かすみ雲
☆
「先輩はお前のそういうとこ可愛くねぇって」
航の言葉はキツかった。
「 俺と付き合えよ」
なんか何にも分かんないくせにって…腹が立って…。
付き合うって言っちゃったけど…。
何がなんだかさっぱり分かんない。
航…私のこと心ん中ではきっと笑ってる。
からかってるんだ…ほんと最低…。
☆
「今日部活終わったら、正門とこ行っから」
話かけてくるわけでもないし、昨日のアレって冗談だよね…
そう思ってたのに、部活に行こうとしたら航に声をかけられた。
部活中、そのせいでなんか落ち着かなかった。
正門…夕日に照らされた背の高い陰。
「おつかれ」
航…ほんとにいたし。
「なにぼけっとしてんだよ?ほら、帰るぞ」
二人並んで歩く。会話ないし…気まずい。
「あの…さ、からかってんの?」
勇気を出して聞いてみる。
「何?別にそんなんじゃねぇし」
怒ったような口調の航。
ますます分からない。
「安心しろよ、祐也先輩卒業するまでだから」
また、あの時の表情だ。
中1の時…先輩のこと聞かれて航には関係ないって言った時…
「そっか…そうだよな」
そう言って笑った顔。
☆
「なぁ、これから帰れっ時一緒に帰んね?」
「別にいいけど…コウ今私といていいわけ?」
最近の航はいろんな子と付き合っては…別れての繰り返しだった。かなり遊んでるっぽい。
「あぁ…平気。俺今彼女と別れたばっかだし」
へらっと笑う。
☆
正門…また航いる。
先輩を見返すって言ってたけどどうするんだろう…
「ごめん、遅くなった」
「お前、試合でスカってただろ」
航は思い出したのか吹き出す。
「な…なによ、コウだってシュートはずしてたじゃん」
テニスコートからは離れてるけど、校庭…今日はサッカー部がメインで使ってたから、つい見てしまった。
「うっせぇよ、ってか空俺のこと見てたの?」
顔をのぞきこまれる。近いし…
「ち、違うよ、たまたま…だから」
私は慌てて航から離れた。
「だよなぁ、お前が見てんのは先輩だもんな」
……。
!?
急に引っ張られる。肩に航の腕が乗る。
何!?
彼の視線は歩いてきた集団へ向いている。
「さようなら」
航はその集団に声をかけていた。
集団の中には祐也先輩の姿があった。
「おつかれ…さまでした」
私も挨拶をする。まだ先輩の顔よく見れないのに。
「空ちゃん…おつかれさま、また明日ね」
先輩は何事もなかったかのように…笑いかけた。
……。
★
空と一緒に帰るようになった。
俺が無理矢理始めたこの関係。
バカなことしてるっては分かってんだけどな…。
空と話してたら、集団の中にあいつの姿を見つけた。あいつは、空とは別に彼女がいたらしくて…。
こいつがもう先輩のこと、何とも思ってねぇって、見せつけるためにやったのに…
何挨拶なんかしてんだよ。
ほんと腹立つ。
☆
「何話かけてんだよ、未練あんのバレバレ」
航は呆れたように、大きくため息をつく。
……。なんで先輩は笑えるんだろ。ちゃんと本命の彼女がいるから?
「空…今日うち来いよ」
「え?なんで?」
「なんでって…一応付き合ってんだからいいだろ」
半ば無理矢理、彼の家に連れて来られる。
私の家と割りと近いんだよね。河原の橋を挟んですぐ。
★
「あ、兄貴おかえり、あれ空さん?なんで兄貴と?」
部屋からでてきた弟くんに会った。
「高貴、邪魔すんなよ」
1つ下の高貴くん…中学の時以来だ。新しくできた西校に行っているらしい。
「あぁ、最近まどか先輩こねぇと思ってたら…そういうこと」
……。
「高貴…余計なこと言うなよ、空こっち」
彼の部屋の方へ引っ張られた。
☆
少年マンガやらCDやら重ねて無造作に床に置いてある。テレビにベッド、小さなテーブル。
「そこ座ってて、なんか飲みもん持ってくっから」
階段を降りていく音。
はぁ…なんか落ち着かない。弟くんの言葉…やっぱりまどか先輩もこの部屋来てんだ。なんで私、航の部屋に来てんだろ。
ふいにあの日の河原でのことを思い出してしまう。
あんなキス…
ガチャ
扉のあく音にびくっとなる。
「何びくついてんの?」
不思議そうに私を眺めている。小さなテーブルにはグラスに入った2つの麦茶が置かれた。
「じゃあ、やろうぜ」
無邪気にテレビの下からゲーム機を取り出す。
「おまえ、こっちな」
コントローラーを渡された。
☆
気づいたら2時間たってた。窓の外も暗くなっていた。
アクションゲーム…初めてやったけどすごく面白かった。航には下手って言われたけど。
さっきまでゲームに夢中だった彼が私をみる。
「ど?少しはスカッとした?」
あ…そっかさっきの…だから誘ってくれたんだ。
「うん、ありがと。私そろそろ帰るね」
「送る」
河原を並んで歩く。
なんでだろ…さっきまで悲しかったはずなのに…
私笑ってる。
そんな私を見て、彼も笑った。
☆
親友の美咲が私の前で呆れた表情を見せる。
「で、何?どうなってんの?」
「え?だから…先輩とは別れて…」
状況を説明しようとしたんだけど…
「いや、そこじゃなくて、なんで航くんと一緒に毎日帰ってんの?」
「あ…あのね…なんか付き合うことになってね…」
「なんで?空、あいつのこと嫌ってたじゃない」
「そう…だけど…、先輩のこと見返すの手伝ってやるって。航は本気で付き合ってるわけじゃないと思うし、平気だよ」
また美咲は大きくため息をつく。
「航くん遊んでる奴だし、騙されないよう気を付けなよ、あいつ手早いから」
☆
手早い?
そんなことないっては言えない…あの日のこと知ってる。
高1の夏…
まどか先輩と航は愛し合っていたから…。




