切実な問題なのです。
外には出してもらえました。
ですが、茂みの向こうで見えないからといって男性騎士に見張りをさせるのは少々配慮が足らないのではないでしょうか。
くそっ、王都についたらしこたま賠償金をせしめてやりますわ、覚えていてくださいませこの畜生様方・・
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――王城の一室で――
「ミィリシェア・ウィサビィラが到着しました。」
「ごくろう、あの者は邪神に心をささげた悪の巫女だ、手足を拘束し猿轡をかませて祈りを捧げられないようにしているだろうな。」
「も、申し訳ございません。」
「馬鹿者!! あの者の言葉に何人の高位貴族がたぶらかされたと思っているのだ。情けを掛けるな。そして、監視の者も必要以上に接触させてわならぬ。」
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「ミィリシェア・ウィサビィラ伯爵令嬢、神聖なる巫女の力を得ながらこのような悪事に加担するとは許しがたし、よって死罪を申し渡す。」
「んんーーーー!」
「異論が無いようであれば次の「んんんーー!!!!」」
「見苦しいぞミィリシェア・ウィサビィラ、陛下の御前である静かにせぬか。」
冗談じゃないぞこいつら、猿轡をかましておいて異論もなにもあるかー!
「よい、最後に一言くらい話させてやれ。」
「わかりました国王陛下」
猿轡がはずされたので最後の一言とやらを言って差し上げますわ。
「わたくしはローズマイヤー王国ウィサヴィラ子爵の三女ミィリシェアです。伯爵家ではなく子爵家、巫女ではなく騎士、あとウィサビィラじゃなくてウィサヴィラです。証拠にローズマイヤー王国発行の貴族の紋章もございますわよ。」
さあ、あなた方にとって最後の一言ですわよ。
私の鋭い視線に国王陛下は少し目をそらした。勝った!
その後は私の独壇場です。
涙ながらに護送されていた時のことを語ったり、猿轡をかまされてこの場に連れてこられて怖かったことを話せば周囲の同情はうなぎのぼりです。
「ですけど、光の輝きが強ければ、わたくし色々な事を忘れてしまうかもしれませんわ。」
宰相様が驚愕のまなざしで私を見ています。
守銭奴と言われようがかまいません、お金さえあればお姉様たちの家に居候してもご迷惑にならないはずです。
三年帰らないなんて、私は子爵と約束していない。
帰りたい・・・
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――王城の一室で――
「どうしましょうか、貴族の紋章と騎士の力を確認したところ、外交部と騎士団から偽りなしとのことでした。騎士と巫女の力は両立させることは出来ません。」
「では、あの者はローズマイヤー王国の貴族で間違いないのだな。」
「そのようでございます。」
非常にまずいことになった、ローズマイヤー王国と我が国では国力や影響力が桁違いだ。ここは穏便に解決しなければ・・・
「騎士ウィサヴィラがあの場で申していた通り金銭で無かった事にするのが一番ではないかと思われます。」
「しかし、魔獣の森付近ではよく行方不明になる者もいる。そのほうが確実ではないか。」
「騎士ウィサヴィラですが、ローズマイヤー王国のヴィルムマイヤー公爵家とのつながりが確認されました。やめておいたほうが良いと考えます。」
「ぐっ・・わかった、必要な処置をせよ。だが、騎士の誓約書で確実に言葉を拘束しておけ。」
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私の生活は激変し、監禁場所は牢獄から王宮の貴賓室に変わりました。
いくら私が下級貴族の子爵家であっても国力差が倍もある国の貴族に対して、今までの対応は大きな問題となるはずです。
「今回のことでウィサヴィラ子爵令嬢にはいかばかりかのご尽力に感謝しております。お礼として些少ではございますがこちらをご用意しております。」
宰相付きの文官と名乗った男が菓子箱を開いてこちらに見せました。
対外的には今回の件に協力したお礼にするのね。
「あら、この国の方は贅沢なことがお嫌いなのかしら。清らかではない場所にいた事を素敵なお菓子で忘れてしまいたかったのですけど残念ですわ。」
一ヶ月も鉄格子の中に拘束しておいて冗談ではありません。
文官が控えている騎士に目配すると少し大きな菓子箱がテーブルに置かれました。
これ以上要求しては消されるかもしれませんね。
「あらなんて素敵なのでしょうか、流石はヴェルアス王国です。すべてが洗練されていますのね。」
私は騎士の誓約書にサインをしました。
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ヴェルアス王国の騎士が私をローズマイヤー王国まで送ってくれました。
途中で色々ありはしましたが、無事にソフィリアお姉様の嫁ぎ先の家に到着です。
「お世話になります。リアお姉様」
「ミィリー、おかえりなさい。手紙が来たときは驚いたけれど、詳しいお話は聞かないほうがいいのよね。」
「ごめんなさいリアお姉様、そうしてくださいませ。」
「お茶にしましょうか。あなたと色々お話したいこともあるのよ。」
私のお話が終わると、次はウィサヴィラ子爵領の話になりました。
「わたくしたちはもう子爵家の者ではないからあまり口出しできないのよ。」
子爵領の状態はこの二年で極端に悪くなっており、他家に嫁いだお姉様たちにも借金の申し入れがあったそうです。
まずは情報収集をいたしましょう。
私はドロス商会の商会長に面会を求めるお手紙を書きました。
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「ご無沙汰しています。ヴィルムマイヤー公爵夫人、今日はお時間をいただきありがとうございます。」
「ミィリー、お元気そうで何よりですわ。」
フィルスリィーナ様は微笑んでおられますが、少しだけご機嫌がよろしくないようです。
「ミィリー、わたくしたちお友達ですわよね。」
