表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/47

第二章・2 (2)


 岩井はこの地域の詳細図をコピーし、余城の両親が住んでいるという家の付近をマーカーで示してくれた。

 それに従って、しばらく車を走らせると、実際に古びた家に着いた。

 インターホンを押すと、玄関の戸が少し開いて、隙間からやつれた老人がぬっと顔を出した。おそらく、この人が余城 峡一の父親だろう。

「あんたかい、岩井の坊やが言ってた、峡一について知りたいっていう奴は」

 老人は凜に対してそう訊いてきた。「そうです」と答えると、老人は軽くため息をついて言った。

「頼むから、帰ってくれないか。これ以上俺たちの傷をえぐらないでくれ」

 老人はそう言い残すと、さっさと戸を閉めようとした。凜は咄嗟に手を出して、それを制止する。

「ちょっと待ってください」

「しつこい人だな、あんたも」

「僕たちもお話を聞くまでは帰れません」

 老人は今度は戸を全開にした。家の中は玄関口以外は廊下も部屋の区分けもなく、がらんとした部屋がひとつ広がっていた。中にはろくに物も置いていない。峡一の母親と思しき老婆がひとり、警戒心剥き出しの目をこちらに向けていた。

「この通りだ。峡一のおかげで俺たちは世間に顔向けもできず、こんな生活を強いられている。これで満足か?」

 老人は再び玄関を閉めようと、戸に力を加えかけた。その時――、

「ちょっと待ってください」

 ふいに、凜の背後から、愛稀が口を出した。

「もしかして、おばあさん、脚を痛めているの?」

 愛稀はそういうや否や、老人の許可も得ずに家の中へと入っていった。凜も老人も、それには唖然となった。愛稀は構わず靴を脱ぎ、部屋へと入ってゆく。

「な、何だい――あんた」

「おばあさん、ちょっといいかな」

 愛稀は老婆の脚を揉み始めた。こわばった老婆の表情が次第に和らいでいった。

「あんた、私が脚を痛めているって、よく分かったね」

 老婆が言った。愛稀は太ももから脛にかけて、脚を丁寧に揉みながら言う。

「脚を押さえてたものだから」

「たったそれだけで、分かるもんなのかい」

 初対面でありながら、自分の思っていることを察知した彼女に、老婆は純粋に驚いたようだった。

「私、前に福祉関係の仕事をしていたんです。言葉が話せなかったり、コミュニケーションが苦手な人と接する機会も多くて、そのような人たちの気持ちをずっと考えてきたので――もしかしたら、その経験が活きているのかも」

 愛稀はそう答えながらも、その手を休めることはない。

「……仕方ない。あんたらも入れ」

 老人は未だ外にいる凜と真綾を促した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