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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
生きる代償
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生きる代償(2)

日に焼けた畳。



俺の手が力なく握られていた。


ここは…―


「おはよう、(せい)君」

上を向けば剥き出しの蛍光灯が遠くに見える。

そして、

男が俺を組臥せていた。

誰…?

「……放して」

頭が痛い。

体が熱い。

「厭だね。起きたらおっきくなってて私はびっくりしたよ」

シャツに濡れた手が潜り込む。

「…知らない」

「ま、いいよ。お金はあるからさ。清君にそっくり君」

執拗に胸を撫でてきた。

「…知らない」

「いい体だ。清君よりしっかりしていてそれでいてしなやか。やり甲斐がある」

捲られ、さらけ出される上半身が熱を持つ。

「…知らない」

「大丈夫。私に任せて」

男の舌が這う。

気持ち悪い。

唇に舌が触れる。

「閉めてないで開けて」

駄目…開けちゃ駄目…。

「強情だ」

肥えた指が額に触れて、首を反らされた。喉が締め付けられているようだ。

「可愛い」

歯が首筋に立つ。

「あっ…っ」

ぞくりと悪寒が全身を駆け巡った。それに開けてしまった唇を奪われ、舌が入ってくる。

「あっ…っぅ…や…」

駄目…。

気持ち悪い。吐きそう。

びくっ。

男の膝が刺激してきた。

「っ!」

「淫乱」

屈辱。

やめて…。

腹を指が這う。

やめて…。

下半身へと確実に向かう指。

やめて…。

体が動かない。

ヤダ…。

イヤだよ……………………タスケテ。


たすけて。

「…陽季(はるき)…」


陽季…陽季…陽季…陽季…陽季。

……………………タスケテ。

あの時、助けてくれた。

あの時も助けてくれた。

「陽季ぃ…」

助けて…陽季。

怖いよ。

「今は私のものだよ」

…もの…は矢駄。俺は人形じゃないよ。

ズボンが脱がされた。

陽季…………早く助けて…。

男の手に反応してしまう。

「うっ…あ…」

そうだ。

この体は…―

『満たされた気がした』

陽季だけに捧げると誓った。

「他の奴の痕なんて付けるんじゃない」

その痕は…―

陽季との繋がりの証。

赤くなった痕を吸われる。

陽季が消える。

分かんない。どうしてこうなるの?

陽季、どこ?

一人にしないで…―

「やっ…」

「じゃあそろそろ…」

衣服が奪われた。空気に全てが晒される。

そこは駄目。

「陽季…やだ…陽季…」

「黙ってくれ」

痛みが走る。

やめて…。

「陽季…陽季…陽季…」

「他の男の名前を言うな!」

殴られた。

自らのシャツの腕で口を塞がれる。男は乱暴に胸を噛んだ。

痛みが走る。

やめて…。

「そそられるよ」

気持ち悪い。吐きそう。

脚が開かれ曲げられる。

やめて…。

陽季が消える…。

やめて…。

陽季…陽季…陽季…陽季…陽季。




……………………タスケテ。




ガタッ

「時間過ぎてる」

誰かが襖を開けた。

「邪魔しないでくれ。金ならそこだ」

男は動きを止めて誰かを睨む。

「乱暴する客はお断り。さっさと帰るのね」

誰かの後ろからまた二人の人が入ってきた。

「くそっ。もう来ないからな」

「大切な店子が壊れて使えなくなるよりマシだから」

男が離れる。


………………………助かった?


「で、清のそっくりさん。アナタは誰かしら?」

「…分からない…」

あら、そうなの。

そのクリーム色の髪の女の人は俺の口枷を外した。

「私は(えん)。それで、アナタと同じ顔のちーちゃな餓鬼見なかったかしら?」

「…見なかった…」

「そう。(ろう)に探りを入れて。ま、狼の計画でも仕事中に一人で逃げるような勇気は清にはないだろうけど…」

清…って…―

誰?

後ろに付いていた一人が踵を返す。きっと、狼ってののところに行ったんだ。

炎と名乗った女の人は俺の服を掴み、残ってたもう一人に何か指示をする。その男は服を手渡されて同じく踵を返した。

「えっと…ん~…今はアナタを…めんどいわね。…清と呼ぶわ。いい?」

「いい…です」

自分が誰だか分かんないし。

炎は押し入れからシーツを一枚取り出すと俺の肩に掛ける。

「先ずは美樹浩(みきひろ)のとこに行きましょう」

「美樹浩?」

「大丈夫。診てくれる」

何が大丈夫なのだろうか。




「美樹浩、怪我してないか診てくれるかしら?」

「はいよ、エリーナ」

赤い髪の男の人。眼鏡がよく似合う。白衣まで着て、お医者さんだ。

しかし、炎はお医者さんに対して牙を剥いた。

「え・ん!!」

まるでコントのようだ。

「それで?彼は?」

俺を美樹浩はじろじろと見る。恥ずかしいかも。

「さぁ。記憶障害が起きてる。自分の名前すら覚えてないの」

「ふーん。さ、見せて」

「?」

何を?

「シーツ邪魔」

美樹浩は俺からシーツを奪う。勢いで俺はベッドに倒れた。

「あんのデブ爺がね」

「あーあれ。(さく)君大変だったなぁ。ん?2種類の痕がある。この子、売りじゃないのか?記憶は薬でーとか」

「それを美樹浩が診んでしょ」

「エリーナの仰せのままに」

「え・ん!!!!」

仲良し夫婦みたい。


「薬はなし。傷はなし。きっと売りだったんだろうね。じゃなきゃこの体はないない」

「でしょうね。ま、怪我と中毒がなくて良かったわ」

よしよしと炎に撫でられた。気持ち良くてつい俺は目を細めてしまう。

「この子愛されてるね」

美樹浩はふと言った。

愛?って?

「?」

首を傾げる炎。

「この顔で売りにしては痕が少ない。この痕見てごらん?大事にされてるよ」

「陽季…ね。聞こえたわ。直ぐに陽季を見付けてあげる」

そうだ。

よく分かんないけど、俺は陽季に会いたいんだ。

本当に優しい人達だ。

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