ああ、そうでした。
「リィーナ様ご機嫌を直してくださいませ。」
「ふふっ、今良くなりましてよ。」
リィーナ様から色々な事を聞かされました。
「ここまでよろしくない状況とは思いませんでした。」
何かしないといけないのですが、どうにも考えがまとまりません。
「ドロス商会は次のウィサヴィラ子爵に投資しようと考えていますの。受けていただけるかしら。」
えっ・・・
「い、今は決めかねますので。後日必ずご返事させていただきますわ。」
「もちろんよ、お気持ちが決まったら連絡してくださいませ。」
どうしよう・・
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「リアお姉様、どうしたらいいと思いますか。」
私は色々な事がごちゃごちゃで考えがまとまらないのです。
「ミィリーは何を迷っていますの。」
「リアお姉様もわたくしが子爵になったほうが言いとおっしゃるのですか。」
私の問いかけに姉は優しく微笑んだ。
「ここに居ればいいじゃないの。あなたが何かする必要なんて無い、だけど悩んでいるのよね。・・・・・それはなぜ」
なぜ・・
「わたくしは子爵領が好きです。たしかに苦手な方も居ますけど、それ以上に素敵な方もいっぱい居て・・・・・帰りたいです。」
少し気持ちがまとまりませんが、心は決まりました。
「いってらっしゃい、ミィリー」
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「姉上、よくこの家に顔を出せたものだね。」
そう言いつつも義弟は私の後ろにいる騎士たちに少しおびえているようです。
「ヴァルツ、今日は子爵家の借財の話をしに来たのよ。」
義弟の顔は忌々しいといわんばかりです。
「毎月の利息すら返せていないし返済期限が過ぎている物も幾つかあるの、このままでは数年後には王都から監察官が来て悪くすれば領地を召し上げられるのよ。」
私は金額と返済期限の一覧を義弟に差し出す。
子爵家の借財の証文はドロス商会がすべて買収して私に無担保で貸してくれました。
「さんざんこの家をむちゃくちゃにしておいて今度は脅迫ですか!」
「わたくしあなたの言っていることが何なのかわからないの、説明してくださらないかしら。」
義弟は馬鹿なことを散々まくし立てました。
「これだけの事をしたのだから、その借財は全部こちらに返してもいいはずだ。」
この子では駄目ね・・・
「変な話ね、わたくしが領主代行をしていた時は借財なんて一つも無かったわよ。そして、離れを私物化して調度品やドレス、宝飾品を買いあさったというのも記憶に無いわ。ちなみに、あなたはそれらを見たことがあるのかしら?」
「すべて売却して借財の返済に充てたと聞いている。」
隣の離れでさえ見に行くこともしなかったのね。
「では見に行ってみましょう。」
私は義弟を引きずって離れに移動しました。
以前とまったく変わっていませんね。
「おかしいわね、どの部屋にも使い古された調度品がありますし、わたくしの使っていた部屋のドレスもそのままですわ。これはどういうことかしら。」
義弟は呆然としている。
「ヴァルツはわたくしが子爵領を駄目にしたとおっしゃるけど、自分でしっかりと調べたのかしら。それに、借財の日付はわたくしが隣国に行ってからのものしかなかったわ。そして、これが騎士ガリルが調べてくれた不正をしている騎士とその内容よ。」
「そんなことはありえないダリストやジリスはそんなこと言わなかった。」
「馬鹿!」
義弟は驚いて私を見た。
「ウィサヴィラ子爵はあなたなの騎士ダリストでも騎士ジリスでもないわ。あなたが確認して正さなければならなかったの。」
義弟はぶざまに泣き出した。
「ヴァルツ、これはウィサヴィラ子爵領の借財よ。あなたがウィサヴィラ子爵でなくなれば払わなくていいのよ。」
甘やかされて育ったあなたには、この現実はつらいでしょう。
「あなたには湖の近くにある別荘をあげるわ。爵位、譲ってくださるわよね。」
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「何をするの放しなさい。」
今日は王都にある子爵の別邸を掃除しています。
「あら、お義母様お引越しの準備に何か不備がございましたか。」
「あなた、こんなことをして許されると思っているのですか。」
後ろでうなだれているお父様をいちべつする。
「許すも何もこれはお父様のご提案ですのよ。」
お義母様が騎士に引きずられていく。
「ミィリシェア、これから私たちをどうするつもりだ。」
お父様が問いかけてきた。
「あら、お父様たちは病気療養のために湖の近くにある別荘に行かれるのでしょう。わたくしは、借財まみれのウィサヴィラ子爵領の再建で忙しくなるので、そちらはお父様にお任せしますわ。それとも、お父様がウィサヴィラ子爵になってくださるのかしら。」
私は馬車に向かうお父様を見送りました。
(さようなら、お父様)
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爵位の継承は簡単に承認された。
王国法に照らしても問題は無いのだけれど、これほど早いとは思いませんでした。
おそらく、あの方が何かなさったのでしょうけど。
子爵領の現状は色々な所から回収した物と私の個人資産である程度は返済できたのですが、全額返済には時間がかかりそうです。
ところで、昨日面白いことがありました、不正をしていた騎士を解任したので王都に求人を出しましたら、なんと元婚約者様が応募してきたのです。
当然、面接でいたぶった後で不採用にして差し上げましたわ。これくらい当然ですわよね。
「ウィサヴィラ女子爵」
「騎士ガリル今日はどうなさったの。あら、後ろにいらっしゃる騎士様はどなたかしら。」
ガリル様の後ろにはさわやかな印象の騎士様がいらっしゃいます。
「この者はわたくしの孫のコルトです。ミィリー様のお役に立てればと思い連れてまいりました。」
「騎士コルトと申します。以後よろしくお願いいたします。」
その後のことはご想像にお任せしますわ。
(性格も遺伝することがあるのですね)