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ALICE  作者: みれにあむ
第二章 I don't know my amnesia.
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第二章 I don't know my amnesia.(4)

 第一稿はプロットと変わり無い短さで、

 第二第三稿は必要以上に膨れ上がって、

 何度も推敲して整形していくやり方でしかお話を作れない私です。


 これはまだ、膨れ上がって未調整なバージョン。でも、投稿しちゃいますけどね! 改稿は書き上げてからになるでしょうねー…。

 昔はプリントアウトしてから、真っ黒に成る程書き込んで調整していたのですが、プリントしてない今のやり方で調整し切れているかどうか…。

 まだまだ修行中なのですよ!

 所長からは、配達が終わればそこで解散でいいよと言われていた。

 『お早う、お元気』は主人公が新聞配達のアルバイトをしていただけに、こういう時の語彙が豊富で助かっている。

 自然な会話に近い感じで所長とはお話出来ているけれど、でも、『お早う、お元気』以外の台詞が出てこないところが、自然な会話とは少し違う。

 辿々しくても、施設の子供達との会話の方が、まだ自然だ。

 今日は空も快晴で、赤い雨も降りそうにない。いつも覆い尽くす様に漂う油膜の様な雲も薄くて、ほんのり紫掛かっている様な気がする。青い空までもう一歩な感じ。

 天気もいいし、少し気分がいい。駅前まで茉莉花を負ぶって行けと言われても、今日なら許せそうな気がした。

 ――プシュー……プシュー……

 茉莉花の家から飛び出てきていた女の子が、空気入れを持ち出してきて、自転車のタイヤに空気を入れ始めていた。弾みをつけて飛び跳ねて、どことなく楽しそうにも見える。

「お早うございます。茉莉花の妹さん? 今日の新聞ですよ」

 声を掛けたからか、それとも急に影が差したからか、女の子はびっくりして文字通り跳び上がってから、おずおずと振り向いて亜理朱を見上げた。当惑して揺れる眼差しが、むしろ亜理朱を居たたまれない気持ちにさせる。

「え……と、あなたのお姉ちゃんの名前は茉莉花っていうのよね?」

 亜理朱の問いにも、女の子は体中でどうしたらいいのかわからないと訴えるばかりで、埒が空かない。浅い息をつくばかりで、見捨てられた空気入れがカシャンと地面に倒れる音ばかりが大きく響いた。

(もしかして、ここって茉莉花の家じゃなかったっけ?)

 不安を覚えたけれど、亜理朱の記憶はここを茉莉花の家だと告げている。

「ねぇ、どうしたの? あなたがそんな風にしていたら、お姉ちゃんも、どうしよう、何か変なこと言っちゃったのかしらって、パニックにならないといけなくなるよ」

 はっとしたような顔を見せた女の子の表情には、何処かその言葉に救われたようなところがあったが、それでも亜理朱自身や亜理朱の差し出す新聞に対しては何の反応も示さない。

 その女の子の様子が何処か怖くなって、取り敢えず新聞ポストの中に新聞を入れた。すぐさまカチャリと反対側の蓋が開けられ、回り込んでいた女の子が入れたばかりの新聞を持って家の中へと駆け込んでいった。

(……そうか、こういうシーンを知らなかっただけなんだ)

 彼らは普段どんな会話を家庭の中で交わしているのだろう。いつも同じ会話、それから逸脱すると返事も返してもらえないのだとすれば、それはあまりにも悲しすぎる。

 いや、そんな子供時代を送ってきたからこそ、彼らは人間を真似るということに対してしか価値を認められなくなったのかも知れない。

 茉莉花の様に亜理朱がいたり、ジャンク屋の小父さんの様な何が違ったのかは分からないけれど自然に振る舞えたりする住人は、それこそ特別なことなのだ。

 亜理朱自身、そんな相手は数える程しかいない。その数える程の相手の中でも、亜理朱自身が影響したのを除けば、小父さんと――ナイン、ぐらいだ。

 もっとも、クラスメイト達も、切っ掛けが有れば普通に喋れるのかも知れないと、昨日の茉莉花との会話を聞いて思ったのだけれど、でも、多分その間にはとてもとても高い壁が有るに違いない。

 今日出会った、新しい配達先の住人達。彼等には、会話を楽しもうという気配が、そもそも希薄だった様に思える。

 思い起こせば、元の配達先の住人達も、初めの頃は似た様な反応だった。返事が返らないことを知っていながら挨拶を繰り返していた亜理朱が、それに特に感想を抱いていなかったのは、多分寂しいという感情も麻痺していたから。それでも挨拶していたのは、やはりどこかで寂しいと思っていたのかも知れないけれど。

