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短編「妖精の森」後記

 これは前にも書いたことだが、私は公開しても停滞中のままの作品はもちろん書きかけても形にならずにワークスペースに眠らせたままの作品も多い。

 前回のカクヨムコンでも「妖精」のキーワードでエルフの世界に生まれたヒトの少女の運命を描く「妖精の森」を書き出した。

 だが、冒頭のエルフの少女が赤子を拾う場面、そして蝶の翅を持つ妖精の少年が成長したヒトの少女を侮辱する場面は書けたものの結局、形にならずに終わった。

 ワークスペースにまた新たに加わった未公開作品を眺めながら

「これはどうにか形に出来ないかな」

と心残りではあった。

 そんな時、ノベルアップでエルフに関する短編コンテストの募集記事を見つけた。

 締切は五月十三日の二十三時五十九分。

 一度はあきらめたが、締切が近付くと

「今度は何とか形にしたい」

という気持ちが起こり、結局二日がかりで仕上げて締め切り日の二十二時過ぎに脱稿した。

 本当にギリギリの応募である。

 実際のところ、明確な目標を持ってのコンテストへの参加というよりも作品の完成自体が目的の参加と言って良い。

 キャラクターの名前はヒロインの人間の少女は「アカリ/明理」と最初から決まっていたが、エルフたちのそれはまだ決めていなかった。

 そこで、アカリを拾った少女エルフの名は北イングランドに伝わる少女の妖精「エインレス」を短縮して「エイン」、蝶の妖精の兄弟はモルフォ蝶とアゲハ蝶の学名(“Morpho”、“Papilio”)からそれぞれ取って「モーフォ」「パピロ」とした。

 「モーフォ」に関しては最初から「モルフォ蝶の翅を持つ少年」のイメージだったのですぐ決まった。

 ティンカーベルにも代表されるように妖精というと「蝶の翅を持つ美(少)女」だが、それだとありきたりなのでエインとの描き分けの上でもモーフォは少年にした。

 ちなみに作中には出していないが、モーフォ・パピロ兄弟の母妖精の名は「アグリア」で、こちらも赤と青のコントラストの美しい翅を持つ南米の蝶「アグリアス」のもじりである。

 また、これも作中には出していないが、冒頭に登場するエインの母妖精の名は「ディーナ」。一般的な女性名ではあるが、ヘブライ語で「正義」の意味になる。

 短編なので作中では妖精の世界の一部しか示していないが、こちらの世界ではエイン母娘のような翅はないが魔法の使える種族とモーフォ一家のように翅で飛べても魔法は使えない種族に大きく二分される(稀に翅もあって魔法の使える個体もいるが、それは人間の世界における超能力者的な存在である)。

 また、魔法も人間にとっての学問やスポーツ、武芸と同じで適切に使えるようになるには学習と修練を要するため、エインのような魔法の使える種族の子供は学校に通って読み書きと一緒に魔法の使い方も習う。

「ブリンギット(Bring it)」「ターニット・インタ・レッド(Turn it into red)」等々、エインが用いる呪文は英語を基にしている(後で検索し直したら、動詞の“turn”は色に用いる場合は前置詞は不要で『赤/青に変われ』は“Turn it red/blue”が正しいようですが、飽くまで異世界の呪文で英語とは似て非なる言語ということで)。

 当初はラテン語か古代ギリシャ語がどうかと考えたが、残念ながら筆者にそうした古語の素養が全く無い上に締め切りも迫っていたので、そもそもエインがイギリスの妖精を基にしていることからも英語風にした。

 エインは森に捨てられていたヒトの赤子を拾い姉として接する心優しい少女であり、また、学校で習った魔法の練習も熱心にする生真面目なエルフでもある。

 それでも、まだ少女の彼女の魔法(赤い薔薇を完全に青くは変えられない、奪われた籠を自分の手元には引き寄せられても中身はバラバラ、水に落ちたモーフォを流れの速い川から完全に引き上げることはできない)には未熟な面が多い。

 一方、モーフォについては「子供の残酷さ」を意識したキャラクターになった。

 むろん、弟のパピロを可愛がるなど善良な面もあるが、アカリにとっての彼はヒトである自分を蔑んで虐める加害者である。

 だが、まだ少年であるモーフォの差別心は同じエルフの父親など周囲から植え付けられたものであり、そもそも作中のエルフの世界でのヒトが人間の世界のイヌやネコのようなペットか奴隷に近い存在のためである。

 モーフォを叱責する母親のアグリアも

「よその飼い人をいじめるな」

とアカリを飽くまで同じエルフのディーナ・エイン一家の所有するペットとして扱っている。

 仮にディーナやエインが見捨てて家から追い出すか、あるいは母娘とも亡くなれば、その瞬間からアカリは人間の世界の野良犬・野良猫に類する境遇に落とされるのである。

 劇中のエルフの世界にはそうした野良人のらびとも各所に生息しているはずであり、そうした人々はそれこそまともな躾も教育もなされずに飼い主に遺棄されて荒んでいたり生きるために食べ物を盗む等の悪事を働いたりしているのかもしれないのだ。

 飼い人にしても、アカリのように主のエルフから家族として愛され大切にされるケースばかりではないはずだ。そこは人間の世界のペットと一緒である。

 物語は翅が折れて川に落ちたモーフォをエインとアカリがそれぞれのやり方で助けようとするクライマックスを迎える。

 アカリは初めて自分で作った翼で飛ぶ。

 結局、アカリはハンググライダーの墜落事故で昏睡していた明理あかりとして元の人間の世界で目を覚ます。

 エインやモーフォと過ごした妖精の世界は夢だったのだろうか。

 末尾で明理とその母が新たに見つけた森の奥の赤子の正体は敢えて明らかにしていない。

 むろん、単なる捨て子で人間の赤ちゃんかもしれないし、エインやモーフォのようなエルフの赤子かもしれない。

 だが、もし後者ならば、エインやディーナがアカリにしたようにこの赤ちゃんは今の人間の世界で温かく育てられるだろうか。



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