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ALICE  作者: みれにあむ
第二章 I don't know my amnesia.
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第二章 I don't know my amnesia.(1)

 久々です。

 いやー。二ヶ月経ってたなんて、有り得へんね。


 暗いノリが続きます……。

 更新しないよりは遙かにマシと、今回から短めで投稿していきますよ。

 亜理朱はキィキィと音を立てて揺れる銀杏の葉をじっと見ていた。

 茉莉花とは既に別れて、今は一人。亜理朱が暮らす施設の玄関先。

「亜理朱、お帰り!」

 亜理朱に気がついた子供が一人、建物の中から飛び出してくる。施設で一番仲がいい、くりくり(まなこ)のちっちゃな女の子。

 名前は、まだない。

「ねぇ、何見てるの?」

「ん? 葉っぱを見てるの」

 錆び付いた葉は、風に揺れる動きもぎこちなかった。

「え……と、クリちゃん、油取ってきてくれる?」

「うん!」

 目がくりくりしているからクリちゃん。クリちゃんが亜理朱に懐いているのは、仮とは雖も名前を付けてあげたからではないかと亜理朱は思う。

 たとえこの世がアンドロイド達の世であると言っても、感情のない無味乾燥した世界という訳ではない。

「ん、ありがと」

「手伝うよ?」

「そう? じゃ、お願い」

 玄関横の銀杏の木も、学校に生えている桜の木も、どれも鉄とペンキで出来た偽物。

(そして、私達も……)

 (いや)、本当の人間ではないかも知れないけれど、偽物というのは正確ではない。ずっとこの街に暮らして、後ろ向きになりすぎてしまっていた。

 亜理朱達は人間ではないけれど、本物のアンドロイドだ。それは間違いのないこと。嬉しそうに油差しを手伝うクリちゃんが偽物だなんて、そんなことを考えるのはまるで無意味なことだ。

 そう考えて、亜理朱は少し反省する。

 今日は楽しい一日だった筈なのだ。


 油差しは、初めてすぐに施設の職員によって止められた。

「二人とも、何してるの? 外はもう真っ暗よ。亜理朱、みんなもうごはん食べちゃったんだから、早く中に入りなさい」

 たまに連絡なしで遅く帰るのも、職員達にはいい刺激になっていることを知っていたので、亜理朱はしおらしく「ごめんなさい、友達と映画を見に行ってたの」と謝る。

 亜理朱と同じ歳で、体はずっと大人な職員達を適当にあしらいつつ食事を食べた後で、亜理朱は再び銀杏の木への油差しを再開した。

 薄く錆も浮いて、誰にも省みられなくなった木が寂しげな音を立て続けているのはたまらなかった。

 後ろに着いてきていた職員の一人が、さっきから随分と大人しい。

「……リンちゃん、どうしたの?」

 首を傾げた亜理朱に、リンちゃんは少しむくれた様子で俯いている。リンちゃんの方が背が高いから、正直俯いているのか見下ろされているのか分かりにくいけれど。

 リンちゃんは、亜理朱が施設で暮らし始めた頃に、何時も亜理朱の後ろをついて回っていた子供だ。一度何かの役割を割り振られて施設の外に出て行ったけれど、二年程前に今度は施設の職員としてまた戻ってきた。

 一目で分からない程に大きくなっていたから、亜理朱は気が付かなかったけれど、リンちゃんの方で気が付いて、驚いて呆然とされていたのを憶えている。

 いつも抱え込む様にして手放さなかった絵本が「リムクラは冬の子供」。リンちゃんと名付けた元になったその絵本は、今もまだ施設の本棚の中にある。

「友達……て?」

 拗ねた様な口調に、亜理朱は少し笑ってしまった。

 気が付いてみれば何と言うこともない。施設の住人は、亜理朱がいたせいかもしれないけれど、ちゃんと自由に喋ることが出来ている。

 施設の住人とは、これまでもそんなに積極的に関わろうとはしてこなかった。

 学校から戻った後も、何時も外を出歩いていて、偶に施設に戻った時にも部屋に閉じこもるばかりだった。

 なのに、皆こんなにも自由に感情を操っている。

 そこに亜理朱がいただけで、こんなにも違いが出るというのなら、切っ掛け次第でこの街も大きく姿を変えていくのかも知れない。

 少なくとも、この街のそこかしこに、施設で暮らしていた子供達はいるのだろうから。

「学校の友達よ?」

 軽く答えた亜理朱に、リンちゃんが少し口を尖らせる。

「……ずるい」

 そう言えば、リンちゃんが施設にいた頃は、学校に通っていなかったと思い出す。

 それどころか、亜理朱もほとんど出歩いていたから、朝と晩に施設で会う以外にリンちゃんと過ごした時間はなかった。

 でも、多分リンちゃんも友達ということで間違いないのだろう。

「本当はずっと歳下の友達よ? リンちゃんはたった一人の、私と同じ年頃の友達でしょ?」

 暗にそんなに拗ねないのと笑いかけた。

 でも、そう言えばジャンク屋の小父さんは、本当は何歳頃なのだろう。もしかしたら、リンちゃんがたった一人というわけでも無いかも知れない。でも、そんなことは言うこともないことだ。

