魔法のハサミ
高校生、切江 遥人は、ロマンチスト……
魔法使いは実在した。
いや、今でもサンタクロースとかツチノコとか信じてるこの俺、切江遥人だから、絶対いる! とは思っていたんだが、実際にその存在と出会えた事は実に感慨深い。見た目も、俺の予想に違わない、大きな鷲鼻が特徴的なローブを着たばあさんで、手にはこれまたゲームなんかで良く持っている杖を握っていた。
そんな、魔法使いのばあさんが、俺に話しかけてきたのは昨日の事だ。居残りで遅くなった俺が一人で歩いていると、電柱の横にしゃがんでいたのだのだった。スーパーロマンチストな俺だが、流石に最初は浮浪者か何かだろうと思って、その場を通り過ぎようとしたのだが、真横に来た時に、このばあさんは立ち上がり、「若いのお待ちなされ」的な言葉を発したので、運命をビビッと感じた俺はその場で足を止めたわけだ。
すると、このばあさんは自分が魔法使いじゃと言い、俺に差し上げたいものがあると、いきなりローブの裾をワサワサさせて謎のハサミを取り出した。そして、俺にその大きな目を見開いて言う。
「このハサミは、どんなものでも切れるのじゃ。どんなものでもな。ふぁふぁふぁ、これを貴様に授けよう……」
まるで、どっかのファンタジーゲームみたいな話だ。
おそらく、大概の人はこんな怪しいものは受け取らないだろう。しかし、俺は受け取った。なぜならロマンに生きる人間だから。
俺が、そのハサミをしわがれた手から受け取ると、老婆はしわしわの顔を更にくしゃくしゃにして笑い、そして、再びローブから何かを取り出した。それは、ハサミの取扱説明書だった。それを、俺に手渡すと、ばあさんは俺に背を向け非常にゆっくりとした動きで歩き出した。俺が暫く呆然としてそれを見送っていたのだが、5mくらい離れた時に、ばあさんが振り返ってこう言った。
「若いの。そのハサミの事は誰にも知られてはならぬぞ。もし知られてしまったとき、お前は罰としてインドカピバラにされてしまうであろう。くれぐれも、秘密にな」
こういう道具には大抵ノーリスクだとは予想していので俺は対して動揺しなかった。
ただ、インドのカピバラって一体どんな生き物なのだろう? とは思った。
まるで夢のような話だと思うだろう? だけど、これは夢ではない。
なぜならこうして今、俺は魔法のハサミを手に持っているのだから。