秋、再びディズニーランドへ――ハロウィンの夢の国から
(一)はじめに
先日、また家族で日帰りで東京ディズニーランド(以下ランド)に行った。
三月末に泊まり掛けで東京ディズニーリゾートに行ってから七か月目で家族四人では二度目のディズニーである。
土曜日に子供たちの小学校で運動会があり、その振り替えとして休みになった月曜日を利用して行くことにした。
当日は朝七時に家を出て横浜駅からバスでランドに向かったが、本来なら平日であるにも関わらずバス乗り場には七時半前には既に長蛇の列が出来ていた。
うちの子たちと同じ学校の子と思われる顔ぶれも見かけたのでこの時期に多い運動会や体育祭の振り替え休日を利用した家族連れも少なくなかったのだろう(これは現地に着いても同様で、明らかに小学生の子供を連れた家族や中高生のグループを当日の園内では数多く見掛けた)。
また、ちょうどディズニーリゾートのハロウィンシーズンだったので平日でも折を作って行こうとする人が多かったと思われる。
とにかくディズニー行きのバスに乗るのにすら列に並び、本来乗る予定だった便の数本後の便に乗車後も小雨の降る中渋滞した道路を進み、当初の目的よりも大幅に遅れた時刻にやっとランドに到着したかと思えばまた長蛇の列に並んで入場を待つことになった。
ハロウィンの夢の国には入場するまでにもそんな関門が待ち構えていたのである。
(二)夢の国のハロウィンシーズン
ディズニーリゾートを一度でも訪れたことのある人ならお分かりだろうが、かの地は平常時でもミッキーやミニーマウスの丸い耳をイメージしたカチューシャを着けたり特に小さな女の子はプリンセスなどディズニー作品のキャラクターの格好をしたりしている人が少なくない。
ハロウィンのシーズンのランドとなると、輪をかけてそんな人が増える。
女児ばかりでなく大人の女性もプリンセスの仮装をしているのをちょくちょく見掛けた。
中には衣装やメイク、アクセサリーはもちろん髪まで入念にセットしている人もおり、プロのキャストと見紛うような人もいる。
ちなみにプリンセスの仮装で女児、大人の女性共に多かったのは「美女と野獣」のベルであった。
肩を出した山吹色のドレスは率直に言って十月も末の屋外では寒いのではないかと思わなくはないが、他のプリンセスの装いと比しても一際艶やかというか目を引く華やかさがある。
ちなみにプリンセスの仮装で多かったのはベル、シンデレラ、白雪姫、「アナと雪の女王」のエルサ・アナ姉妹(エルサに関してはプリンセスではなくクイーンになるだろうが)であった。
「リトル・マーメイド」のアリエルに関しては人間体時のドレスだと肝心の個性が消えてしまうし、かといって人魚の装いでは半裸になってしまうので女児、成人女性共に見掛けなかった。
また、ラプンツェルはトレードマークである長い金髪を再現するのがネックなのか私の目にした範囲では見掛けなかった。
「眠れる森の美女」のオーロラ姫もストレートの金髪にピンクのドレスを纏った、むしろ一般にイメージされる「お姫様」の王道だと思うが(スーパーマリオシリーズのピーチ姫などもこのパターンである)、それ故にステレオタイプで独自の個性に乏しいためかこちらもやはり見掛けなかった。
他のキャラクターでは男児は「トイ・ストーリー」のウッディ・プライドの仮装をした子が多かった。これはキャラクターの人気もそうだが、特徴的なカウボーイハット以外は比較的一般的な男児の秋冬服として揃えやすい衣装である事情も大きいだろう。
ちなみに男児の仮装だとディズニーのキャラクターでは女児にとってのプリンセスほどバリエーションが多くないのか、兄弟でマリオとルイージなど他社コンテンツのキャラクターに仮装するなど「あれはディズニーリゾートとしてはOKなのか」と別な意味で不安を覚える人たちもちょくちょく見掛けた。
しかし、そこはハロウィンだから、子供の仮装ならディズニー以外のコンテンツでも大目に見てもらえたのだろう(その日は大人でも明らかにディズニーでないコンテンツのキャラクターに扮した装いの人はしばしば見掛けた)。
