吉田切断
良く分からない理由といたずら心で、遥人は、魔法のハサミで吉田を切る事に……なお、試し切りはしておりません。
あいつが、ここに来る事は確実だった。
なぜなら、俺が学校で昼休みに、この道を1人で来ると良い事あるよと吉田に言っておいたからだ。 俺のイタズラやドッキリにはほぼ確実に引っかかるのが吉田という生き物だから、今日もまた、ちゃんと引っかかってくれそうだ。後続にも俺の背後にもイレギュラーな人間が現れないのを確認すると、俺は遂に何でもキレると言うハサミを構える。
さてさて、説明書を読んでわかったのだが、この魔法のハサミは普通のハサミとは使い方が異なる。なんと、遠隔操作で対象を切る事が出来るのだ。これは、相手にこのハサミを知られないための配慮とも思える。普通のハサミと同じように対象物に接近して切っていては、高確率秘密がばれてインドカピバラにされるであろうし、見つからないとなると用途が限られるだろうからだ。見た目も自体、普通のハサミとちょっと違い、スナイパーライフルみたいなスコープがハサミの中心部、両刃と黒いグリップの重なるところに付いていて、何だか未来の道具の様な雰囲気が出ている。使い方は……今から吉田を用いて実演するとしよう。
吉田は、俺に近づいた所で立ち止まった。きっと、言いだしっぺの俺の来るのをあそこで待とうと思っているのだろう。まさに絶好のチョキチョキタイムが訪れたわけだ。
俺は、ハサミを水平にして、付いている意外と大きくて不格好なスコープから吉田を覗きこむ。そう、この覗きこんだ先の相手をこのハサミで切る事が出来るらしいのだ。そうやって対象に狙いを定めたら、後は簡単。ハサミの両方の刃を一回閉じるだけだ。俺は、少しだけ気持ちが揺らいで躊躇したが、すぐに開き直り、吉田を再びハサミで狙う。
吉田ぁ、覚悟しろぉ!!
シャッキーン!
金属の擦れる、軽快な音が響いた。ハサミの刃は閉じられて、鋭い角度を描く。
俺は遂に吉田を切った。切っちゃいました。
さーて、どうなったかなと俺は吉田を見る。しかし……
あれれ?
何も起こらない。吉田は何も変化が無く、ぼーっと突っ立ったままだ。
やっぱり、あの魔法使いのおばあさんの言う事は嘘っぱちだったのだろうか?
よし、もう一度。もう一度試しに切ってみよう。
シャッキーン!
……やはり、何も起こらない。
まあ、こうなる事も予想はしていた。魔法の様な事なんて、非現実的な事なんて実際にそうあるわけではないのだ。だからこうなった場合、俺は吉田の前にウソでしたゴメンナサイ~とい言って素直に姿を現すつもりでいたのだ。
俺は電柱の後ろからすっと、吉田のいる路上に姿を出した。
その時、その時であった。
ギィン
不思議な音と共に、吉田の胸のあたりとお腹の下あたりに二本の白いラインが現れ、それが強く発光し、辺りは白く包まれる。一体、何が起こったのか!? 暫く、俺は目を覆って眩しさから目を守るしかなかった。
「吉田ぁぁぁぁぁ!」
まるで大切な仲間を魔王に倒された時に主人公が叫ぶような感じで、アイツの名前が頭の中を駆け巡った。