三日目
入学式や今後の学校生活についての説明も無事終わり、私は帰路に付いた。
公立海森高校は山の上にあり、夏なんかは汗まみれの息切れ行進で登校するそうだ。
私はそのきつい坂を下って帰る。後ろからは同学年の人間が数人、新しい友達と笑いながら帰っていた。
友達なんかいらない。邪魔な事この上ない。
7年前の出来事をきっかけにそう思った。今ではその考えが染み付き、私の座右の銘とも言えるだろう。
伊織
私のこの名前は、母親が付けたのだ。
江戸時代初期に宮本伊織という剣豪が居たそうで、女でも強い子に育って欲しいという願いを籠めた名前だそうだ。「伊織」とは普通、男につける名前で私は幼い頃、よくそれでからかわれたものだ。
母の願いは、少しの間しか叶わなかった。
一人俯いて唇を噛む。
悔しくて、情けなくて。
けどもう変われないから仕方が無い。ふぅっと息を吐いて顔を上げた。
だが、顔を上げたことを後悔する。
「お、雫下~!!」
森北だ。
坂が緩やかになった先で、地図を手にバサバサと腕を左右する。地図飛んでくぞ。
私は露骨にも口を曲げる。こいつはもう生理的に無理だ。五月蝿いし元気だしイケメンだし。もっと静かにできひんのかワレ。
隣に居た同じクラスの男が、森北をどうどうと抑える。
曲げていた口を元に戻して、二人の横を通り抜けた。森北が何やら叫んでいたが、聞く耳を持たない私は早足で歩き続けた。
家に到着し、合鍵で扉を開く。
家には誰も居なくて、食卓の上に置手紙が広げてあった。
“伊織へ
おかえりなさい。お兄ちゃんの所へ行ってますから、帰りは9時過ぎになりそうです。冷蔵庫の中のお弁当チンして食べてね。 母より”
空白の部分には、私のチビキャラが描かれていた。
時計を見れば1時半。随分と暇になってしまった。
こういう場合、LINEで友達を遊びに誘ったりするのだろうが、私は友達が居ないからそんな事は一切無い。自室へ入り、鞄を適当に放ってベッドに倒れこんだ。
__学校ってストレス溜まんなァ・・・