小さな子は何を着てもしても絵になるものだが、ピーターパンの衣装を着た赤ちゃん(恐らくは男児)がお母さんの胸に抱かれてスヤスヤ眠っている姿を目にした時には尊いものを感じた。
それはそれとして、一家で同じディズニーコンテンツのキャラクターに扮した仮装の人たちとすれ違うと、何となく普段の外出の服装で歩いている自分たちの方がこのシーズンのこの場所においては場違いというかマナー違反にすら思えた。
(三)当日のアトラクションについて
この日に乗ったアトラクションは午前中は「カリブの海賊」「スター・ツアーズ:ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー」、昼食を挟んで「ミッキーのフィルハーマジック」「蒸気船マークトウェイン号」「ビッグサンダー・マウンテン」「シンデレラのフェアリーテイル・ホール」「ミッキーのマジカルミュージックワールド」「美女と野獣“魔法のものがたり”」「スプラッシュ・マウンテン」であった。
子連れの旅行でリピートすると(大人だけで行ってもそうかもしれないが)、どうしても新規のアトラクションに挑戦するより前に行って楽しかったアトラクションにまた向かいがちになってしまう。
それでも前回は行けなかったアトラクションに五つほど行けた。
また再訪した「スター・ツアーズ」に関しても前回のレイア姫のホログラムが出て来て助けを求めるバージョンともまた異なる内容(金色ロボットのC−3POと小さなR2−D2がガイド役になる点は一緒だがレイア姫は登場せずアクシデント的に複数の基地を訪れる)になっており、また新たな体験が出来た(夫によると『スター・ツアーズ』は元から各回ごとに内容が変わる、同時期に複数のストーリーが上映されるシステムとのことだが、不明である)。
今回初めて乗った「蒸気船マークトゥエイン号」は大型のフェリーに乗ってランド内の人造運河「アメリカ河」を一周するアトラクションだ。
文豪マーク・トゥエインの時代にアメリカを航行したフェリーという設定で船内にはアナウンスが流れる。
「寒いノリ」とよく揶揄のネタにされる「ジャングル・クルーズ」のキャストによるガイドがやや生真面目な音声アナウンスに切り替わったフェリー版と考えれば良い。
途中の運河の岸にはカモシカやネイティヴ・アメリカンたちの機械仕掛けの模型が設置されており、それに対するアナウンスを聞くのもアトラクションの一環だ。
舞台となる時代の反映とはいえネイティヴ・アメリカンを「インディアン」と呼ぶアナウンスを聴くのは日本人としては複雑な気分になる。
精巧に造られたカモシカやネイティヴ・アメリカンの模型はそれ故に一定の動きしか出来ない不自然さが浮かび上がる。
一方で人工の運河にはどこから飛んできたのか灰茶や緑の首をした鴨が群れを成して泳いでいる。
アメリカの大河を模し岸辺にはカモシカやネイティヴ・アメリカンの写実的な模型を配した人工の運河にいかにも日本的な鴨たちが飛んできて泳ぐ。
何とも珍妙な光景である。
眺めていると、何が本物で何が偽物なのか分からなくなってくる。
むろん、生物としては鴨だけが本物で模型のカモシカもネイティヴ・アメリカンも偽物である。
しかし、このアトラクションとしては模型こそが本来の装置であり、鴨は外部からの闖入者である。
ただし、野生の鴨にとっては本来は人造の施設である運河も自然の河川と同じ水場なのだ。
メビウスの輪やエッシャーの騙し絵のように虚と実が分かちがたく繋がっている。
対岸では誘導やショップのキャストはもちろんゲストでも笑顔で手を振っている人たちがいる。
こちらも大げさにならない風に手を振り返す。
せっかく夢の国に来たのだ。
キャストの人たちだって楽しんでいるゲストの姿を目にしたいだろうし、対岸で手を振っている他のゲストだって返してもらった方が嬉しいだろう。くたびれた白けた顔をしているのはむしろここではマナー違反だ。
そんな気持ちで順番待ちの時にもパーク内を歩いている時も船や鉄道に乗った人たちには極力手を振るようにしていた。
