慈しむ国語
勉強会「吉田塾」がいよいよ始まる。
果たして魚人はどんな指導ををハルトにするのだろうか?
最初に勉強する事になったのは、国語だ。
まあ、順番に深い意味はないが、何かこの教科って最初にやりたくなるのだ。
教科書とノートを広げると、魚人は俺の横に立ち、ミヤはどこから持ってきたのかA4サイズくらいのホワイトボードを構えてその魚人の後ろに立った。
『では、はじめよう』さっきもそうだったが、ボードに書かれた魚人の字はなかなか達筆で読みやすい。
「なるほど、お前はこれから言いたい事をホワイトボードに書いて、俺とやりとりをしようってわけか!」
『そうだ。勉強をするにあたってはその方が分かり易いだろうからな。以降全ての会話をホワイトボードでさせてもらう事にする』
「ふーん」別に喋れば言い気もするんだけど、そう言う考えならまあ従うとするか。
「わかったよ。それじゃあ、宜しく頼むよトウジ先生!」
『任せておきたまえ。さて……まずは国語からはじめると言うのだな?』
「ああ、御覧の通りだ。全体的に勉強不足だからアドバイス頼むぜ!」
『わかった。では、まず初歩的なところから話すとしよう』
「ん? 教科書は見ないのか」
『ああ……初歩的なところからと言っているだろう? 二度同じ事を言わせるでない』
「へいへい」何か見た目と違ってクールな言い回しだな。
「んで、初歩的なところって何なんだ?」
『ハルト、逆に聞くが、国語を勉強するにおいて最も大切なものって何だ?』
「ええと……書き取り、とか? いや、読書かな?」
『違う。全く持って違う』
「へいへい、そうですか。じゃあ、何なんだよ?」
『感謝だ』
「かんしゃ?」
『そうだ』魚人は、俺に背中を見せ、更にボードにキュッキュと文字を書く。
『国語と言う者は、この国の人間が長い時の中で維持し培ってきた苦労の結晶なのだ。私達がこうやって言葉のやり取りが出来るのも、漢字が使えるのもみな、先人達のおかげなのである。だから、それを顧みずただ乱暴に書き取り聞きとり学ぼうとするのは失礼な物なのである。それでは、言葉の神様も味方をしてくれる事はなかろう』
「……はぁ……それで?」
『ハルト、君はご飯を食べるときに<いただきます><ごちそうさま>と言うだろう?』
「んん、まあ、大体はするけど……」
『食材の生産者への感謝をこめての御礼をする。これは普通だ。しかし、国語の教科書に毎日感謝をするものはまずいない。これは、おかしいのではないだろうか? 国語と言うものも多くのこの国の人々の汗と努力の結晶であるという意味では違わないのに……だから、勉強をする時とてやはり、感謝の気持ちと言う者は必要なのだ』
「わかったような、わからんような。まあ、あながち間違ってもいないような気はするけど……じゃあ、お前はどうすればいいって言うんだ?」
『これから、国語を勉強する間は、次の言葉を常に頭の中で念じるが良い。<南無国語学習>と』
「なむこくごがくしゅう? そんなんで、勉強がはかどるのか?」
魚人はうなずいた。
そして『左様』と書いた。
俺はしょうがなく、鉛筆を持つと、魚人の言うようにやってみる。
ええと、四方山坂の意味は……南無国語学習……
抽象の反対は……南無国語学習……
接続後は……南無国語学習……
轟の読み方は……南無国語学習……
南無国語学習、南無国語学習、南無国語学習、南無国語学習、南無国語学習、南無国語学習、南無国語学習、南無国語学習、南無国語学習、南無国語学習……って、全ぁく集中できねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
……
結局、俺はその後、普通に国語の勉強をした。
そしてその結果、思いのほか、はかどったのだった。




