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スコール  作者: aotohana
10/11

雨上がり


航は息を切らしていた。

こんな焦ってるとこ今まで見たことない。



「先輩…空、俺のなんで」



航は不機嫌な低い声でそう言うと、私の腕を引っ張っていく。



「航、ちょっと、待って腕…」


彼は待ってはくれない。私も息があがってしまう。

苦しい…。





祐也先輩がまた空の前に現れる。

空は先輩のこと今はどう思ってんだろうか。

二股されて…また付き合うなんてことねぇとは思うけど…


河原で見たこいつの泣き顔。

泣くほど好きな奴だったんだから、簡単に気持ち変わんねぇのかも。


お前まだ先輩のこと…好き?




俺…先輩の前から空を連れ去る。

やっぱ渡したくねぇ。


けど、俺がしたことってどうなんだ?

もし、空があいつにまだ気持ちあったら…邪魔してんのは…?



「航、…ねぇ、航ってば腕離して」


気づいたら河原の近くまできていた。

少し前は雪の冷たさに震えていた草木も…春風に吹かれ、どこか穏やかさを取り戻していた。


息がしずらい…俺は大きく息を吐いた。



あぁ、もう知らね。

空がどうとか…先輩がどうとか、マジもう考えんのやめる。

勝手だけど、俺は自分のしたいようにする。

ちゃんと気持ち伝えねぇと。



「空…俺やっぱお前のこと好きだ」





航からの告白は突然だった。

またからかわれてると思ったのに…


彼の強い瞳は私をまっすぐ見ていた。



「航…本気で言ってるの?」


「冗談でこんなこと言うかよ」


いきなりすぎて、気持ちがついてかないよ私。

瞳だけが重なり合う。




空の瞳がずっと俺をみている。

訳わかんねぇって顔だ。

黙ったままの空…俺はそんな彼女の返事を待った。



「バカ…」


空から出た言葉。


「バカってなんだよ、俺はちゃんと…」


!?


空が泣いてる。なんで?

空の泣き顔を見たのは、これで3度目だ。



こいつの泣き顔に俺は弱くて…どうしていいか分かんなくなる。周りは人通りもあるし…俺たちはすっかり注目の的で…。



「空…泣くなって…」


……。


どうしようもなくて…俺は空の手を握り引っ張って歩く。





で…俺の部屋。

高貴がいなくて助かった。いたら、ぜってぇ空のことなんか言われてたよな。


「ごめん」


空はやっと泣き止んだけど…目が赤いし鼻声だ。



「いや、俺…お前なんか泣かせるようなことした?」


……。


「航は…私じゃなくて…まどか先輩が好きなんじゃないの?」


また…先輩がでてくる。

俺はあのこと、忘れてぇのに…


「先輩よく航んち来てたって、高貴くん言ってた」


「あぁ…?そうだけど、お前と付き合う前だし…サッカー部の奴等みんなでだぞ」


俺の答えに空の瞳は大きくなった。


「え!?けど…こないだだって…用事って先輩と…家

…来てたじゃない…」



は!?こないだって…なんだ?

俺は記憶をさかのぼる。用事?…あぁ…あれか…



「あんなぁ…用事って、一緒に帰れなかった時のだよな?あれ、俺教えてる奴の参考書選び付き合っただけだから」


空の赤い目が俺の方を向く。


「けど…」


「お前、なんで先輩に会ったの知ってっか分かんねぇけど…偶然会っただけだから。高貴と仲良くて、本貸したままだって言うから、俺んち来たけど…高貴と少し話して本持って帰ってったぞ」


空は俺から目をそらすと、ばつが悪そうに小さくごめんと言った。



よく分かんねぇけど、結局なんで空泣いてたんだ?

先輩が原因か?



「なぁ、空…もしかして…先輩と俺のこと疑ってたとか?」



「だって…航が…言い訳できねぇって…」



俺…そんなん言ったか?





「航…私ね、いつのまにか航のこと好きになってた」


祐也先輩のこともあって、航には迷惑かけたから、ほんと勝手だなって思って。


先輩がダメだったから、航にしたみたいに誤解されたくなくて…言えなくて…


まどか先輩がいたし…



航は私を見ている。訳わかんないって顔だ。

だよね…


「祐也先輩は…いいのか?」


祐也先輩にはずっと前から気持ちはない。

中2の時に終わってる。色々言われたことがショックで…立ち直るのに時間がかかっただけ。



「……うん」






航の顔が近づいてきて…私は目を閉じる。

やっぱり先輩とは違う…


彼に触れられるのを嬉しいって思うから。

航に触れるのは久しぶりで…


キスされたら、感情がこぼれていく。





空に触れた…色んな感情が込み上げてきて、嬉しいのに苦しい。


空はこらえきれず、泣いていた。


「他の人ともう…キスしないで…、まどか先輩とも…」


なんだろ…すげぇ素直というか…こんなん言われる方がヤバイんだけど。空自覚してねぇだろうな。


可愛すぎて、俺は空の唇をふさぐ。




航とくっつきたくて…

彼のキスが長くなって…激しくなってきた頃…


「兄貴~、俺帰ってきたからな~、女物の靴あったけど、変なことすんなよ~」


弟くんの声。階段の上がってくる音が聞こえ、そのまま部屋の閉まる音。



「航…?」


航は固まったままだった。


「高貴のやつ…」


彼は不機嫌そうにつぶやいた。


……。


私はなんだかおかしくて吹き出した。

そんな私を見て…

不機嫌そうにしていた彼もまた、優しい瞳で笑ったのだった。



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