口論クエスト~チュートリアル~
王『おお、よくぞきてくれた。くちゆうしゃ“ホセ”よ』
「うわ。いざ呼ばれると恥ずかしいな、他の名前にすりゃ良かった。適当過ぎた……」
王『さっそくだが、じつりょくをためさせてもらうぞ、ホセ。くちバトルかいしじゃ!』
「えっ! モダンな早さで戦闘始まった!」
――ピャララララ~ン
「うわー、クラシカルな、ほそぼそした和音だなー。なんか落ち着くわ。……デデッデデン、デデデデンデデデデンってか、王とたたかうのかよ」
王『どうじゃ、意外な展開だろう』
「うわ、本当に会話になってる。すげぇなこのゲーム」
王『この度は、弁天堂3DSSPDX対応ソフト“口論クエスト~口勇者のべしゃり伝説~”をお買い上げ頂き、誠にありがとうございます』
「ちょっと! そういうの冷めるからやめて!」
王『さすがは口勇者ホセ、目にも止まらぬツッコミの速さじゃ。(ただいまの反論タイム0.82秒)』
「なんか褒められた。もう、ハイテクなんだかローテクなんだか……。最新人工知能搭載なのにドット荒いって……」
王『それでは、模擬戦闘にうつるぞ。いわゆるチュートリアルじゃ』
「外来語使うんじゃねえよファンタジーの住人が……」
王『このように、敵が現れる。すると、下のタッチャブル画面にコマンドが表示されるぞ』
「もう夢も幻想もねえな……ああ、出てるね、親切に点滅してるよ」
王『たたかうコマンド、にげるコマンド、あいさつコマンド、の3つじゃな』
「目を疑ったよ……なんだ“あいさつコマンド”って」
王『世間話ができるぞ』
「あっそう……。もう売りたくなってきた」
王『その会話の中から、敵の弱点を探り、勝算が見えたら“たたかうコマンド”、これが初めて出会った敵に対するセオリーじゃな』
「何か、陰険なゲームだな……」
王『そして“にげるコマンド”を成功させる確率もアップさせる。“あいさつコマンド”は重要なのじゃ』
「黙って逃げるより挨拶して逃げる……、嫌なリアルさだ……」
王『では、さっそく“あいさつコマンド”をタッチするのじゃ』
「うわー、嫌なドキドキ感だよー。ふう、よし……タッチ」
王『おお、口勇者ホセか、よくきたな。どうした?』
「(げー、こういう感じか……)」
王『……黙っとらんで、何か申さんか。無礼だぞ』
「わ、怒られた。あー、えっと、どうも、こんにちは」
王『ふむ。今朝は良い天気じゃな。洗濯物がすぐ乾きそうで何よりじゃ』
「せ、洗濯物ですか……。あ、さすがは王様、民の生活をお想いになってらっしゃるのですね?」
王『ん? ……あっ、ああ、そうじゃそうじゃ。余は、民の洗濯物が早く乾くとよいなーと、常日頃から思っておる』
「そうですかー、王様はお優しいですね」
王『ま、まあな! 民の洗濯物が早く乾いてくれさえすれば良い。そうじゃ、余の出した洗濯物などは全く、塵ほども関係ないからな! ふむ……。本当だぞ』
「え、何か、ちょっと変ですね。王様、洗濯物を出したと?」
王『えっ、何? ど、どどどこでそれを?』
「自分で言ってましたよ。さては、何か隠してますね?」
王『そ、そんなことはない! 余が今朝、尿でもってシーツに大陸全図を描いたことなど! そのような、王にあるまじき失態をさらしてしまったなんてことは、決してないぞ!』
「うわー、わかりやすー……。てかこの王様あれだな、歳なんだ」
王『さーて! こうして“あいさつコマンド”で敵の弱点を探り当てたわけじゃな!』
「わ、テンションの緩急すごいな」
王『それではいよいよ! 下のタッチャブル画面の、“たたかうコマンド”をレッツタッチじゃ!』
「レッツとか言うな。……はい、タッチ」
王『むっ。なんじゃ、口勇者ホセよ。このわしに“口バトル”をしかけるとは……、血迷ったか、狼藉者めが』
「あっ、バトル始まった」
王『……と! ここでインフォメーションじゃ! 下のタッチャブル画面が変わっとるのを確かめよ!』
「テンション揺れ過ぎだろ。毎回びっくりすんだよ……。あー、ホントだ」
王『“じゅもんコマンド”と“どうぐコマンド”と“にげるコマンド”じゃな! 最後のは説明要らずじゃろう、そして、“じゅもんコマンド”じゃが、ホセはまだじゅもんを何も持っておらんから説明は保留じゃ、どうぐについても同様、ホセは何も持っておらん』
「なんにも持ってねえのか。薬草くらいあるだろ」
王『傷ついた心を癒すアロマな“香草”、一定時間敵の口撃をやめさせる“催涙粉”など、口バトルを有利にするどうぐがたくさんあるからな、手に入れたら積極的に使うのじゃ! では、口バトル再開!』
「これ、売っても買い取り価格安いだろうな……」
王『やいホセ! このオタンコナス!』
「えっ、えー?」
王『ほーれどうした? 黙っとるとHPがどんどん減っていくぞ! やーいホセ!』
「プレイヤーのハートは無傷なのに……何か癪だな。えーと……、おい王様、今朝おねしょした?」
――ズピシャーンッ!(クリティカル音)
王『ぐっ、ぐわあああああ~!!!(エコー)』
「えー……。断末魔こわっ」
王『さすがは、くちゆうしゃホセじゃな! じつに、のみこみがはやい!』
「もう、通常画面の文字読みにくいなー。変にこだわるなよ」
王『そのちょうしで、まものにうばわれたひめの“こえ”をとりもどしてくれ!』
「えっ、姫の、声? 姫自体じゃなく?」
王『さあ、ひめをつれてゆくがいい。くれぐれも、ひめがまものからこうげきをうけないよう、おぬしがしっかりとまもるのだぞ!』
「姫連れてくのかよ! マジか、うわ、仲間になったよ」
姫『…………』
「無言だ……ある意味こいつの方が主人公っぽい」
王『ではゆくがよい、くちゆうしゃホセよ!』
「うわー、始まっちゃったー」