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私を作った漫画たち(四)現代の寓話「ドラえもん」

 1982年、昭和57年生まれの私は正に「藤子不二雄チルドレン」とでも呼ぶべき世代です。


「ドラえもん」「パーマン」「忍者ハットリくん」「オバQ」「怪物くん」「エスパー魔美」「キテレツ大百科」「チンプイ」「21エモン」「笑うセールスマン」「夢魔子」「タイムパトロール凡」……。


 いずれも幼稚園生から小学生の頃にテレビでアニメとして見た作品です。


 藤子不二雄はもちろん単独でも傑出したクリエイターですが、日本漫画史上に燦然と輝く最強コンビと言えましょう。


 師匠格の手塚治虫やその直系的な石ノ森章太郎よりも藤子不二雄の作品の方が自分の世代では馴染みが深いように思います(手塚治虫は兄の学年誌に『虹のプレリュード』が特別掲載されていた記憶がありますし、『ジャングル大帝』や『アドルフに告ぐ』など大人になってから個人的に興味を引かれて読んだ作品もあります。が、石ノ森章太郎に関しては純粋に漫画として読んだ作品の記憶が殆どありません。『仮面ライダー』など実写特撮コンテンツの原案者というイメージの方が強いです)。


 その中でも特に「ドラえもん」は私たちがのび太くんの両親の年配になった2019年1月現在でもアニメシリーズが継続しており、世代を超えた国民的作品と言えます。


 小学生の頃は定期講読している学年誌にも「ドラえもん」が掲載されており

「月一回来る学年誌で漫画を見て、毎週金曜日のアニメでも見て」

という、何だか宗教信者にとっての教典のようなコンテンツだった記憶があります。


 ちなみに、三学年上の兄と二学年下の弟がいたので各々の学年誌に掲載された分だけでもかなり読んだように思います。


 22世紀からやってきた猫型ロボット「ドラえもん」が四次元ポケットから出す道具は落ちこぼれ少年ののび太くんをある時は助け、またある時は翻弄する。


 これが基本は一話完結の「ドラえもん」シリーズのフォーマットです。


 しかし、このシリーズには大人になってから思い出した時にこそ突き刺さるエピソードもしばしば見受けられます。


 コミック第3巻収録16話「白ゆりのような女の子」はその典型例です。


 ある日、息子ののび太に思い出話をするパパ。


「子供の頃に出会って何も言わずにチョコレートをくれた、白いワンピースを着た綺麗な女の子が忘れられない。名前も分からず一度しか会っていないが、自分の初恋の人だ」


 のび太はドラえもんに持ち掛ける。


「タイムマシンで行って、パパの初恋の人の写真だけでも撮ってプレゼントしよう」


 しかし、その美少女の正体は現地で様々なトラブルの末に女装したのび太だった。


 持ち合せのチョコレートを少年時代のパパに手渡し、その様子を物陰から写真に撮って現在に戻るのび太とドラえもん。


「白ゆりのように清純な女の子だったんだ」


「素敵なお話ねえ」


 笑顔で語り合う両親を尻目に写真を破り捨てるのび太。


「思い出は美しいままにしてあげよう」


 夢見る子供と現実を知る大人の構図を逆転させた、皮肉で一抹悲しいラストです。


 破かれて散る写真の欠片は苦い真実を黙して語らない選択をしたのび太の心そのものの暗喩に見えます。


 普段は両親(特に母親)から叱られてばかりいる落ちこぼれのダメ息子。


 この日常があるからこそ、過去に夢見る両親を敢えてそのまま守ろうとする皮肉や意外性が引き立つ展開です。


 「ドラえもん」が初期の読者が大人になりのび太の両親以上の世代になってもなお継続しているのは、こうした大人の心にも突き刺さる現代の寓話だからではないでしょうか。

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