6日目 【父は失踪したのだと半分諦めかけていた自分もたしかにいた。否定は出来ない】
父のターン!
「父さんライターかして」
「だが断る!」
「なんでっ!?」
野鳥にありとあらゆる方法で手を加え終わった僕は、いつもの如く父からライターを借りようとした。鳥を焼くために。
だが父は貸してくれなかった。
父は気まぐれだ。 いつも気分次第で動いている。
でも、昔はそうではなかったんだ。
あの日、父の会社がなくなった日。父は激しく落ち込んだ。
幸か不幸か、僕達水滝家はお金持ちだったため、借金ヘのストレスがあまりなかったことが唯一の救いだと思う。普通ならストレスで体を壊してしまっていたかもしれないしね。
そんなわけで、もう一度言うけど父は自分の興した会社が無くなり大変ショックを受けた。でもそれには続きがあって。
実は、ショックを受けた父は家を飛び出したことがあったんだ。
約3週間ほどの長い間父は見つからず、この時ばかりはさすがにもうだめかと思ったほどだ。父は失踪したのだと半分諦めかけていた自分もたしかにいた。否定は出来ない。
ところがその数日後、父は帰ってきたのだ。そう……、変わり果てた姿で。そしてそれは、外見の話ではない。あ、いや、たしかに上半身裸だったけども。
そんな外見よりも変わっていたのが……そう。性格である。父はやたらとおかしいテンションで、『堕天使(自称)』として帰ってきたのだ。
……別にこの話しなくても物語上特に支障はなかったかな。
「ライターを貸してほしくば、お前の親父を越えるがいい!!」
まぁ、先ほど話したとおり、父のことは『常時変なテンションの狂ったおっさん』とでも思っておいてくだされば間違いはないと思います。自分の父親だけに僕は笑えないんですけどね。
「どうした!? おらおらどうした!?」
あんたがどうした。
「そんな変なポーズなんかしてないで早くライター貸してくれないかな?」
「欲しいモノがあるのなら戦え! 抗え! 自力で奪ってみろ!!」
どこの世界の鬼師匠なんだ。早くライターを貸してください。
なにもこんな場所で息子に自分を越えさせなくてもいいじゃないですか。
「早くしろ! 父さんにお前の魂を魅せてみろ!!」
足を肩幅以上に開き、どっしりとした安定感を醸し出しつつ、両手を広げて僕に挑発するかのように指先をなんかクイクイしている父。
姉や妹のアレは生まれつきだが、父のコレは3ヶ月前のあの日からなので未だに対処方法がわからない。ちなみに母のアレはほっとけば知らないうちに落ち着いているので結構ラクである。
「どうした! 父さんの超最強魂に恐れをなしたか!!」
「恥ずかしいこと言ってんじゃないよ! あんたそれでも一家の大黒柱なの!?」
「否、父さんは神々の力を授かった堕天使である」
……えー、皆さん、今日はいつにも増してとてもいい天気ですね。
気分がスカッとするほどにいい天気。洗濯日和ですね。
というわけで、僕の父親は典型的な厨二病でした。
それでは皆様、いつかまたどこかで。サヨウナラー。
「オチか!? それは締めに入っているのか!?」
ご明察。
堕天使って、堕ちた天使…つまり悪魔ってことになるんだけどね。
父の場合頭おかしいだけですので気にしないでください。