滅茶苦茶
『唯でさえ継ぎ接ぎだらけの身体なんだ。滅茶苦茶に吹き飛ぶだろうな』
☆
魔王城は立て続けに受けた謎の襲撃により、あちこちで混乱の渦が起こり始めていた。
黒騎士は消化活動に紛糾。侍女達の悲鳴や泣き声が響く中、救護や情報収集に奔走する従者達。混乱の余り、冷静な判断が出来ず慌てふためく魔王族。
混沌と散らばっている小さな渦の数々が一つの巨大な渦と化すのは、最早時間の問題でしかなかった。
ーーその喧騒の中を、
裸足に白い寝巻き姿で疾走する若い女。
彼女は唯ーー、
前だけを見つめてーーーー
(きっとライムはまだ別塔に居る筈……)
そう信じて走る。
(大丈夫。必ず助ける!必ず助ける!必ず助ける!)
それだけを強く思い疾走する。
(どうかお願い! まだ引き金を引かないでッ!!)
途中、銀の甲冑に身を包んだ騎士達がこちらに向かって走って来る姿が見えた。
一刻の猶予も許さないのに、祐に二十人は超える人数の騎士を相手にしている時間等は無く、声を掛けられるのではないかと思うだけで身体が強張って行く。
ーーだが。寝巻き姿の侍女が第二王子を負傷させた張本人とは夢にも思わない彼等は、甲冑の軋む音を響かせながらいそいそと走り過ぎて行った。その後ろ姿を見送ったティファニーは、安堵で胸を撫で下ろし、再び諦めずに全速力で走り続けた。
それなのに、
主塔を囲む塀を乗り越え、漸く別塔の入り口が見えたその時ーーーー、
ーーーー大爆発は起きてしまった。
身体の一部をもぎ取られてしまうかと思う程の爆発音と爆圧が、ティファニーの身体も弾き飛ばす。
地面に打ち付けられた痛みを堪えながら、どうにか眼をこじ開けた瞬間ーー、
「?!?!」
ティファニーが見たのは、上層階を半分以上失った別塔の姿だった。
瞬時に心臓が凍り付いて行くのを感じた。
身動き一つ取れず頭が真っ白のまま黒煙を吐き出す別塔を見上げる。
するとーー、
黒い物体が彼女の視界を一瞬通過する。
上から下へーー、
ーードサリと鈍音。
「ーー……」
脚元に落ちて来たそれに眼を配る。
それが何かを頭の中が理解する迄に、大して時間は掛からなかった。
「いや………そんな……。……嫌ァぁぁっッッーーーーーーー?!?!!?!!!」
ティファニーの絶叫は、何の意味も持たなかった。
落ちていたのは、【勇者の右腕】だった。
『唯でさえ継ぎ接ぎだらけの身体なんだ。滅茶苦茶に吹き飛ぶだろうな』




