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スコール  作者: aotohana
1/11

雷雨


食われるんじゃないかって程、激しいキス


身体が勝手に熱を帯びていく


……。



「どけよ」


俺は抱きつく形で上にまたがっている女を、無理矢理押し退けた。



「何?コウだってその気だったじゃん」


違う…


「やっぱ、航は意気地無しだね」


その女は乱れた服を正すとそのまま部屋から出てった。




俺の消したい記憶…高1の夏。





高2夏…湿気を含んだ風がまとわりつく…嫌な季節だ。


渡り廊下…


「俺ら、やっぱ別れよ」


「な…なんで?」


俺の発言に目の前の女は泣き出した。

泣いている女を見ても、俺はどこか冷めていて他人事のように感じてしまう。


俺がため息をつくと、彼女の涙は止まった。


そして

思いっきり頬を叩かれた…


「気すんだ?じゃあな」


俺はそのまま、その場から立ち去る。






「お前、また別れたの?今月入って何回目だよ」


友人、七沢佑都があきれたように俺を見る。


「コウの女遊びは今に始まったことじゃないよ、佑ちゃん」


その隣にいた茜も会話に加わる。



「うっせぇよ」



佑都と茜は付き合っている。ふたりは幼馴染みだ。

昔から知ってるのに、恋愛に発展すること自体すげぇって思う。



「それにしても…お前ってショートの子好きだよな」


「別に」


「だってさぁ、みんな付き合った奴はショートじゃん」


「まぁ…たまたま?」



「ショートっていえば、空ちゃんもだよね、コウの幼なじみ」



「なぁ、なんでお前ら仲悪いわけ?」


自分たちの感覚で言うふたりに俺は少しいらっとする。幼なじみだからって、みんな仲がずっといいわけじゃねぇんだよ。


「さぁ、知らね」



俺はこの話題を終わらせた。






隣のクラスの空とは、幼稚園の頃からずっと一緒だ。

けど、仲は昔からよかったと言えるものではない。


たまたまずっと一緒の学校だっただけで、幼なじみと呼んでいいものか謎だ。



廊下ですれ違う。一瞬目が合う…けどほらな、すぐにあいつはそらす。お互い話しかける訳でもない。



最近は会話することもなくなっていた。





「ねぇ、航…」


甘ったるい声が耳に残る


「なに?」


顔が近づいてくる…


「キスしてよ」


こんなこと、たいしたことない。

絡みついた唇を離すと、彼女は潤んだ瞳で俺をみて身体を預けてくる。


「離れろよ」


俺は女を押し退けた。






放課後…佑都が茜と話しているから、終わるまで待っていた。



「何、お前ぼけっと外みてんの?」


「別に…」


「あ、空ちゃんと、祐也先輩じゃん。付き合い長いよな…中学からだし」


2人は一緒に並んで帰っていた。

あいつは今どんな表情をしているんだろう。



「…そうだな。もういいから早く帰ろうぜ」


佑都と俺は教室を後にした。





ある日の放課後…知らない先輩に声をかけられた。

裏庭…


ガツッ


やっべ…口ん中マジ切れたし。

端から血が流れ出る。



「お前さ…最低な奴だよな」


殴った奴は感情を高ぶらせる。


「なんすか?よく俺分かんねぇんだけど」


俺の淡々とした口調が気に入らなかったらしい。

胸ぐらをつかまれた。


「ふざけんなよ…奈保のこと遊びやがって」


「あ…?先輩、奈保のこと好きなんすか?」


奈保はこないだ別れた女だった。


「俺はお前みたいに、女にだらしない奴が大嫌いなんだよ、2度と奈保に近づくな」


2発目がくるかと思ったけど、離された。


めんどくせぇ、なんでそんな熱くなれんだ?





佑都待ってっし、教室戻っか。

水道で口をゆすぐ。吐き出すと赤く染まった水が流れていった。


視線を感じた。

空が何か言いたそうに立っていた。


「何?何見てんだよ」


苛立ち、にらみつける俺に対して、ひるむ様子もなく…


「何で…怒ってんの?訳わかんない。ただ、それ…腫れてるから心配しただけじゃない」


心配?


