第三章・3 (1)
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その夜、上島が凜の住むマンションを訪ねたのは、0時少し前のことだった。
そろそろ蒸し暑い日もちらほら増えてきたこのご時世に、彼は毛布を肩にかけて震えている。
「はい、コーヒーどうぞ」
愛稀が上島の前にコーヒーカップを置いた。
「どうもすみません……」
上島はぎこちなく笑って言った。彼は愛稀がお気に入りらしく、普段は色目を遣ってくるものなのだが、今はそんな余裕もないらしい。コーヒーを飲もうにも、手が震えて飲みにくそうだ。よっぽど怖い思いをしたとみえる。
午後11時過ぎ、突然凜のスマートフォンに上島からの着信があった。電話に出ると、上島は一気にまくしたてるように言った。
「今からお前の家に行く。教えてくれ、今大学で何が起こっているのか――」
凜に有無を言わさず、上島は電話を切った。そしてやって来たのは、顔は青ざめ、生まれたての仔牛のように震える上島の姿だった。
それでも上島は、少し気が落ち着いたのか、コーヒーカップをテーブルに戻しひと息つくと、向かいの席に座る凜を見て言った。
「……お前の知っていることを全部話せ」
「僕もよく知りません」
凜は即座にきっぱりと言った。
「今の状況はおかしいぞ。何かが狂っているとしか思えない」
「それについては同感です――。まずは、何があったのか、詳しく話してくれませんか」
凜は上島に言った。上島はひとつ頷き、話し始めた。