不愛想でいわゆる空気が読めない人間だと自覚しているが、四十も過ぎて子供を持つ立場になると、そんなことも出来るようになる。
次に「ビッグサンダー・マウンテン」はアメリカの鉱山を模したレールを進むジェットコースターだ。
自分としては何年か前に一度乗ったきりで記憶も曖昧になっており、列で並びながら楽しみにしていた。
しかし、列を進む途中から次女が
「嫌だ。気持ち悪い」
と言い出し、乗る段になっても変わらなかったので夫と長女だけ乗って私と次女はキャストの誘導に従って途中退出の通路から出てきた(途中で前を通り過ぎたキャストの控室のドアが微妙に開いて灯りが漏れている、通常ではまず見ないようなルートだった。アトラクションを楽しめなかった代わりにそんな裏側を垣間見ることは出来た)。
小五の長女は小さな頃からテーマパークに来れば真っ先にいわゆる絶叫モノに乗りたがるのだが、小二の次女はとにかく怖がって避けようとする。
同じ姉妹でもそんな違いがある。
そもそも長女は両親同様、全く車で乗り物酔いしたことはないが、次女は自動車に乗って半時間も走るとすっかり酔って嘔吐する場合が多いので車に乗る前には酔い止めが欠かせない。
家族の中で次女だけは乗り物に対しては一種のアレルギー体質である。
アトラクションに乗った二人を待っている間、七歳のこの子は
「私、ジェットコースターに乗ると気持ち悪くなるんだ」
と寂し気に語った。
本来、このディズニー行きは次女の「ビビデ・バビデ・ブティック」利用を期して計画されたのだったが、行くことを決めた三週間前の時点でこちらの予約は満杯で(そもそも予約サイトへのアクセス自体もその都度待たされて困難であった)、結局はランド観光だけで行くことになった。
――お姉ちゃんは『ビビデ・バビデ・ブティック』でシンデレラのドレスを着せてもらえたし、今日は沢山そんな子が園内にいるのに私は着せてもらえない。
――並んで待たされて行くのは私の嫌いなジェットコースターだし。
もしかすると、家族で一番小さなこの子はそんなことを思っているのかもしれない。
そう考えると、こちらも少しやり切れなくなる。
ランドのシンボルであるシンデレラ城を巡る「シンデレラのフェアリーテイル・ホール」は前回も行ったアトラクションだが、これは次女の希望である。
一九五〇年に公開された(日本公開は一九五二年)アニメの「シンデレラ」はディズニーのコンテンツの中ではもはや古典に属すもので、二〇一〇年代生まれの娘たちはもちろん、母親である一九八二年生まれの私も作品自体をきちんと観たことはない(そもそも筆者の両親が一九四九年生まれなので親世代が赤ちゃんの頃に公開された作品である)。
加えて、「シンデレラのフェアリーテイル・ホール」もアトラクションとしては率直に言って写真映えスポットを提供するものでジェットコースターのようなエキサイティングさはない。
しかし、次女の中ではシンデレラと言えば自分が好きで繰り返し作品を観ているジャスミンやラプンツェルと同じ輝かしい「プリンセス」の筆頭格であり、いわば聖地巡礼のような感覚で
「ここに来たからにはシンデレラ城に行かなければならない」
という感覚だったのかもしれない。
そもそもこの子が行きたがった「ビビデ・バビデ・ブティック」自体が「シンデレラ」の美しく変身する魔法の呪文である「ビビデ・バビデ・ブー」に因んだものである。
その次に行った「ミッキーのマジカルミュージックワールド」は今回が初めてだったが、名前の通りミッキーを始めとするキャラクターに扮したキャストたちによるレビューである。
前回も行った「ミッキーのフィルハーマジック」は3Dアニメがメインだが、こちらは実演である。
シルク・ドゥ・ソレイユばりのポールを使ったアクロバティックな演技やコンテンツの場面を再現したミュージカル仕立ての歌舞などレベルの高いものではあった。
