Ep1 ~風景を切り取る~
鳩、一匹、飛ばない。
カシャッ
ジーーーッッ
「君、うまいね。何年撮り続けてるの?」
「5年と少しです。」
少年は笑みを浮かべながらへこっと会釈した。
かなり童顔で痩せている、そして私より10㎝程低いだろうが、話し方からすると高校生だろう。
おまけに私はヒールを履いているから身長差は20㎝ほどか、その少年がもっともっと幼く見える。
「デジタルカメラは嫌い?」
少年の持っているカメラから、たしかにフィルムを巻き取る音がした。
何かこだわりがあるのだろうと、聞いてみた。
「紙に絵を描くより、樹を彫りたいんです。」
風貌に似合わない渋い台詞に、私は少し驚いた。
小さいフォルムに可愛らしいレンズ。彼の持っているカメラはBigminiだろう。
当時は値段こそ高かったものの、プロが使うような名機ではないし、家庭でよく愛されていたタイプのものだ。しかもこの少年が生まれる以前に発売されたモデル。
「君には似合わないカメラじゃないかな。フルマニュアルの一眼レフフィルムとか使わないのかな。」
「ホールド感が良くなくても、手ぶれはしない。ズームしたいなら自分で近寄る。ぼかしは僕が作る。
出来上がった写真がすごいのは、決してカメラの性能じゃなく、僕の腕だということを証明したいんだ。」
5年などという歳月はあっという間に過ぎる。カメラの技術はそんな期間で出来上がるものではない。
でも彼は、違った。
カメラにこだわらないところから他の人とは違うのだ。
「高校の写真部に所属しているの?」
「いえ、ただの趣味です。」
彼がカメラで撮っている様子はまさに"風景を切り取る"ようだった。