凍雨
★
あいつとの関係がなんかぎくしゃくしてる。
この間用事あるって断ったからか?
けど、空に今までみたいに
「うちこいよ」って言えるわけない。
俺に会うと、あいつは逃げようとする。
よく意味わかんねぇ俺は、空のクラスの奴に声をかけ呼んでもらった。
廊下…
「おい、何怒ってんだよ」
「別に怒ってない」
目を合わせようとしねぇし。
ぜってぇ、なんか怒ってるよな。
「こないだ、俺用事あったからか?」
……。
「違うけど…あの日…」
「ううん…なんでもない。私次移動だから行くね」
教室に入って行ってしまった。
なんなんだよ、いったい。
☆
もやもやする。
こんな私知らない。可愛くない。
正門…今日は私の方が早かったみたい。
寒い…早く来ないかな、航…。
遠くからやってくるのが見えた。
私に気づくと、どこかほっとした笑顔を見せる。
「お前…いねぇと思った」
揺れる瞳で彼は言う。
普段強気なクセにこういうのってずるい。
無視してられなくなる…。
★
「あの日…まどか先輩と何してたの?」
あの日?…合宿の日のこと言ってんのか?
心臓が大きな音をたてて脈打つ。
「いや…俺…なんも言い訳できねぇけど…けどさ…」
…。
「最低!!…なら、私ともう付き合う意味ないじゃん」
空…泣きながら怒ってる。
けど、俺のしたことだから…どうしたら泣き止むか分かんねぇ。
黙ったままの俺に…空は突きつけた。
ずっと分かっていた答えだった。
「航、別れよ…私もう無理だよ」
☆
まどか先輩とのこと…
「違う」
そう彼からの否定の言葉を聞きたかっただけなのに…
ひどいよ、航。
★
俺…先輩が卒業したらこの関係を終わらすつもりでいた。
気持ち伝えるって決めてた…じゃなきゃ結局諦めきれねぇし。
けど、終わりはなんかあっけなかったな。
過去の間違い…
俺だって、後悔してる。
けど、その事実は消せなくて。
☆
3月…
明日は卒業式。
私が別れるって言わなかったら、明日までは航と付き合えていたのかな…。
けど、航もまどか先輩と浮気したってことがとてつもなく、悲しかった。
祐也先輩と同じじゃない。
結局、私とは航も本気じゃなかったのかな。
この1ヶ月…航と口聞いてない。
こういう時、違うクラスなのは救いだ。
☆
私と別れたんだし、またすぐ前みたいに誰かと遊ぶのかって思ったけど…
航の隣に女の子の姿はなかった。
中学の頃に戻ったみたいに、男子とふざけあって笑っていた。
自分から言ったのに、どこかほっとしてる。
★
「なにぼけっとしてんだよ」
2階から外を眺めていると、佑都に頭を叩かれた。
「また、お前空ちゃん、みてんの?」
「ちげーし、俺ら別れたから」
「うわ…マジで?けど、なんで?」
なんでって…
「昔の浮気」
「昔のって、なんだよそれ」
佑都は笑った。
★
空とは少しずつ仲良くなってるって思ってたんだ。
けど…
あいつは、まどか先輩と俺が付き合ってるって勘違いしてて…それ知って、やっぱ俺のことそういう風に見てねぇんだって分かった。
高1の夏…
部活の合宿が、テニス部と一緒になった。
あいつとの関係は進展しなくても、ただ一緒に過ごせるだけでも、嬉しいって思った。
その日の練習が終わる頃…洗濯物出すの1個忘れてて先輩に聞いたら、洗濯機に入れていいって言われて…
そしたら空と祐也先輩がキスしてた。
なんかどうでもよくなって…
けどマジでへこんで…
まどか先輩にそんな時、声かけられた。
先輩には、年上の彼氏がいて、よく相談されていた。俺の兄貴とたまたま同じ学校だったから、余計に。
それと…俺の空への気持ちがバレてた。
部活の時、空のこと見てたから分かったって。
俺…別にそんなに見てねぇと思うんだけど。
だから、たまに俺と空のこと聞かれてたりした。
よく言われてたのが、
「意気地無し」だな。
さっさと告白して砕けろとか、いつも強気なクセに草食だとか…マジでまぁ色々。
その日も…先輩の彼氏への不満を聞いた。
どうやら、彼氏が浮気っぽいらしく。
俺は…半分うわの空だった。
あいつと先輩の姿だけが浮かぶ。
「ねぇ、航…私たち付き合っちゃおうか?空ちゃんどうせ脈なしなんでしょ」
先輩が近づいてくる。
「なぁ、先輩…俺やっぱ無理なんかな?」
!?
いきなり先輩が俺の唇をふさぐ。
キスしているうちに…先輩の吐息が漏れて…
俺の手をつかんで…自分の胸に触れる…。
★
「どけよ」
俺はまたがっている先輩を押し退けた。
先輩はそのまま部屋を出ていった。
なんだよ…これ。
心臓がすげぇ勢いで脈うっていた。
息を思いきり吐き出した。
罪悪感…何に対して?
空と別に付き合ってるわけじゃねぇし、俺がこんなん感じる必要ねぇって思うのに…
どうでもよくなって、流されそうになった自分が
どうしようもなくて…俺を最悪な気分にさせた。
★
そんな状況、空に見られるなんて思わなかった。
「最低…触らないで!!」
軽蔑したような俺を見る空の目がキツかった。
言い訳できねぇし、何て言っていいか分からなかった。
合宿の日を境に、空は俺とのかかわりを切った。
俺…自分がしたことなのに…
なんで空分かってくんねぇの?って腹が立った。
あいつのこと忘れるために…告ってきた女と遊んだ。キスをねだられたらしてた。こんなんたいした意味ねぇって。
拗ねて、ガキくさくて。マジ最悪だった。
★
卒業式…祐也先輩はいなくなる。
けど、先輩がいなくなっても、結局なんにも変わんねぇんだよな。
2階から、窓の外を眺める。
花束を持った卒業生は、写真を撮ったり、仲間と学校への別れを惜しんでいた。
女の人だかりに囲まれてるのは、祐也先輩だ。たぶん、ボタンとかやってるっぽい。あと写真頼まれてる。
こうやって見てっと、穏やかで優しそうな先輩なのにな。二股って…
まぁ、俺も人のこと言えねぇのかな…。
先輩が…ふいに視線を移す。
その先にいるのは…空。嘘だろ…
俺…気づいたら鞄つかんで、一気に階段降りてた。
☆
「空ちゃん…」
帰ろうとした時…祐也先輩から声を掛けられた。
平然と話しかけてくる先輩の無神経さに腹がたった。
「ちょっと話いいかな?」
また笑顔…気持ちが落ちてしまう。
「先輩卒業おめでとうございます」
私は笑顔で答える。私の反応に表情がちょっと曇ると…
「空ちゃん、たくさん傷つけてごめんね。最後にもう1度謝りたくて…俺さ…」
「先輩…私、今航のこと大好きで、航しか見えないから…先輩からされた色んなこと、もう忘れてます。本命の彼女は大事にしてくださいね」
先輩が口を開きかけた時…
息を切らして走ってきたのは…
航…なんで?