しかし、鑑賞したのが既に夕刻に近い時間帯であり、朝も早くから起きて午前も午後も歩き通しで疲れていたのに加えて空調の効いた劇場でフカフカの座席に腰掛けて観ていたため、いつの間にか寝入ってしまった。
その次に今回も初めて行った「美女と野獣“魔法のものがたり”」は、野獣に変えられた王子の居城内をティーカップを模した小型の車に乗って移動しながらアニメ「美女と野獣」のストーリーを追体験するアトラクションだ。
タイプとしては「カリブの海賊」「ホーンテッドマンション」と似たものである(ただし、ティーカップを模した車がかなり揺れながら回るので乗り物酔いしやすい人は要注意です)。
城の外観は先に出来て東京ディズニーランドのランドマークになったシンデレラ城と似通っており、率直に言って、「シンデレラ城を一回り小さくした二番煎じ」という印象を一見して受けた。
しかし、私たちが待ちの列に並んだ夕刻にもなると、シンデレラ城はオレンジ、「美女と野獣」城は水色にライトアップ(ただし窓からはオレンジ色の灯りが漏れる)され、そこに後者特有の仕掛けである人工ミストが懸かると、不気味だがどこか哀しい雰囲気が出て来る。
この城の主は姿を醜く変えられ、人目を避けて暮らす王子である。
彼の孤独や絶望がこの城の不気味さの根源だ。
ディズニーアニメの「美女と野獣」の男主人公である野獣はかつては美しい王子でありながら傲慢さ故に魔女から醜い野獣の姿に変えられたという、「白雪姫」や「シンデレラ」などの先行作品に登場する最初から容姿も性格も美しく完成された王子様とは異色の設定である。
むしろ、途中まではヒロインのベルを監禁し不自由な生活を強いるヴィラン的な面すら持っている。
「美女と野獣」の本来のヴィランはヒロインのベルに横恋慕する街の若者ガストンであり、これはいわゆる「有害な男らしさ」(あるいは周囲から持て囃される青年の思い上がり)を象徴するキャラクターだが、彼の驕慢さは飽くまで市井の一個人としての気質に過ぎない。
これに対して野獣は姿をおぞましく変えられても王子というれっきとした貴顕、権力者であり、家具に姿を変えられた臣下たちに君臨し続ける立場である(王子は姿を変えられても野獣という生物ではあるが、臣下たちは燭台や食器など物品に変えられてしまう点にも呪いとしての格差が見える)。
彼の住まう城は単なる住居ではなく手にしている権力の象徴である。
ベルの愛で醜い野獣が本来の美しい王子の姿に戻ると、暗鬱な霧に閉ざされた城も輝かしさを取り戻す。
「美女と野獣“魔法のものがたり”」の城は男主人公の野獣/王子と一体化した存在なのだ。
このアトラクションには家族全員が楽しめた。
最後に訪れた「スプラッシュ・マウンテン」は現在改築中の「スペース・マウンテン」、私と次女は乗り損ねた「ビッグ・サンダー・マウンテン」に並ぶ三大ジェットコースターの一つだ。
こちらも次女が忌避するのではないかと懸念されたが、夫と長女が
「これはそんなに揺れたりしないから乗ろうよ」
と宥めすかして家族全員で乗った。
コースターが走り出すと、隣の次女は局所局所で
「次は怖い?」
と尋ねる。
こちらは
「大丈夫だよ」
と答えるしかない。
そうして騙し騙しやり過ごして乗り終え、滝壺に急落するクライマックスを迎えて降りると、次女は意外にも笑顔で
「これなら気持ち悪くならなかった」
と語った。
この滝壺急落のクライマックスはその都度写真に撮られて出口のモニターに表示されるシステムになっている。
それを見ると、私と長女はそっくりな態勢で顔を伏せて、夫と次女は笑顔で両手を挙げて映っていた。
私は絶叫モノは好きというか遊園地に来れば乗る方なのだが、いざ乗ってみると怖くなって肝心なところでは目を閉じて頭を伏せてしまう。長女もそうなのだろう。
ところが次女は怖がっていたはずなのにいざ乗ってみると父親と同じくスリルを徹底して楽しむのだ。
同じ親子や姉妹でもそんな風に性質は分かれるのだ。
(四)とにかく歩く園内
これは前の稿にも書いたが、ディズニーリゾートはランドもシーも広大な敷地をとにかく歩く。
