第二章・2 (1)
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ガラス職人の岩井は、工房にやって来た訪問者の肩書を聞いて、怪訝そうな顔をした。
「大学の先生が、どうしてアイツのことを調べてるわけ?」
「うちの生徒の失踪に、彼が関わっているのではないかと思いまして」
凜は正直に答えた。誤魔化しても仕方がない。
「訳分かんねえな――。まあいいや、座りなよ」
岩井は、凜たちを椅子に促した。自分もどっかと座り、話を始める。
「余城ね――。小中高と一緒だったが、アイツは奇妙な奴だったよ」
「奇妙? そういえば、コンピューターに関して特別な才能があったようですね」
「ありゃ、才能なんていうシロモノじゃない。当時はまだ、今ほどパソコンも高性能ではなく、普及自体があまりしていなかった。そんな時代に、アイツはパソコンを思いのままに操っていた。他者のネットワークに侵入して、情報を引き出すようなことも意のままだ。アイツにかかっちゃ世の中のすべてのデータがお見通しなんじゃないかと思って、ブルッたもんだよ」
「そのくらい、よっぽど卓越した技術をもっていた、ということでしょうか」
凜の問いに、岩井は首を強く横に振った。
「そんなんじゃない。あの記事に、“超能力者”って書かれていたろ。あれは誇張でも何でもない。アイツは、人智を超えた力をもっていた。これは何年もアイツを見てきた俺が、確かに言えることだ。――そこにあの性格だろ。もう俺たちの理解には及ばない」
「性格?」
「一言でいえば自分勝手ってとこだが。周囲に合わせたりとか、ルールに従ったりとか、そういう気持ちはなかったんじゃないかな。しかし、それ以上に、何を考えているのかよく分からない奴だった。――ま、この辺は、アイツの親に聞いた方がいいかも知れないけどな」
「彼の両親はまだこの街に?」
「ああ。アイツが犯罪者になってから、殆ど誰とも関わらないようになってしまったけどな。何なら、会ってみたらどうだい?」
「ぜひ」
岩井は腕を水平に伸ばし、指を一本立てて方向を示した。
「ここからさらに北に行くと、湖と山に挟まれた道がある。しばらく行くと、山の方面に向かう細い道が分かれているはずだ。そこを少し行くと、ぼろっちい家が1軒建ってる。そこが余城の親の家だ」