表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/123

コマーシャルの記憶(二)観なかった映画の予告

 学生だった二〇〇〇年代前半から中盤、よく映画館に行った。


 本編もそうだが、他の映画の予告編を観るのも楽しみだった。


 というより、ある映画を観に行って、本編上映前の予告編で面白そうな作品があれば、次にその作品を観に行くというのが当時の映画鑑賞パターンだったし、それが映画ファンのデフォルトだとも思う。


 しかし、予告編で気になっても結局、予定が折り合わず見逃してしまう作品もしばしばあった。


 それでも、タイトルや出演俳優に覚えがあれば後からDVDを買うなり借りるなりして観ることは出来る。


 だが、気になって見逃した映画の中に一作だけ、予告編で目にした俳優にも見覚えが無ければ、タイトルも忘れてしまった作品がある。


 公開時期としては二〇〇〇年代半ば、フランスか北欧の映画だったように思う(ミニシアター系の作品だった)。


 舞台は冬は池や川が凍るような寒冷な地方で、幼い息子を持つ中年女性がヒロイン。


 無邪気な息子はある日、川に溺れて亡くなる(か行方不明になる)。


 ヒロインは息子の喪失が受け入れられず、彼の姿を探し続ける。


「パクトゥ!」と恐らくは息子の名前を叫んで事故現場の川か池の畔を駆ける場面が出てくる。


 夫はそんな彼女の振る舞いに疲弊し、テーブルをバンと叩いて

「もう耐えきれない」

と言い渡す。


 紙で作った船にやはり紙で出来た小船が寄り添うように小川を流れていく映像(恐らくはヒロインと幼い息子の象徴)。


「あの雲は、どこに行くと思いますか?」


 潤んだ瞳で青い空を見上げて呟くヒロイン。


 以上が予告編で目にして覚えている場面だ。


 この予告編自体は繰り返し目にして興味を覚えたのに、本編は恐らく当時の都合が折り合合わず見逃してしまった。


 いつかは探し当てて全編を観たいような、予告編だけで全容は謎のままにしておきたいような作品だ。


 というより、私の中でこの予告編は本当の結末を示していないコマーシャルだからこその輝きを今も持ち続けている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