午前九時半過ぎにランドに到着して午後二時前にはスマートウォッチの目標に設定してある移動距離一万歩、八キロメートルを超えた。
夕方六時半過ぎには一日の目標である消費エネルギー二〇一一カロリーに達した。これは普段の一日ではまず考えられない早さである。
そして、この日のトータルしたデータは二七二六六歩、移動距離一七.四三キロ、消費カロリー二七七四キロカロリーであった。
目標設定の一万歩の二.七倍、八キロの二倍以上、二〇一一キロカロリーの三割五分増しである。
チュロスやポップコーンなどリゾート内で提供される食品はカロリーが高めだが、この移動によるエネルギー消費で相殺されていると言えよう。
ちなみにランドを夜九時近くに発った時点での摂取カロリーは一六九四カロリーだったので(ただし、ディズニーはリゾート内での食品のカロリーを公表していないためランド内で摂取した分は概算になる)、この日は消費カロリーが摂取分を大きく上回る数値となった。
飲食についてもう少し述べると、自販機ではいろはす五四〇mlが二〇〇円、爽健美茶六〇〇ml、アクエリアス五〇〇mlが二五〇円であった。
一般の自販機の相場と比べても明らかに割高だが、いずれもラベルがディズニーリゾート仕様になっており、そうしたご当地品としての価格設定だろう。
ポップコーンのスタンドでは通常の紙パック以外に「美女と野獣」のランタン、「イッツ・ア・スモールワールド」の建物をそれぞれイメージした専用のケース入りの商品も売っていた。
「イッツ・ア・スモールワールド」のケースは建物の入り口の部分から和服のコケシなど民族衣装を着た小さなお人形たちが出て来る仕様になっており、むしろ大人になった自分だからこそ欲しくなった。
しかし、このケース入りのポップコーンは二六〇〇円と通常の紙パック入りの四〇〇円の実に六・五倍もする。
「これは単行本一冊買える額だ」
「買って帰ってもその後は使わず部屋の隅の置き物になるだろうし、これに二六〇〇円も払ったと結局悔やむだろう」
「そもそもこの大きさでは園内を移動する間も荷物になる」
と考えて結局は買わなかった。
大人でしかも子供の親にもなると、そんな現実も踏まえて動けるようになるが、
「やはり買えば良かったかな」
という後悔の他にも一抹の寂しさを覚える。
付記すると、アトラクションとしての「イッツ・ア・スモールワールド」も今回は休止しており、こちらもファンの私としては残念だった。
「夢の国」を「夢の国」たらしめているアトラクションというかディズニーの理念を象徴するアトラクションだと思うからだ。
自分が初めて行った一九八九年からはや三十五年、ランドしかなかった当時からシーができ、二つ合わせたディズニーリゾートとして拡大し続けてきた。
しかし、それ故に維持が大変なのか昔と比べるとフル稼働出来ていないというか、
「行ってみると、目玉のアトラクションのどれかは当日は休止していて最初から乗れない」
ということが多いように思う(帰宅後に公式サイトに休止中や終了したアトラクションの告知が出ていたと気付いたし、むろんそこを見落としていたこちらの過失ではある。しかし、半年前に行ったばかりの上に今までランドを訪れたどの時も『イッツ・ア・スモール・ワールド』は当たり前に営業していたので休止されている事態が起きるとは思いも寄らなかった。こうした思い込みは自分のようなしょっちゅうは行かないリピーターに決して少なくないだろう)。
なお、半年前の前回は「ビック・サンダー・マウンテン」「美女と野獣“魔法のものがたり”」「プーさんのハニーハント」が休止中であった。
「プーさんのハニーハント」はWikipediaによれば2000年の開業で四半世紀近く前からあるアトラクションだが*1、私としては折が合わず一度も体験したことがない。
拡大・増築を続ける巨大なディズニーリゾートにおいてはリピーターでもそんな巡り合わせの悪いアトラクションも出て来る。
(五)お土産が高い
先ほど自販機の飲料やポップコーンの専用ケースの高額さに言及したが、スーベニアショップのお土産は全般に私が子供や学生だった頃と比べても割高の感触が拭えなかった。
