最初の標的
魔法のハサミを手に、遥人が切ろうとしているものは……
では、改めて今置かれている状況を説明しよう。
時は、7月2日木曜日の午後4時。
俺は、住宅地の中の人通りの少ない路地にある一本のコンクリート製の電柱の後ろに隠れている。
理由は簡単。この何でも切れるハサミを初めて使う「対象者」手を待ち伏せているのだ。
彼の名は、吉田武彦。
丸刈りの髪型が良く似合う俺の幼馴染で今行ってる習師野高校のクラスメートだ。
さて、何故に俺が彼を選んだのかわかるだろうか?
嫌いだから?
……いやいや、それは違う。俺と吉田はむしろとても仲がいい。ケンカしたことすらほとんどないんじゃないだろうか?
じゃあ、何か彼を憎むような出来事でもあったとか?
……それもちがう。彼女を奪われたりとか親父を殺されたりとかドラマティックな現象などこんな平凡な日常ではありえない。貸ししたゲームを返してくれないくらいの事はあるが、そんな事で恨むほど俺は心の小さい人間ではない。
トチ狂った?
それも、違う。俺は今もいたって平常心を保っている。
では一体その理由とは何か?
じゃあ、そろそろ答えを教えてあげよう。いたってシンプルで、いたって簡単な答えを。
俺が吉田を切ろうとしている理由。
それは、吉田は吉田だからだ。
マンガか何かで「異能生存体」と言う言葉を聞いたことがある。どんな状況下でも生き残っちまうスーパー人間の事を言うらしいが、それに近い人間は現実にも存在する。身の回りを探せば、見つかるのではないだろうか? とても死ににくい、或いは死にそうにない、死ぬ気がしない友達や、知り合いのおじさんって居たりするんじゃないだろうか? 100歳越えて大往生したおじいさんたちだって、つまるところは死ににくい運命の力を持っていたから、あそこまでたどり着けたと言っても過言ではないと思う。
吉田も、そんな人間の1人だ。
車に跳ね飛ばされても、学校の2階から落ちても骨折すらしなかったし、友達どうしで結構危険な遊びもしたが、大きな事故に繋がることもなく最後には吉田の笑い顔があった。(そういえば、彼がいない日に皆で遊んだら骨折して入院した奴がいたっけ)
吉田なら大丈夫。そう、吉田なら何とかなるという確信が俺には漲っているのだ。
たとえ、このハサミで切られようとも、試し切りもせずいきなり切ったとしても、吉田ならば死ぬ事は無い。最後は全てイタズラでしたアハハ~と笑って済ませられる。奴は寿命以外で死ぬ事のありえない、全ての危機的状況ををギャグに変える事が出来る半無敵人間だと俺は確信し信頼しているからこそ、今からこのハサミで彼をチョッキンチョッキンするのだ!
トツ
トツ
そんな事を頭の中で巡らせていたら、電柱の向こうから足音が聞こえてきた。
俺は、そーっと電柱の影からその足音の主を確かめる。
カツオくんみたいな髪型、高めの身長、だらだらした歩き方。
間違いない、ご本人様……吉田の登場である。