 軽く笑いかけて油差しを再開しようとすると、後ろから抱き締められて少し慌てた。

「ちょ……と! 油で汚れちゃう!」

「うん……友達、ね」

 リンちゃんは聞いていない。でも、まぁ、いいか。

「――ん、これでよし」

 しっかり油を差した木々は、少々くたびれてはいても、吹く風にキャラキャラと小気味良い音を立てる。こうでなくちゃ、銀杏の木もやるせないだろう。


 少しばかり心を晴らし、亜理朱が戻った施設の交流室で、クリちゃんがじっとテレビの画面を見ていた。

 画面の中では、破壊されたシャトルの車両と泣き叫ぶ人々。

 亜理朱がまだ見たことのない映像。

 勿論、今までもテレビで何度も流れていたのかも知れない。でも、亜理朱がテレビの前にいるのは、食事の時間くらいしかない。

 ずっとそんな映像には価値がないと思っていたから、気に留めることもなかった。

 でも――

「何……これ? 何時の事件?」

 映像の中の空は赤い。夕焼けとは違う、油を流した様な色の空。

 そして、流れる映像はこの街のシャトルの駅だ。それは間違いない。

 発掘された昔のニュースの映像だというなら、空は青いから直ぐに分かる。最近リメイクされた作られたニュースの映像だというなら、役者が大根で空気感がまるでないからそれも直ぐに分かる。

 でも、この映像の人々は、真剣に惑い、狼狽え、憤り、悲しんでいる。

 空が赤いなら、この人達もきっとアンドロイド達だというのに……。

「さぁ。……でも、凄いね……ほんとに素敵。まるで映画のシーンそのままよ」

 うっとりと呟くクリちゃん。

 亜理朱は何を言えばいいのか分からず、黙り込んだ。

「ロボット追放運動なんだって。凄いなぁ……誰が演出してるのかなぁ」

 テレビの中では、『自由への翼結社』などというテロ組織からの犯行声明が読み上げられている。

『――いずれ全ての人々が我々の正しさを知るだろう。かつて世界を滅ぼしたのは、あれら機械共に他ならない。駆逐せよ、我々が自由に生きるためには、機械共を駆逐しなければならないのだ。機械もロボットも我々の生には必要がない――』

 じっと画面を見詰めながら、亜理朱は情報を拾い集める。

 シャッターで閉じられたシャトルの駅。そこは確かに荒れ果て破損していたけれど、それが何時の頃からなのかは結局分からなかった。

 画面から見て取れる情報からも、それが何時のことかは分からない。

 せめて日付なりが入っていればと思えば、そこだけは今日の日付に置き換えられていた。何とも理不尽だ。

 でも、少なくとも泣き叫ぶ人々は、自分の配役をこなすだけの真似事には収まっていない。それとも……空が赤くても、まだ人間達は生き残っていたのだろうか?

 父様達は、人間は随分昔に滅びてしまったと言っていた。だとすれば、ロボットの破壊を謳うこの人達も、ロボットである事に変わりないだろうに……。

 どちらにしても、遠い昔の事なのだと亜理朱は首を振った。

「これ、作り物のニュースじゃないよ。きっと多分本当にあった事だから」

 クリちゃんが、何を言っているのか分からないという風に、振り返って亜理朱を見た。

 空が赤ければ作られたニュース。確かにそんな事を昔言った覚えがある。

 でも、これは違う。きっと違う。

 この街の中に時々見る事が出来る、不可解な破壊の傷跡。シャトルの駅しかり、ビル間の情報網断絶、そして破壊の限りを尽くされた中央図書館地下データバンク。

 ナインの棲む地下データバンクが滅茶苦茶にされていたのの理由がずっと分からなかったけど、その糸口を掴む事が出来た。

 不快感と嫌悪感に、自然と顔が歪んでくる。

「わからないよ。こんな……こんな酷いこと」

 クリちゃんが一瞬可哀想なものを見るように亜理朱を見たが、その次の瞬間には驚いたように目を見開き、ぶるりと体を震わせた。

「亜理朱って、凄いな。私、負けてられないわ」

 えっと見返す亜理朱に、感心の眼差しを返している。

 亜理朱はまた口を閉ざす。亜理朱と他の街の住人はやはり違う。幾ら近づいたと思っても、こういう時に思い知らされてしまう。

 それともこれも、亜理朱の思い込みに過ぎないのだろうか。

 決して癒されない不協和音。すれ違う心と心。亜理朱に差す油は何処にあるのだろう。

(でも、映像の住人達は今の住人ともまた違った……)

 何が違ってこんな事になっているのか分からないけれど、それはきっと希望というのだろうと亜理朱は思った。

 上げて、落とした?

 いや、ここから浮上して、ハッピーエンドに!?


 ……暫く上がって下がってが続きます。

 ハッピー? なのかよく分からないエンディングに向かっていますが、それが何か?

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