例えば、近所のショッピングセンターの雑貨屋さんでハロウィンやクリスマスにイベント仕様の服を着せて売られている、子供が片手で掴める程の大きさをした子グマのぬいぐるみは税込でも九百円弱である。
これとほぼ同じ大きさのミッキーのぬいぐるみバッジはディズニーのスーベニアショップでは税込二五〇〇円である*2
むろん、天下のディズニーブランド故の価格設定ではあるが、本来の相場の三倍近い。
「あのスーパーの雑貨屋さんのクマちゃんだって可愛いし粗悪な造りでもないだろうが。このミッキーにその三倍近いお金を払う価値があるか」
とどうしても大人としては感じた。
ちなみに筆者は子供だった一九八〇年代末から一九九〇年代前半にディズニーランドで中程度の大きさ(子供が抱きかかえるのに程好い大きさ)のミッキーのぬいぐるみを買ってもらったが、ほぼ同種の商品が今は税込で四五〇〇円もする*3
むろん、私が子供だった当時も決して相場からして安い物ではなかっただろうし、物価の違いもあるが、相対的にかなり値上がりした印象が拭えない。
結果的に長女はベイマックスのペンケース*4、次女は「アナと雪の女王」のサラマンダーの小さなぬいぐるみ*5 をそれぞれ選んで夫が買ったが(私が子供の頃はディズニーといえばまずミッキーマウスでしたが、うちの子たちは『ベイマックス』や『アナと雪の女王』等個別の作品は好んで繰り返し観るけれど、元祖のミッキーマウスにはさほど興味がないようです)、私自身は何も買わなかった。
以前はちょっとした書籍など何らかお土産として一品買わないと損する気分だったのだが、今は「ちょっと欲しいかな」くらいの気持ちでは手を出すのをためらうような高価な物ばかりだ。
前述した「イッツ・ア・スモールワールド」の建物を模したポップコーンの専用ケースに並んでリカちゃんを黒髪ウェーブにしてキャストの服を着せた感じのファッションドールにもスーベニアショップで目を引かれた。
しかし、こちらも税込で四二〇〇円*6
タカラのリカちゃんが税込二五三〇円であることを考えると*7、ご当地商品としてもかなりの割高である。
四〇〇〇円台といえばリカちゃんでも着物や他社とのコラボレーションなど特別な商品になる*8
なお、職業に即した装いだと「リカちゃんの憧れパティシエ」が人形、服、ボウルなど小道具のセットで税込三八五〇円*9
ディズニーのキャストのファッションドールはそれよりも一割ほど高い。
ちなみに黒髪ストレートに巫女姿の「日枝神社特製リカちゃん人形」はネットではしばしば五千円を超える高額で取引されているが、こちらは本来は七五三で日枝神社を参拝する客にのみ配布される非売品である*10
リカちゃんファンの私としては心惹かれるディズニーのファッションドールではあったが、
「所詮は母親の自分が欲しい物だし、娘たちのオモチャにするにしても一見で買うには高過ぎる」
と判断して購入は見送った。
むろん、既に四十を過ぎた大人である自分がそうなのは専業主婦で稼ぐ力がない甲斐性の無さであり、自己責任と言えるかもしれない。
しかし、小さなぬいぐるみやごく少量のお菓子、文房具まで友達同士で来ている中高生のお小遣いで買うのは明らかに敷居高い価格に設定にしているのはやはり適切だと思えないのだ。
前の稿にも書いたように、ディズニーのキャストの給与はライバルのUSJのクルーはもちろん横浜のコスモワールドのような地方のテーマパークのスタッフと比べても割安である。
業界でも最高レベルに設定された「夢の国」のチケットやお土産の収益は一体どこにどれだけ配分されているのだろうか。それは果たして公正なものと言えるのだろうか。
(六)帰宅して
前回の泊まり掛けのディズニー行きに対して今回はランドにだけ日帰りで訪れるハーフセットじみた、その代わり朝早くから夜遅くまで堪能するプランだった。
一方、園内ではまともな夕飯も取れず夜十時過ぎに帰宅して入浴後はすぐに寝るような強行日程だったので大人としても多少きつかった。