「別にほっとけよ、こんなん平気だし」


……。


「どうして…」



「航~、平気か?っておいおい、すっげ腫れてんじゃん。マジお前なんかしたの?」


空が何か言いかけた時、佑都が心配してやってきた。



「いや…あいつ、奈保のこと好きみたいで、なんかめんどくせぇよ」



「奈保ちゃん?あぁ、けどあれはお前悪いだろ、嫌なら手出さなきゃいいのにな…お前も」


呆れた表情の佑都。


「…最低」


「え?空ちゃん何て言ったの?」


聞き返す佑都を無視して、空はそのまま走って行ってしまった。


「おまえ…空ちゃんにもなんかしたのか?」


「なんも。俺あいつに手出したことねぇよ」


最低…


あいつからその言葉を聞くのはもう何度目になるんだろう。


もう慣れっこだ。

何を言われても別に気にしねぇよ。




「最低…、触らないで!!」


俺に向けられたあいつの軽蔑した眼差し…


お前に俺の何が分かんだよ。

込み上げてくる苛立ちを抑えることができない。

こんな感情いらねぇ…。





朝…なんでまたこんな夢見んだろ。

最悪。



「はよっ」


あくびをしながら教室に入ると、佑都が寄ってきた。


「なぁ、茜からの情報なんだけど…すっげんだよ」


「へぇ」


低血圧な俺は…適当に答える。


「空ちゃんと祐也先輩別れたって」


俺のぼんやりとしていた頭がはっきりしていく…


「は!?何それ」


そんなんある訳ねぇじゃん。

あいつ先輩のこと大好きだったし。



「いや…なんか先輩っていつも穏やかで優しい感じじゃん。けど…なんか他校に本命いたらしくてさ…二股つーかさ」


……あの先輩が?

そんなん全然見えねぇけどな。


「適当なこと言ってんなよ、どうせデマだろ」



「まぁ…そうかもしんねぇけどさ」


俺が話に乗ってこないからつまらない様子だ。




部活なくて、佑都と茜の女友達とゲーセンで遊んでた。茜の友だちは、みんなサバっとしていてつきあいやすい。


小腹がすいて近所のコンビニに立ち寄る。

そこで空を見つけてしまった。

最悪…。



パーカーに短パン…短すぎじゃね?

もう遅せぇ時間だし、ちょっとは気にしろよ。




「ってお前何酒持ってんだよ」


びくっとした、空。


「あ…びっくりした、なんだ航か」


「制服だし、ばれるから、あっち行ってよ」


声かけたことを後悔した。

ほんと可愛くねぇ。


俺を無視して、レジに並ぶ。

普通に買えてっし…まぁ、背は高いしな。




河原沿い。空の後ろ、離れて歩く。


「なんで、ついてくんのよ」


俺だってついてきたくねぇよ…けどしょうがねぇじゃん。この辺人通り少ねぇし。



河原の下に降りる階段のとこに座り込むと、彼女はビールの缶をあけた。


「おいしい~」


空は無邪気に声をあげて笑う。


「お前さ…なんかあった?こんなんらしくねぇじゃん」


どうしてもほっとけなくて、俺は隣にどかっと座った。


「別にほっとけよ、こんなん平気だし」


彼女は俺をにらみつけた。


……。


「この間、航が私に言ったセリフだよ」


そう言って今度は笑った。


「ちょっ、なに勝手に人の飲んでんのよ」


俺は袋からビールを取りだし一気に流し込む。


「後で金払うし、ケチくせぇこと言ってんなよ、ほんと可愛くねぇなお前は」



……。



「な…なによ、私だってそんなこと分かって…」


なんで…泣き出すんだよ。

初めて見る空の泣き顔に、俺どうしていいか分かんねぇ。


「や…悪かったよ…なぁ、泣き止めって」


「先輩…も同じこと言ってた…」


先輩?


「や、あれ…噂デマだろ、あんなん気にすんなよ」


「…別な子とキスしてた。見るの初めてじゃないの、私気づかないふりしてた」



じゃ…佑都の言ってたのって…マジかよ。


「最低な奴だな…まぁ、早く本性分かってよかったじゃん」


「……。航に言われたくないと思うけど…」



「お前っ、せっかく俺が…」



酒のせいもあるのか、空はふわふわしている。

つらいはずなのに笑ってやがる。



!?



少し冷たい風が河原の草を次々と揺らしていく。

あいつに触れた唇だけが熱い。



「な…なんでこんな…キス」


俺は濡れた唇をぬぐった。


「いや…空、先輩見返したくねーの?手伝ってやるから、俺と付き合えよ」


淡々と言った。


「なっ、何言ってんの?そんなことできるわけな…」


「だから…そういうとこ、先輩は可愛くねぇって…」


俺の言葉が空を傷つける。また泣きそうな表情だ。



「…付き合えばいいんでしょ」



「決まりだな…まかせろって、空」


風に吹かれ空になった缶が音をたてて転がっていった。




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