 『あ、お早うございます。精が出ますねぇ』『ああ、お早う』。たまたま新聞配達で体操をしているお兄さんに行き会った時に、何となく掛けた声が始まりだった。

 それが、朝のドラマと台詞が同じだったのもたまたまだった。『今日もいい天気だ。空気が美味しいねぇ』。珍しく返ってきた反応に嬉しくなった私は、『ええ、雀達もちゅんちゅんと嬉しそうです』。居もしない雀をネタに、ドラマ通りの台詞を続けた。『はい、今日の新聞ですよ』『ああ、ありがとう』そして『ご苦労さん』と返ってくる。

 きっとあのお兄さんも、その日はずっとドキドキしていたに違いない。亜理朱も泣きそうに嬉しかったのだから。

 なのに、その後がなかなか続かない。ずっと一緒に居た茉莉花にしても、一年以上、ドラマ以外の台詞は口にしなかった。

 それは街の住人相手に、ドラマの台詞を口にする癖が付いていた亜理朱の所為もあるけれど、それでも今の様に自由にお喋りできるようになったのは、この中学三年生になってからだ。

 施設の子供達にしても、『予備品』である彼等の出入りは頻繁で、自由にお喋り出来る様になる程ではない。亜理朱だってほとんど施設には寄りつかなかったし、そもそも必要最低限のことしか口にしなかった様に思う。それでなくても、施設にいる様な子供達は、ほとんど産まれたばかりの子供達なのだ。

 人間で言うなら赤ちゃんでしかない子供達。クリちゃんやリンちゃんがお喋りできるようになったのは、それこそ絵本を持って積極的に亜理朱の後ろを付いて回ったり、もしくは偶々『予備品』の出番が無くて長い間施設に留まっていた結果だ。

 でも、お喋りできるようになったことが、本当に幸せなのかは分からない。

 クリちゃんが未だに施設にいるのも、リンちゃんが施設の職員をしているのも、外の住人達と馴染めずに、いつの間にか戻ってきていたからだ。

 そんな出戻り組の子供達が、亜理朱のいる施設に増えてきている。

 ずっと気にも留めていなかったけれど、きっとこれも亜理朱がそこにいた影響なのだと考えると、少し背筋が薄ら寒くなる様な気がした。

 昨日と変わらない今日があって、今日と変わらない明日がある――そんなことはきっと嘘に違いない。でも、急に明日が変わる訳でもないのだから、そこには移り変わりの狭間で苦しむ子供達はきっといる。

 リンちゃんが何度も出戻っていたときは、亜理朱もおかしくなっていた頃だ。正直どんな様子をしていたかなんてほとんど憶えていない。でも、クリちゃんが施設に戻される度に、亜理朱から離れようとしなかったのは憶えている。今となっては施設を出ること自体を嫌がって、もうこのまま施設の職員になろうと手伝いに励んでいるのを知っている。

 きっと、亜理朱の施設の子供達は大丈夫なのだろう。外の生活に馴染めなくても、施設に戻ればリンちゃんとクリちゃんがいる。

 でも、外の子供達は? 茉莉花は、家族の中で幸せに暮らしているのだろうか。

 すぐ横で、シューっと音を立てながら、女の子の自転車がせっかく入れられた空気を吐き出していた。

 どこかに穴が開いているのだ。でも、直せない訳じゃない。幸いパンク修理セットは亜理朱の自転車のサドル裏に貼り付けてある。予備のチューブだって持っている。

 直せない訳じゃない。何処かおかしい街の様子も、幸せそうに見えない住人達も、遠く忘れていた亜理朱の願いも。

 まずは、茉莉花の妹と仲良くなることから始めよう。今までは、流されるままに時間ばかりが過ぎていた。茉莉花と友達になったのも、リンちゃんやクリちゃんに懐かれているのも、ナインと出会ったのも、無意識の心の動きはともかく、そうと望んで起こした変化じゃない。

 でも、自分で望んで変えていこうとしたのなら、違う何かが変わっていくのだろうか。

 亜理朱は女の子がもう一度出てくるのを、自分の自転車に寄りかかりながら一人待つ。

 茉莉花の家の玄関に、響く足音が外に出てくるまでもう少し。

 亜理朱は頬に笑みを浮かべる。

 茉莉花の家の扉が開くまで、あと少し。

 初期稿が青臭すぎて、次回投稿がもの凄く苦労しそうです。

 今回も独白回でしたし。

 次回はほぼ亜理朱と茉莉花と茉莉花の妹と茉莉花の母との遣り取りですけどね!

 初期稿とは副題も変えて、内容がらりと変わっているので、大変です♪

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