しかし、子供たちからは後日不満の言葉が出ることはなく次女は
「来年の春休みも今度はシーに行きたい」
「今度こそビビデ・バビデ・ブティックで変身したい」
と言う。
行けるかどうかは別として「また行きたい」とこの子が思えたのならば今回のランド再訪は成功だ。
*1 Wikipedia「プーさんのハニーハント」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%BC%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%AE%E3%83%8F%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%88
*2 東京ディズニーリゾート公式サイト「ぬいぐるみ」
https://www.tokyodisneyresort.jp/goods/123012565/
*3 同上
*4 小五の長女の世代では動物や人気キャラクターのぬいぐるみをペンケースにしたタイプが流行りらしく授業参観に行くと、クラスの七、八人は机に一般的な筆箱の二倍はスペースを取る動物のぬいぐるみを置いているような塩梅である。大人が見ると、実用的にも衛生的にもあまり感心しない流行である(流行、特に子供の世界のそれはそういうものではあるけれど)。なお、長女には「このベイマックスのペンケースは外に持っていって使うには大き過ぎるし、真っ白で学校の床に落としたり鞄に出し入れしたりすればすぐにホコリや何かで汚くなるから家の中だけで使いなさい」と話した。
*5 次女は前回のディズニー行きではこれと「ラプンツェル」のパスカルの小さなぬいぐるみで迷って後者を買ったのだが、率直に言って親の目には同じキャラクターの色違いに見える。
*6 東京ディズニーリゾート公式サイト「ファッションドール」
https://www.tokyodisneyresort.jp/goods/113002109/
実際には靴を入れるとこの人形は大きさ二十五センチで二十二センチのリカちゃんよりやや大きめである。アメリカのバービーが三十センチなので海外からのゲストへのマーケティングとしてリカちゃんとの中間的なサイズにしたものか。ちなみに前掲の公式サイトに出ているプリンセスの着せ替え人形である「クラシックドール」シリーズは基本的に三十センチ(例外が『アナと雪の女王2』版のエルサとジャスミンの二十九センチ、オーロラ姫とラプンツェルの二十九・五センチ、『アナと雪の女王』版エルサの三十二センチ。『アナと雪の女王』のエルサはバージョンによってドールの大きさが異なるが、アナはどのバージョンも基本の三十センチ)で手足が関節で動く仕様も含めて明らかにバービースタンダードである。十一人のプリンセスドールを詰め合わせた「ディズニープリンセス ドールギフトセット」の内訳を見ても個性を出すために敢えて全員とも基本の三十センチからは外してあるが(同じキャラクターの人形でも『クラシックドール』シリーズとこのギフトセット版では大きさが異なる)、最小が白雪姫の二十八センチ、最大が下半身が魚であるアリエルの三十四センチで全体を平均すればやはり三十センチのバービースタンダードになる。
*7 タカラトミーモール「リカちゃん LD-00 はじめよう!マイファーストリカちゃん」
https://takaratomymall.jp/shop/g/g4904810912804/
*8 タカラトミーモール公式サイト参照
https://takaratomymall.jp/shop/c/cLCDoll_ssp/
*9 タカラトミーモール「リカちゃん LD-13 あこがれパティシエ」
https://takaratomymall.jp/shop/g/g4904810194156/
*10 「皇城の鎮 日枝神社」公式サイト“FAQ よくある質問”
https://753.hiejinja.net/faq.html