26日目 【僕の脳内で天使の僕と悪魔の僕との激しい討論が開催された】
ジャンケンって……誰が考えたんですかね。
いきなりだけど、今この場には、二種類のグループがある。
今現在も白熱激闘バトルを繰り広げているグループと、開始早々に敗退し、膝を抱えながら白熱したバトルを遠くで眺めているグループの二つだ。
そして悲しいことに、僕と姉は後者のグループに分類される。
「はぁ……あの時グーを出さなければ私は今頃……」
「はぁ……僕もあの時、グーを出さなければ今頃は……」
一筋の涙を流しつつ、上を見上げる僕と姉。でも残念なことにここは洞穴。心を癒してくれる青空や小鳥たちはおらず、ただただゴツゴツとした岩の天井があるのみだった。
なぜ僕たちがこのような有様になってしまったのか。それは、あの時の選択の過ちが原因なのだ――――――
――――――そう、それはあの時だった。
「ケンタがグーを出すならお姉ちゃんもグーだす! 絶対にだす!! もしグーを出さなかったら私の負けでもいいわ!!!」
姉は胸を張り自信満々にそう告げる。姉の表情を見る限り、自分で自分の首を絞める行為を行ったことに姉自身気づいていないのだろう。
そしてこの調子だと姉は、言葉の通り次は確実にグーを出す。それならば、僕は次パーを出せば少なくとも姉には勝てるというわけだ。
『じゃーん!!』
僕たちは再び腕を振り上げる。
姉が次100%グーを出すって気づいてるのは、多分僕だけじゃない。おそらく姉以外は全員わかってるはずだ。妹に至っては口元が緩んでるから間違いない。
……姉がグー以外を出す可能性など、僕を含め誰も考えてはいない。ある意味すごい信頼率である。
『けーん!!!』
パーを出せば絶対に勝てる。その一方で。
そう思う一方で僕は、こんな形で……姉の純粋さを逆手に取るような汚い方法で勝って嬉しいのだろうかと感じる、お人好しな自分がいた。
僕としては勝ちたい。でもやっぱり姉が可哀想な気もする。
そんな優柔不断な僕を見かねてか、僕の脳内で天使の僕と悪魔の僕との激しい討論が開催された。
『おいおい、まさか姉貴と一緒に負けてやろうなんて思ってんじゃねえだろうな? やめとけやめとけ、馬鹿な姉貴が勝手にやったことだ。ケンタのせいじゃねえよ』
ちょっと待ってください悪魔さん。なんであなたも僕のことケンタ呼ばわりするんですか。自分の分身的存在のくせに名前を間違えるんじゃない。僕の名前はケンタじゃなくて翔太です。
『いけません!! お姉ちゃんは『ケンタがグーを出すなら』と言っていました! ここで裏切ればお姉ちゃんを傷つけることになってしまいます!!』
悪魔の言葉に、真剣になって反論する天使。だがそんな天使など眼中に無いようで、悪魔はあぐらをかいたあげく小指で鼻くそをほじり始めた。やめて。
あぁ、でもそうか。姉は僕の意見に同調してあんなこと言いだしたんだよね……。
僕が最初に『僕はグーを出す!』なんて言い出さなければ、少なくとも姉が今確実に負けるなんてことはなかったんだ。
『お、おい!? まさかてめぇ意味もなく犠牲になろうとしてんじゃねえだろうな!? どちらにせよ姉貴は負けるんだ、ならばここでてめぇが勝ち進んでやるのが男ってもんだろ!?』
天使の意見に傾いてきている僕に、悪魔は戸惑いだした。
そ、そうか。僕が姉と一緒に負けても負けなくても、結局姉は僕のせいでここで敗退してしまうんだ。だったらそんな姉のために最後まで勝ち残るのがけじめってもんじゃないか。
『それではだめなのです!! 今ここでお姉ちゃんと一緒に敗北すれば、少なくとも変な名前にされたくないという子猫の気持ちを裏切ることになります! 絶対に勝ち残るのです!!』
ってちょっと待って。天使と悪魔の意見が一致しちゃったよ。どんな風の吹き回しですか天使さん。
『勝ーて! 勝ーて!』
『勝ーて! 勝ーて!』
うわわわ天使と悪魔が勝てコールしてきた。
あぁああもうどうにでもなれ!!!!! ―――――――――――
――――――――というわけで。
天使と悪魔の熱烈な洗脳を振り切って、僕はグーを出した。
もちろん、正直者の姉もグーを出していて、その他の三人はパー。
その結果、今に至るわけで。
「はぁ……私もう、鮮魚になりたい……」
なんか姉がヤバい。
THE☆お人好し!