第二章・1 (2)
湖沿いの道をしばらく走ると、N市に入ったと示す標識が見えた。目的地もこのN市の中にあるが、まだ道のりは遠い。
「ねえ、そろそろご飯にでもしない?」
ふと、愛稀が言う。
「――ご飯?」
凜はふと車の時計を見た。まだ10時を少し回ったところだった。
「私たち、まだ朝から何も食べてないでしょ」
そういえば――と凜は思った。凜は朝からコーヒーを一杯飲んだだけだったし、愛稀と真綾に関しては飲みものさえ口にしてないのだろう。
「そうだったな。そろそろ休憩にしよう」
カーナビで付近の手ごろなパーキングを見つけ、車を停める。車を降りてしばらく歩くと、レトロな街並みの通りに出た。
「凜くん、この辺って、結構有名な観光スポットのようだよ」
愛稀は片手で真綾の手を引きながら、もう片方の手で器用にスマートフォンをいじっていた。片手でよく操作できるものだと凜は思う。
「さほど時間はないからな。どこかで適当にご飯を食べて、すぐに車に戻ろう」
凜は言った。この街に長居するつもりはなかった。目的地はもっと先なのだ。
手ごろな喫茶店を見つけ、中に入った。木目のしっかりしたシックな建物の中に、アンティークのような置物がたくさん置いてあった。テーブルにつき、マスターにモーニングセットを注文する。しばらく後、マスターはグラスに入った飲み物と、トーストとゆで玉子の入ったプレートを3人分運んできた。
「お洒落なグラスですね」
愛稀がマスターに言った。グラスには、大胆なカットが施されて独創的な模様を作っていた。
「すぐそこにガラス館がありましてね。せっかくだからとそこで買ったんですよ」
と、マスターは答えた。ここはガラス製品が有名な街のようだ。
「お客さんは、観光で?」
「いえ、そういうわけでは。実は、この街で生まれたある人について調べています」
凜が応えた。
「ある人?」
「余城 峡一ってご存知ないですか」
マスターはあんぐりと口を開けてみせる。知っているような顔つきだ。
「お客さん、記者か何か? ――まあいいや。余城 峡一ね、聞いたことあるよ。私の知り合いの息子さんが、彼と同級生だったんじゃないかな」
「本当ですか?」
「ああ。もし会ってみたいというなら、彼に連絡とってみるけど、どうする?」
「お願いします」
「ちょっと待ってな」
マスターはカウンターへと戻り、店の電話機で電話を始めた。しばらくのやり取りの後、電話を切って戻ってくる。
「今、向こうに連絡したらね、会ってもいいってさ。場所はね――」
マスターはレシートの裏にペンで地図を書き、その人の居場所を教えてくれた。