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パーティー追放物について

   散櫻記さんおうき

 柔らかな陽射しの差し込む春の午後の茶館の一角。

 丸い卓子テーブルを囲むようにして五人の男女が座っている。

 正しくは茶館全体が見渡せる席に中背の左の腕に長剣を抱えたまだ十八になるやならずのあかころもの若者が腰を下ろし、その右隣に彼にしなだれかかる風な十六、七の薄桃うすももの着物を纏う華奢な娘、左隣には二十歳はたちほどの体格の良い黄色い上着の男が陣取っている。

 華奢な娘の隣にはより小さな十歳にはなるかという薄青うすあおの服を着た少年が腰掛け、そしてその更に隣の、最初の紅い衣の若者とはちょうど正面から向かい合う位置には緑衣りょくいを纏った二十二、三になる女が座していた。

尋真シュンジェン

 紅い衣の若者は緑衣の女にどこか挑むような笑いを浮かべて呼び掛けると、ぎゅっと剣の柄を掴む左の手に力を込めて続けた。

「今日で俺たちのなかまから外れてくれ」

 若者の両隣にいる薄桃と黄色の二人もどこか冷たい薄ら笑いを浮かべてその様を眺めている。

 薄青い服の少年だけは何だか恐ろしいものでも目にするような面持ちで見入っていた。

「そう」

 緑衣の女は艶ある豊かな黒髪に比して小さな頭を軽く頷かせる。

「分かった」

 席から立ち上がった女はまるで最初から用意していた挨拶のように語る。

「それでは、皆さん、私は今日で離れますが、これからのご無事とご武運をを祈っております」

 淡々と述べる女の声に薄桃と黄色の二人の面持ちも固くなった。

 薄青い服の少年は茫然と立ち上がった女を見上げている。

 相対する紅い衣の若者だけが冷ややかな笑みを浮かべながら、しかし刀の柄を握る手を微かに震わせて見詰めていた。


*****

「待て」

 紅い衣の若者は緑衣の女を追いながら懐から服と同じ紅の、だが素材はもっと豪奢な絹の巾着を取り出す。

「帰りの旅費だ」

 真っ直ぐに自分を見詰める女の胸の前にむしろ不要な物を押し付ける風に差し出した。

「一緒にやってきた仲間を無一文で追い出したなんて言われるとこれからの俺たちの旅にさわるし、女一人は色々と危険だからな」 

 四、五歳上の女に対して十八の若者はむしろ自分の方が年嵩であるかのように尊大な笑いを浮かべて語る。

「ご心配なく」

 緑衣の女は苦い物を含んだ顔つきで頭を横に振りながら受け取った絹袋を手に持つ籠に仕舞う。

「このお金はおばさんと阿瓏アロンにそのまま渡すから」

 阿瓏、と耳にした瞬間、今度は紅い衣の若者の面に痛みとも苦みともつかない色が走った。

「また大哥にいさんか」

 尊大な笑いの消えた若者は恨みの滲んだ声で言い募る。

「旅をしていても、いつも大哥の話ばかり」

 今度は自嘲めいた乾いた笑いが漏れた。

「大哥なんかもう自分では外にも出られないのに」

 次の瞬間、その精悍な面の頬を女の小さな手が強かに打った。

「誰のせいでそうなったと思ってるの」

 女は手に持つ籠から紅い巾着を取り出して目に微かに光るものを宿した若者の足元に放る。

「さよなら、小璨シャオサン

 緑衣に艶やかな黒髪を垂らした背中は二度と振り向かなかった。


 ここまでが以前にパーティー追放物を自分でも書こうと思って書きかけた小説の断片だ(もしかすると、何かの企画に参加させようと書き出したものだったかもしれない)。

 ご存知の方も多いだろうが、パーティー追放物とは少し前にネット小説やそれを基にしたコミカライズで流行ったジャンルの一つだ。

 一般に西洋風の舞台、ロールプレイングゲーム的な世界観。

 魔物を倒す戦いを続けながら旅をするパーティーで地味な能力を持つ主人公が仲間から無用にされて追放される。

 だが、実は主人公こそが縁の下の力持ちで追放後は単独で成功し、追放した仲間の方がその後は破滅してしまうというのが定石のようだ。

 いわゆる「ざまあ」、主人公を虐げていた悪役たちの悲惨な末路を爽快な復讐として読者が楽しむジャンルと言えよう。

 だが、個人的にはその手の作品を少し読んで

「何だか今まで一緒にいた仲間からここまで侮辱や嘲笑を浴びせかけられる主人公ってそれまでよほどムカつく奴だったんじゃないかと勘繰っちゃうな」

「仮に主人公が善良だとして、それをこんなケチョンケチョンにコケにするような、いかにもいじましい連中と一緒にいるのは不自然だし、そういう仲間とそれまで行動を共にしていた主人公にも疑問符が付いてしまう」

と違和感を覚えた。

 一応は同じ正義を果たす目的を持って旅していた仲間の破滅を「ざまあみろ」と嗤う主人公というのも率直に言って矮小に思える。

 むろん、パーティー追放物の流行は能力を搾取されて使い捨てられたり不当に低い評価を受けたりして不遇感を抱えている人が多い現実社会の反映なのだろう。

 だが、自分はジャンルに関わらず装置ではない血の通った人間を書きたいと思う。

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