表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/47

第二章・2 (3)


 余城 峡一の両親である一馬と和子が、この家に住むようになったのは3年前――犯罪者としてこの街に舞い戻ってきた余城が、入水自殺を図り、精神病院に入った直後だったという。

「下手に帰ってくるより、どこか遠くの街で、人知れず逮捕されていた方がましだった」

 一馬は言った。

「息子さんの帰郷が嬉しくなかった……?」

 凜が訊くと、一馬ははっきりと頷いた。

「息子さんはどんな人だったんですか」

「悪魔のような子だよ」

 と、今度は和子が言った。

「悪魔?」

「あれは人じゃない。悪魔だ。人間の感情なんか持ち合わせちゃいない。他人を傷つけ、心を踏みにじっても何とも思わないような子だった。親である私たちも、あの子には危機感を感じていたよ」

 次に、一馬が言う。

「峡一は、自分しか見ていないような子だった。他人のことを理解したり、共感したりという心がない。むしろ、他人は自分を阻害する者か、利用するだけの対象と思っていたようだ。実は、峡一が帰ってきた時、わしらが真っ先に警察に通報したんだ。その時のあいつの顔と言葉ははっきり覚えている。あいつはニヤリと笑ってこう言ったんだ。『あんたたちもやっぱり俺の敵だったんだな』ってな」

 一馬が喋り終えてから、空間に静寂が訪れた。しばらくして、一馬が再び話を始めた。

「――あいつに関わると、みんな不幸になった。わしらだってそうだ。挙句の果てには自分まで不幸にしてしまった」

 一馬の表情には、落胆の色が見えていた。

「ありがとうございました」

 と言って、凜は立ち上がった。愛稀と真綾を連れ、家をお暇することにする。

「ちょっとあんた――」

 家を出ようとした凜たちを、一馬が呼び止めた。

「ここからさらに進むとね、あいつが自殺未遂を起こした場所がある。興味があれば、見ていったらどうだい」



「自分の息子をあんなふうに言うなんてな……」

 車に戻ると、凜は嘆かわしい想いを口にした。

「悪魔の子」「あいつに関わるとみんな不幸になった」。先ほどの一馬と和子の言葉が耳をついて離れない。本来なら、周囲の誰もが非難しようとも、息子にもいいところがあったと信じようとするのが、親というものだろう。

「よっぽどのことがあったんだろうね」

 後部座席から、愛稀が言った。

「かけがえのない子供――とくに母親からしたら、自分のお腹を痛めて生んだ子供でしょ。それをあそこまで思うのは、その気持ちを打ち消すくらい、たくさんのつらい経験をしたんだと思うよ」

「そうだな――」

 凜はそう応えながらも、気持ちを切り替えることにした。やるせない気持ちを抱えていても仕方がない。彼は車のエンジンをかけ、次の目的地へと車を走らせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