「笑顔の作り方」
暑さにやられたのは私だけでは無いはず。
ただ一緒に居るだけのクラスメイトたちに目をやった。
チラリと一瞥しただけなのだが、一人の男子と目が合った。
朝の男子だ。
名前は知らない。忘れたと言うより、知らない。
一秒にも満たないその一瞬だが、目が合った瞬間、目をそらしたのは男子の方だった。
たまたま目が合って気まずくなり反らしたのだろう。
授業中、やっぱり暇な奴は暇なのだと私は思った。
「雪ちゃん」
「・・・・あーども」
「どもじゃないでしょ!朝、何で宮内君と一緒に来たの?」
休み時間に入り、五分という少ない時間で私にそう問うてくるのは席が離れており、あまり話したことのない女子。
あまり話した事が無いが、この女子は人懐っこい為、記憶にも残らないような私でさえもこうやって話しかけて来る。
しかし、気がかりなのは「ミヤウチクン」という人物だ。
その前に「朝」とついていたということは先程目の合った男子、だろうか。
「一緒というか、玄関でバッタリ偶然。そんで遅刻しかけて走った…ってな感じ」
「へーそうだったんだ。ね、雪ちゃんって宮内君のことどう思う?」
「どうって、別に、特には無いけど」
一体何なのだろうか。
じーっとこっちを見つめる目の前の少女に目を離したくもなるのだが、離せば逆になにか面倒な事になりそうだった。
「ふーん。ま、雪ちゃんだもんね」
「え、何が」
雪ちゃんだもんねって何がだ。
「んーん。何でもない!あ、ねね、雪ちゃんに相談が有るんだけどぉ」
「何」
「宮内君に、女子の好みのタイプを聞いて欲しいなぁ…なんて?」
「自分で聞かないの」
普通そういうものは仲の良い女子か、自分から聞くんじゃないだろうか。
それを何故、ほぼ話したことのない私に頼むのだろうか。
「自分だと、ほら、バレちゃうじゃん?でも雪ちゃんだとその心配がないっていうかぁ」
「ふーん。そういうものなの」
「うん。そういうものなの!」
いい笑顔で言って来る彼女。
いや、やっぱり自分で聞いた方が諦めとか、希望とかが生れるんじゃないか。
「そのミヤウチ君とはあまり話したことないから期待はしないで」
「うんうん!オーケーオーケッ!!ありがとね!報告待ってる!」
彼女は表情の変化が激しい様だ。
最初に話しかけて来た時には若干怒り気味だったのに、今では超ご機嫌な笑顔。
彼女は楽しいんだろうな。
そんな変化の著しい表情ができるのだから。
羨ましいとは思わない。
ただ、どうしたら今の生活を満足行けるように過ごせるのか、聞いてみたい。