表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホームレスファミリー  作者: 本樹にあ
◆可愛い子編◆
65/84

64日目 【見下してたっていうのは、少しあると思う】

 関係ないですけど昨日の7月1日は俺の誕生日だったんですよ(変顔)

 祝ってください(真顔)

「……翔太くん、ごめんね? なんか宿題のサボり方とか、学校やめちゃった翔太くんには自慢みたいに聞こえちゃってたよね?」


 僕が借金を抱えていること、そしてそのせいで学校にも通えていないという事を思い出した伊子ちゃんは、申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。

 関係ないけど、伊子ちゃんのこういう素直なところが、より彼女の魅力を際立たせているのだと僕は思う。


「だ、大丈夫だよ! そ、そりゃ学校には行きたいけど……宿題とか面倒だなって思う気持ちはわかるからさ。気にしなくていいよ」


 実際は、できることなら宿題をやりたかった。

 学校にも行きたい。授業だって受けたい。クラスのみんなと馬鹿やって、先生に叱られてはまた懲りずに同じことを繰り返したい。

 このホームレスという生活環境になって初めて、今まで嫌だと思っていたことが羨ましくなるようになった。

 今までは当たり前だった日常も、ふとしたきっかけで一気に失ってしまうことを、僕は実際に体験して初めて気づかされた。

 思えば、もうこの生活になってからすでに3ヶ月以上も経っている。

 もしこのまま、昔のように当たり前にできていたことができないまま大人になってしまったら。そう考えるだけで胸が張り裂けそうになるぐらい苦しい。

 家もない、当然だがガスも水道も電気もない。

 生きる上では欠かせない食料も、お金も、衣服すら失ってしまった。

 まさに絶望的な事態の中で、僕がここまでやってこれたのは家族がいたからだ。

 その中でも、姉の存在は非常に大きかった。

 絶望に打ちひしがれてどんよりとした僕たちの中で、唯一、一度たりとも落ち込んだり絶望したりなどという素振りを見せず、それどころか僕たちを励ましてくれた人だ。

 僕たちが前向きに生きていこうと思えるようになったのは、今思えばすべて姉のおかげだった。

 あの父や母でさえ一言も言葉を発しないぐらい悲観的になっていた時に、姉が『え? 家なくなっちゃったの? じゃあ洞窟に住めばいいじゃない』とか言い出した時は本当何言ってんだこの姉はなどとイラついたりもしたが、その一言がなければ今の僕たちがあるかもわからない。

 食料が手に入らないとてんやわんやしていた時も、姉が『え? お金がなくて食べるものがない? 何をおっしゃるウサギさん。食料は狩るモノなんだって石器時代から決まっているのよ!』

とか言い出さなければ、お金でなんでも手に入っていた僕らには、野鳥を喰らうという野性的な発想は生まれなかったかもしれない。

 それに、姉だけじゃない。博識な妹にも結構お世話になった。

 まさか野鳥の捕え方やおいしい食べ方を知っていた時には、姉も含めた家族全員ビックリ仰天したものだった。

 そのほかにも、毒のない野草や、食べられる木の実。綺麗な水の作り方など、一度山籠もりでもしたのかお前はとツッコみたくなるほど詳しく教えてくれた。

 父も父で力仕事を率先してこなしてくれているし、母も母で……うん、まぁ妹に『お母さんは需要がない』とまでいわれていたからすぐに思い当たる秀たるところはないけども、それでも母の温かみというか、安心感を与えてくれていた。

 だからここまで生きてこれた。それ以上何を望むっていうのか。

 できることからコツコツと。今は、借金を返すことだけに集中するんだ。

 そして、借金を返し終わってから、すべてがチャラになってまた新しくゼロからスタートするときに、その次のことを考えていけばいいんだ。


「なんか……翔太くん変わったよね」


「え? そうかな」


「うん、上手くいえないけど……昔はなんか人を見下してたみたいな雰囲気あったんだけど」


 結構バッサリ言っちゃってる件。


「今はなんか、すごく親しみやすいって感じ!」


「あはは……ありがとう。で、いいのかな」


 見下してたっていうのは、少しあると思う。

 なんていうか、自分でも『僕はお金持ってるんだぞ、お前らとは違って、何でも買えるんだぞ』みたいなところがあったなって感じ。といっても別にそんなド直球に見下してたわけじゃなく、普通に“お金持ち”っていう優越感みたいなのに浸っていた気がするなというだけなのだが、結果的にそれが雰囲気に出てしまっていたようだ。今さらながらに反省。

 たしか我が家が裕福になったのは、僕が小学4年生の時。伊子ちゃんとは中学に入ってから知り合った(正確には同じクラスになった)から、つまるところ伊子ちゃんはお坊っちゃんになって調子に乗っている僕のことしか知らないということになる。

 そんな伊子ちゃんからすれば、僕の第一印象は憎たらしくて近づきがたいクソ男子みたいなことになるのも頷けた。


「あれ、でもそれならなんで僕に話しかけてきてくれたの? あんまり良い印象がなかったんだよね?」


 話しかけづらいヤツにわざわざ話しかけるようなことするのか? と自問してみても、するわけがないという自答が返ってくるだけだった。そしてそれは、僕だけに限った話じゃなく大方の人にも該当することだと思う。

 ゆえに、伊子ちゃんがなぜ僕に話しかけてきてくれたのかに興味を持ったのだ。

 そんな僕の問いに、伊子ちゃんは少しだけ考え込んだのち、答えた。


「ずっと翔太くんのこと気になってたからかな」


 わぁい。

 ゆで卵は死にました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