第二章・3 (2)
湖沿いの車道を逸れ、山道を少しのぼったところに、大きな精神病院はあった。
駐車場に車を停め、敷地に足を踏み入れると、いたるところに患者と思われる人たちいて、大概は白衣を着た人がそばについている。
建物に入ると、凜は受付の中年女性に話しかけた。
「すみません。面会の約束をしていました鳥須といいますが」
「……ちょっと待ってくださいね」
女性はぶっきらぼうに言って、予約者のリストをチェックし始めた。
「――ああ、鳥須 凜さん。吉田先生とお約束、ね。先生呼びますから、待っててくださいね」
女性は相変わらず淡々とした口調で言ってから、インターホンで医師を呼んだ。
しばらく待っても、医師は来なかった。凜たちは、受付のすぐ近くの長椅子に座って、彼が来るのを待っていた。
「ねえ――」
ふいに、真綾が指をさして言った。彼女が指したのは、受付の横に置いてあった、水鳥のはく製だった。水鳥はこの地方でよく見られる鳥なのだそうだ。
「あの鳥さん、どうして動かないの」
「真綾、あれはね、はく製なの」
愛稀が真綾に言った。
「はくせい?」
「あの鳥さんはね、生きてないのよ」
真綾は水鳥のはく製をまじまじと眺めながら、
「――ふぅん。何だかかわいそう。まるで、魂を抜きとられたみたい」
と呟いた。
そこへ医師がやって来た。
「鳥須さんですね。遅くなって申し訳ない。私、当院の医師の吉田といいます」
凜たちも立ち上がった。
「鳥須といいます。こちらも、突然お会いしたいと言って、申し訳ありません」
吉田は大きな眼鏡をかけ、すでに薄くなった前髪を左の端から右へと分けていた。痩せていて、少し神経質そうにも見える。
「とりあえず、医務室でお話をしましょうか」
吉田はそう言って、凜たちを案内した。




