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第四章・7 (2)


 父母が自分を呼んでいる。でも、その声はあまりに遠く感じた。

 すぐ近くにいるはずなのに、どうしてだろう――と、真綾は疑問に思った。

『この部屋は、空間から隔離されている。外の人間が干渉したり、入り込んだりすることはできない。だから、声もあまり届かないんだよ』

 その理由について余城はこう説明した。

「パパとママに会わせてよ」

 真綾は余城に頼んだが、

『君がこちらの世界に来るという決心をしたら、だ』

 と、余城は認めなかった。

『断言しよう。今の世界にいても、嫌なことばかりしか起こらない。好きな人と分かり合えなかったり、誰かに馬鹿にされたり、裏切られたり――そんな醜い世界に君は今、いるんだよ』

「うーん……」

 真綾には、まだこの世界が生きづらいというはっきりとした実感はなかった。ただ、幼い彼女も彼女なりの経験はしていた。彼女は幼稚園で同じ組のたかしくんという子が好きなのだ。けれど、たかしくんはやはり同じ組のまこちゃんという女の子が好きらしく、いつもその子とばかり仲良くして、真綾には見向きもしない。

 たかしくんと仲良くなれたらどれだけいいだろう――。そんなふうに、何度思ったことだろうか。

(でも――)

 真綾はこうも思う。

(何もかも自分の思い通りにいく世界が、本当にいい世界と言えるのかな――?)

 仮に自分とたかしくんが仲良くなれたとして、まこちゃんはどうなるのだろう。今まで通り、たかしくんと仲良くできるのだろうか。それとも、たかしくんは真綾ちゃんのものだと諦めてくれるのだろうか。

(何が正しいんだろう。幸せって、一体何なのかな?)

 真綾はしばらく考え、

「私、決めた!」

 ぽんと手を打って叫んだ。

『おじさんと一緒に来てくれる決心をしたんだね?』

 余城の言葉に、真綾はゆっくりと首を横に振った。

「ううん。おじさんと一緒には行かない」

『何だって? なぜだ!?』

「私子供だから、詳しいことは分からない。でも、ひとつ幼稚園の先生に言われてたことを思い出したの。『知らない人についていっちゃ駄目』って。おじさん知らない人だもん。ついていったら怒られちゃうよ」

 真綾はまるで先生に言うようなリズミカルな口調で「だから、ごめんなさい」と言って、ちょこんとお辞儀をした。

『そうか――。でもね、君を連れていくことは、もう決定しているんだよ』

 急に余城の目が妖しげに光った。パソコンの画面からつるのようなものが伸び、真綾の手足に絡みついた。

「きゃっ!」

 真綾は思わず悲鳴をあげた。ずるずると身体が引っ張られ、真綾はベッドからどたりと落ちた。だが、痛みに泣き叫ぶ余裕も与えられず、彼女はパソコンの方へと引きずられてゆく。

『君たちはどうしようもなく愚かだ! つべこべ言わず、来ればよかったんだ!』 

 余城が興奮気味に言った。真綾はパソコンの中に呑み込まれてゆく。

「嫌だ! パパ、ママ、助けて!!」

 真綾は叫んだが、直後、彼女の身体はディスプレイの中に消えてしまった。



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