一日目
なあ、モノクロって知ってる?
そうそう、白黒のアレ。
色の付いてないアレだよ。
モノクロは、私の日常だ。
日常に、色が付かない。
目で見る世界では、色が付いてる。
けど、感じない。
色を感じない。
そんな日常を、もう7年も続けてきた。
ヒラヒラと桜の花弁が舞う。宙を舞っていた桜は、数枚が窓の桟に落ち着き、他はまた空に舞い上がっていった。
春の初めにしては、気温が高い今日。ふわふわと浮かれる空気だ。
入学式を終えた私、雫下伊織は教室で校長に言われた通り待機していた。
私の周りでは、盛んにお喋りが飛び交っている。友達を早く作ろうとして騒がしい。例えるなら、夏の終わりに必死にジージージージー鳴く鬱陶しい蝉のようだ。
――そのペンポむちゃ可愛いね、どこで買ったの?
――俺はサッカー部入ろうかなーって思ってる。お前は?
お互いの情報を交換し、相手の性格を見抜いて相性が合うかと瞬時に判断する。もっとも、長い年月を経てやっとお互いの腹の底が見えるような人間もいるが。
私も何度か話しかけられたが、断固無視。友達と偽ってただツルむだけの人間関係なんかいらない。
だが、騒がしく喋るだけのクラスじゃあない。静かに読書をするやつらだっている。正に十人十色だ。
で、私は相変わらず窓の外を見ている。
時折吹く暖かい風が前髪を靡かせるのが気持ちいい。
よく小説やら漫画やらであるよな。窓の外見てたら、なんか男の子が遅刻してきてしかもイケメンで一目惚れ!
・・・本当にあったらキショいわ。
大体遅刻する時点でイケメン失格だろう。
当然そんなハプニングは無く、広い運動場の上で桜が舞い、更にその上で太陽がじわじわと気温を上げるだけだ。頬杖を付いてうつらうつらとする、緊張感等全く無い私。その頭の上から、元気な声が降って来た。
「おっはよ!」
私は声の主と顔を合わせ、「・・・はよ」と返す。
ツンツンバラバラと無造作な黒髪。
黒目がちの大きな瞳は、キョロキョロと盛んに動く。
「いやァ、道迷っちまってさ。遅くなった!」
ニィッと爽やかな笑みを浮かべ、隣の席に着く。が、またすぐ立った。
「ここ、俺の席だよな?」
と机の横に張り付いている名札を確認する。名前が合っていたのか、またどすんと座った。落ち着きの無い男だ。
「俺の名前は森北連!『連』って書いて『ツラネ』って読むんだ。よろしく!えーと・・雫・・下・・」
どうやら私の苗字が読めないらしく、むむっと考え込む。私はまた視線を窓の外へ移した。
「わかった!『シズクシタ』だ!で、『イオリ』!」
・・・危うく頭を机にぶつける所だった。
そのままじゃねーか、「シズクシタ」って!もうちっと捻りのある間違え方しろよ!
・・・と心の中で叫びつつも、外見は真顔だ。
私は盛大に溜息をつき、じろりと冷たい視線を森北に寄越す。
「『シズクシタ』じゃなくて『シズクイ』下の名前は合ってる」
「おぉ、じゃあ『シズクイ イオリ』だな!宜しく雫下!」
「・・・よろしく」
内心はよろしくする気なんてさらさら無い。むしろ疎遠したい。男も女も五月蝿い輩は嫌いなのだ。