2話
学生が住むには不釣り合いな、高級マンションの一室で、ガラガラガラと何かを混ぜる音がしている。
「それで、どうして今日は休んだんだい?佐藤君」
そう問いかけたのは、部屋の主の藤原聡介、実家が金持ちらしく、顔立ちには育ちの良さが滲み出ている。
「ん、寝過ごした」
カチャ、パチと牌を打つ無機質な音が続いていく。
「寝過ごしたって・・・まぁ、代返はしといたぜ」
全自動卓を囲む四人の内の一人、体格がよく自然な日焼け具合が羨ましい、狩野純。
「サンキュ」
パチッと牌を打つと、「ロン・・・ザンク・・・」無警戒で振り込んでしまった。
集中力が足りない、今日は勝てなさそうだ。
和がった男に3900点を渡すと、紙束を渡してきた。
「コピっといたよ・・・」
どこか覇気が足りない、まぁ俺にもないけど、神田大地、物静かでいいヤツ。
「あざす。」
恭しくそれを受け取る、同じ学科の四人組、最近はいつも一緒が多い。
まぁ男四人で華はないけど、ちなみに藤原と狩野は彼女持ちだ。
「で、今日の廃棄は?」
「行き倒れてた爺さんにあげちゃった。」
「「ガーーン」」狩野と神田、彼らもまた貧乏学生だ。
「ふふ、佐藤君は相変わらずだね」藤原の性格には、育ちの良さはでていない。
意識が戻った後、一頻り笑い、スマホを見た。
3件メールが着ていて、どれも無断欠席を心配して送ってくれたもので、少し嬉しかった。
まぁ今日の麻雀にこれるかどうかの、確認メールでもあったのだが。
「そのネックレス、お洒落だね!佐藤君がアクセサリーを着けてるの珍しいけど。」
服装とかにかなり気を遣っている、藤原は気になったのか、
興奮気味に「どこで買ったの?」とか色々聞いてきたが、誤魔化した。
ミスリルの鎖に、世界樹を模す黄金の円環、その中央にはアメジスト色の宝玉。
こういった物には全然詳しくないけど、売れば相当な値段がつくだろう。
というより、ミスリルとか売るわけにもいかないが。
まぁお洒落で着けているわけではなく、魔導書の写本のような物だ、本ではないけど。
魔導書・・・『マルゴモスメノス』を開いた後、
無数の情報が流れてきた、その中でも魔導書の原本が周りに及ぼす影響は、看破できない。
耐性のない者や、素質のない者が見ただけで心を蝕み、発狂する。
それ以外にも、存在するだけで、危ないモノを引き寄せたりするらしい。
なので今は【ストレージ】―空間系の魔術で、異空間庫を創り出す―にしまってある。
そのままだと魔術を十分に使うことができないので、
写本を魔術で創ったら、何故かネックレスができたんだよね・・・。
「ツモ、4000オール!」
狩野の張りのある声が響く、ちなみにこのマンション防音付きだ、見事にハコテンでラスに終わる。
明日の昼飯は、俺と藤原のおごりが決定した。
「うがー、今日はダメダメだな、とりまバイトいくわー。」
今日もバイトがあるので先に帰る、俺が抜けると3人になってしまうが、まぁ違うゲームでもするのだろう。
「またねー」と見送られて部屋を後にする。
高級マンションから見下ろす街並みは明るい、大学や短大が多く、学生の賑やかな喧噪が聞こえてくる。
マンションの一階には向かわず、屋上へと足を向ける、試してみたいことがあるのだ。
屋上には満天の星空、幸いにも他には誰もいないようだ。
バイト先のコンビニの裏、ダンボールやケースなどが置いてある、人目のつかない場所をイメージする。
「ディスト・アイ!」
呪文名を唱えると、僅かにネックレスが光ったような気がする、
それと同時にイメージした場所の風景が脳裏に映る。
「よし・・・、誰もいないな」
誰もいないことを確認し、新たな呪文を唱える。
「ワープ!」
その短い呪文よりも、さらに短い時間で目的の場所へと姿を現す。
「あっはは、便利すぎわろた。」
いつもは、自転車で20分は掛ける道のり、それを一瞬でいけるのだから笑いも止まらない。
「思ったより魔力の消費が少ないな?魔導書が補ってくれているのか」
魔導書は周囲の自然や、生物の生命力、と言っても奪い取るわけではなく、発散しているものを吸収している、
それらを魔力として変換してくれている。
魔導書の主となったことで、空の器には魔力が満たされた。
誰にでも魔力を持つ器はあるのだ、満たし方を知らないだけで。
「まだまだ、色々試したいことがあるんだけどな〜」
新しい玩具を手に入れた子供のように、無邪気に笑う。
半日ほど前まであった、陰りは見えず希望に満ちている。




