第二章・1 (1)
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高速道路を走り、バイパスを経て、一般道に出ると左方に大きな湖の風景が広がった。
「うわー、大きなうみ!」
「これは海じゃないよ。湖っていうの」
「みずうみ――って何? うみとどう違うの?」
「うーん……。海の小さいのが湖、かな」
「うみの子供ってこと?」
「そんな感じかなー?」
「じゃあ、ママと私みたいな感じ?」
「そうそう! まさにそれ」
「でも、子供なのに大きいねー。あ、ほら、あそこに船が見える!」
「あ、ホントだねー」
後部座席ではしゃぐ妻と子に、凜は何だか調子が狂ってしまう。遊びじゃないんだぞ――と言いたくもなる。
第一、本来ここにはひとりで来るつもりだったのだ。
早朝、ダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいると、寝室から出てきた愛稀はばっちりとおめかしを整えていた。
「どうしたんだ、その格好――」
凜がぽつりと言うが、愛稀は彼に応えることなく、彼の向かいに座る真綾にニンマリとした笑顔をした。
「まーやー、今から3人で遠くにお出かけしたくない?」
妙に甘ったるい声で言う。キョトンとした顔をしていた真綾がおもむろに笑顔になった。
「うん、行きたい! ――あれ、でも幼稚園は?」
本日は土曜日だったが、真綾の通っている幼稚園は土曜日でも半日保育の制度があった。けれども、愛稀はニンマリとした笑顔を崩さずに言う。
「休んでいいよ~」
それを聞いて、真綾はより一層笑顔になる。愛稀はくるりと凜の方を向いた。
「……というわけで、私たちも一緒に行くから」
「おいおい、勝手に……」
「勝手は凜くんでしょー。どうしてひとりで行こうとしてるの?」
口ぶりは軽々しいものの、ちくりと刺すような言葉を言ってくる。
「昨日、説明したろ。危険なところかも知れないからひとりで行くって」
「だからこそ、だよ。私たちは家族として、あなたを見届ける義務がある。何より、そうしたいという想いがある」
「君や真綾に危険が及ぶかも」
「そうならないようにする。私も極力、もちろん真綾は絶対に――」
「だけど……」
凜は口ごもった。愛稀はまっすぐな視線を彼に向けながら言った。
「昨日私に言ったよね、どこにも行かないって。早速、約束を破っちゃうの?」
「パパ、ママの約束破っちゃダメだよー!」
真綾が大きな声で言う。こうなっては、凜はもう、ふたりを連れてゆくしかなくなってしまった。




