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幽霊、亡霊、ゴーストの女たち

 ここ最近、掌編レベルですら完結した小説がなく「このままではいけない」と悩んでいた。

 カクヨムの佐々木キャロットさんによる自主企画「三題噺『心霊現象』『フェミニスト』『饅頭』」への参加作品もワークスペースに書きかけのまま未公開にしていた。

「このまま参加させずに終わりかな」

と思っていた(今までもそんな風にしてワークスペースに未公開のまま眠っている作品は多い)。

 だが、締め切りの間際になって急に

「これはやっぱりきちんと形にしたい」

と思い、掌編「仲居のまま」を脱稿した。

 企画主さんにはご迷惑だったと思うが、こちらとしては感謝している。

 この作品は「現代ドラマ」として投稿したが、幽霊が登場するので一般的なジャンル分けとしては「ホラー」になるのだろうか。

 ただし、部屋に布団敷きに現れた仲居の女性が本当に亡霊なのか、語り手の女性客の観た夢なのかは不明である。

 なお、死後も生前と同じ職務に勤しむ女性の幽霊という設定は、以前に書いた「あたしゃ、このお屋敷にお勤めして四十年になりますよ。」と一緒だ。

 だが、一八七一年、シカゴ大火の年に生まれたアメリカ人メイドのマリリン・モンロー(敢えてこの名にしました。なお、作中にも書きましたが、ハリウッドスターだったマリリン・モンローは芸名で本名はノーマ・ジーンです)の明るさに対してこちらの最後まで名前を持たない中年仲居はもっとウェットである。

 ちなみに前者については東京ディズニーランドにある「ホーンテッド・マンション」の墓石の上で微笑む肖像画の老婆にヒントを得て、欧米の伝承にあるメイドの幽霊「シルキー」と融合させたものである*1

 「ホーンテッド・マンション」自体がディズニーらしい、死者でありながらどこか死者としての暮らしを楽しむ陽気さを失わない幽霊たちをコンセプトにしたアトラクションなので、作中の老女ゴーストも明るい語り口のキャラクターになった。

 一方、「仲居のまま」の幽霊仲居についてはモデルにした女性たちが哀しい影に包まれている。

 子供、といっても小学校中高学年だった一九九〇年代前半、家族で観ていた情報番組で、夫を殺して他所に逃げ、そこで旅館の仲居をしていた女性が逮捕されたニュースがあった。

 仲居の着物姿をした犯人の写真も出ていたが、「普通に旅館で見掛けそうなおばさん」(写真の風貌も報道された年齢も確か四十代半ばであった)という雰囲気であった。

 「夫からの暴力に悩んでいた」という動機だった気がするが、いわゆる猟奇殺人や連続殺人の類でもなく、また有名な福田和子のように美容整形で顔を変えて何年も逃亡生活を続けるといったピカレスク・ロマン的な派手さもないせいか、その後のメディアでも目立って取り上げられることはなかった。

 だが、子供にも何となく痛ましく感じたのを覚えている。

 大人になってから

「昭和の頃、旅館の住み込みの仲居には夫からの暴力で逃げ出した女性など不遇な人も多く、そうした行き場の無い女性の弱みに付け込んで男性客が性暴力を働くケースも多かった」

という話を聞いた。

 前述の殺人事件が起きたのはもう平成に入った時代だったが、特にお年寄りには離婚した女性を「出戻り」と嘲ったり「夫から殴られるような女は本人も馬鹿だから」と蔑んだりする人がまだ多かった。

 逮捕された女性もそうした社会の空気で追い込まれたのだろうし、劇中の幽霊仲居も当時の社会における犠牲者の一人である。

「良い女は天国に行ける。でも、悪い女はどこにでも行ける」

 これは実際には学術的なフェミニストではなく一九三〇年代のアメリカで活躍した女優メイ・ウエストの言葉である。

 妖艶なイメージで当時のアメリカ社会で叩かれることも多かった人とのことだ。

 この人が今より男社会だったハリウッドで苦難と努力を重ねたことに疑いはない。

 だが、セレブリティでもない平凡な女性の現実においては「悪いとされた女はどこにも行けない」ではないだろうか。

 無縁仏の墓地から生前の職場に移動した幽霊の彼女は死後もなおベストではなくワーストより少しでもベターを選ばざるを得ないのではないのか。

 私には作中の旅館には他にもそんな風にして住み着いている女性の幽霊が沢山いるように思える。


*1 Wikipedia「シルキー」

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%BC,(2025−4−27参照)

なお、伝承のシルキーは一般に若く美しい女性のイメージである。この辺りは日本の怪談に登場する女性の幽霊と共通するステレオタイプと言えよう。

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