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リボンとレース、あるいは蝶と蜻蛉(とんぼ)。

リボンとレース。

これは女性にとって、装飾の二大巨頭だろう。


実際、漫画やアニメなどで、女の子のキャラクターを表す記号として、リボン(またはリボン付のヘアバンド)を髪に付けるのは古典的な手段だ。


ミッキーとミニー、あるいはドナルドとデイジーを描き分けるには、長いまつげと頭に結ぶ大きなリボンがあれば事足りる。


また、小さな女の子が好んで描く「お姫様」は、フリルやレースのたくさん付いたドレスを着ている。


私が小さい頃、一番お気に入りだったジェニー人形のドレスは、ベビーピンクのサテンの地に白い小花模様のレースが縫いつけられ、足元までの裾の末広がった、典型的な「お姫様ドレス」だった。


お気に入りというより、それ以外の服を着せていると、あるべき「ジェニー」の姿から外れているようで、どうにも収まりが悪かった。


それはそれとして、リボンというと、むろんレースリボンのように一つで両方を兼ねているものもあるが、一般にはシルクやサテン、あるいはビロードのようにつややかに光るばかりでなく、触れれば滑らかな生地で出来ているイメージが強いのではないだろうか。


リボンの基本の結び方として「蝶結び」があるが、蝶の翅そのものも、シルクやサテン、あるいはビロードを思わせる。


陽光の下に飛ぶ黒揚羽くろあげはの翅は、黒地に藍色を含んだビロードに見える。

セルリアンブルーに輝くモルフォチョウの写真を目にする度に、同じ色のサテンリボンを結んだようだと思ってしまう。


ただ、本当に蝶の翅に触れると、指先にべっとりと粉が付くので、それが興ざめというか、後味が悪かった。


一方、レースは糸で編んだ透かし模様であり、指先でなぞれば一種ざらついた感触がある。


蜻蛉とんぼを初めて捕まえた、というか指先ではねを摘まんだ時、「レースみたいだ」と感じたことを覚えている。


実際、蜻蛉の翅は、あえかな黒い糸で網目状に織り込んだように映る。


解き放った後も、ざらついた感触がかすかに残るだけで指先に汚れを残さない、その清潔感が好ましく思えた。


飛び去っていく蜻蛉の翅が、夏の終わりの日差しにさっときらめいて震える残像が尾を引いた。


それからは、蝶を目にしても、「粉が付くと嫌だ」とむしろと区別無しに追い払いたくなる一方で、代わりに蜻蛉を見掛けると、「もう一度あの翅に触れたい」と感じて秘かに追うようになった。


「蝶よ花よと育てられ」とかいう慣用句を耳にすると、「蜻蛉とんぼの方がいいのに」と内心不満を覚え、「尻切れトンボ」のようにネガティヴな意味合いに使われているのを目にすると、「どうしてこんな引き合いに出すのか」とうっすら反発を覚えた時期もある。


虫を追う時期も過ぎ、リボンを髪に結ぶ年齢でもなくなってからも、レースの規則正しく編みこまれた模様を通して向こう側を眺め、織り目を傷付けないようにそっと指の腹で撫でる嗜好は私の中に残っている。


風を受けてなだらかに波打ちながら揺れるレースのカーテンは、新たな何かの到来を告げているようで、なぜか遠くなった過去を思い起こさせるのだ。

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