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「キヨハラくん」の肖像(七)「キヨハラくん」から「番長」へ

監督として日本一にも輝いた落合氏はもちろん、古巣のドラゴンズやWBC日本代表のコーチを務めた立浪氏と比しても、引退後の清原氏はプロ野球の現場からは黙殺され続けて来た観がある。


よく指摘されるように清原氏の選手としてのピークは西武ライオンズ時代であった。


ジャイアンツに移籍して以降は、成績は低迷する一方で、スキンヘッドで耳にはピアスをし、不自然に黒い肌と大きくなった体で不良選手扱いされるようになった。


「番長」という仇名には「スラッガーとしてのプライドだけは残っているものの、選手としての全うなコースからは既に外れた人間」という蔑視も込められている。


これは巨人軍の監督として彼に当たった長嶋氏の「ミスター」、原氏の「若大将」と比べても一目瞭然だろう。


そして、指導者が「悪太郎」「小天狗」(いずれもまだ若手の選手だった時代に付けられた仇名のようだが)と揶揄されていた堀内氏に代わった時、清原氏は単純に選手として振るわないという以上に、組織を乱す人間として切られるに至ったようだ。


清原氏のジャイアンツ退団に際して堀内氏は「彼は野球という集団競技には適していない」と公言したそうで、これは野球人としての完全な人格否定と言える。


実際、「清原軍団」と呼ばれた清原氏と親しい選手たちに「選手は紳士たれ」というジャイアンツの方針に背く空気が蔓延し、また、本人も打順を降格された不満からハイタッチを拒否するなどチームの士気を下げる行動が目立っていたのは事実のようで、清原氏の自業自得ではある。


そういう私も、その時期の彼が長渕剛の「とんぼ」を大音量で流しながらバッターボックスに入る姿をテレビで偶然目にして、

「あなた、その路線はやめた方がいいですよ……」

と他人事ながら思った記憶があるし、そう感じた人は多かっただろうとも思う(個人的に長渕剛は『過去にもクスリで捕まった横暴な人』というイメージしかないし、『とんぼ』も含めて良いと思った曲はない。ゴシップの多い歌手でも曲や声には惹かれる場合もあるが、この人はまず汚い声としか感じられない)。


仮に成績不振であっても西武時代のような爽やかな「キヨハラくん」風であり続ければ、監督からここまで害悪視はされなかったはずだ。


清原氏は引退後に「ジャイアンツは富士山と同じで遠目には綺麗だが、近くに寄ればゴミだらけ」という趣旨の発言をしているようだが、在籍時の言動はチームの一員として美化に努めるのではなく、むしろそのゴミを増やすものであったように思う。


巨人入りで「KKコンビ」の桑田氏とも再びチームメイトになったわけだが、この時期に関係が改善することはなくむしろ溝が深まったという記事も散見する。


清原氏がジャイアンツで演じた「番長」というキャラクターは、彼にも周囲にも害しか残さなかったようだ。


前述したように巨人時代の同僚選手が当時の彼に覚醒剤を渡していたと証言しており、風貌の極端な変化や露骨に粗暴になった言動からしても覚醒剤に蝕まれた印象は拭えない。


メディアが揶揄しつつも持ち上げた「番長」というキャラクターは覚醒剤による残酷な人格崩壊の産物ではないのか。


石もて追われる形で巨人軍を去り、オリックスに移籍した後も、彼の「番長」風は変わることはなかった。


ウィキペディアの記述を見ても選手としての終末期にあるのは明らかだったが、二〇〇八年に引退を発表すれば一日の間に球団の関連グッズがオリックスの全選手一年分に相当する五〇〇〇万円を売り上げており、プロ野球界における彼の存在の大きさが窺い知れる。


この時点では世間は「番長」となった彼をまだ見捨てていなかったのである。


それが後押しになったものか、引退後も彼は改まるどころか、まるで「番長」でなくなることが許されないかのように裏社会風の扮装でメディアに出続け、放言を繰り返すようになった。


古巣の巨人軍のキャンプに白のスーツで訪れた写真を見ると、もはや「番長」ではなく「組長」にこそ相応しい風貌になっている。


桑田氏は現役中はもちろん引退後も大きく体型が変わることはなかった。


しかし、清原氏の引退後の写真は現役中に増強した筋肉に加えて太ったために不自然に体が膨張している風に見えたり、かと思うと頬がこけていかにも病身らしく見えたりして、不健康で不摂生な生活ぶりが一目で分かる。


オリックス在籍時には巨人軍で不遇にされた桑田氏に対して清原氏が擁護するコメントを出す、清原氏の引退試合に桑田氏が駆けつける等、関係回復の兆しが見られた。


だが、引退後は過去のドラフト騒動ばかりでなく桑田氏の早稲田進学に対しても清原氏が批判コメントを出す等、第三者にも明らかな感情のこじれが見える。


清原氏の逮捕後に桑田氏は「三年ほど前から清原氏に関わりを拒否され、それ以来音信不通だった」と述べている。


桑田氏のこの発言についてはマスコミやネットでも様々に取り沙汰されているが、覚醒剤常用で心身共に不安定になっていた清原氏にとっては、桑田氏ばかりでなく深い意味で全うな交流を図れる相手がほとんど残っていなかったのではないだろうか。


逮捕直後には親交のあった野球人として元ベイスターズの佐々木主浩氏がコメントを出している。


また、検索した結果、逮捕から約一ヶ月前になる去年十二月末に、清原氏が前出した元ヤクルトで現在は楽天のコーチを務める池山隆寛氏の誕生パーティに出席しており(池山氏本人のブログにもその記述がある)、必ずしも球界に籍を置くOBと険悪な間柄ではなかったとも分かる。


しかし、佐々木氏や池山氏にしても、清原氏が覚醒剤で心身共に蝕まれている実情を知っていたかは疑問である。


池山氏については「(清原氏とは)しばらく連絡を取っていなかった」という趣旨を記しており、もしかすると、近い逮捕を薄々察していた清原氏が別れの挨拶を兼ねて昔、親しかった相手に会いに来たのかもしれないとも思われるし、そう考えると、やるせない話でもある。


なお、池山氏のブログは清原氏の逮捕後も更新されてはいるものの、今のところ、この事件に対するコメントは見当たらない。


むろん、現役の球界人として迂闊なコメントは出せないといった事情はあるにせよ、池山氏としては「(清原氏と会って)これからは、ちょくちょく連絡取って日本の球界の為に頑張って行こうと話しました。」と書いて一ヶ月後にこんなことになったのだから、心情としてやり切れないだろうと思う。


先にも述べたように池山氏も漫画の「かっとばせ! キヨハラくん」ではお馴染みのキャラクターだっただけに、そこから四半世紀経った彼らの落差が切ない。

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