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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
生きる代償
93/400

夢遊(4)

『………………………………』

二人は固まった。



…………………………ぷっ。

片方が噴出す。

青みがかった黒髪が揺れた。

「あははは…っはは…」

腹を抱えて笑い出す。

「ゆー…怖い…」

彼の笑いが止まった。


…………………………ぷっ。

片方が噴出す。

長い金髪を首元で縛った頭が揺れた。

「あお嫌われてやんのー」

腹を抱えて笑い出す。

「ゆー…怖い…」

彼の笑いが止まった。



『殴りたいかも』

二人の声が見事に重なった。







「預からないと駄目?」

(あおい)の表情は険しい。

それもそうだ。

久しぶりに現れた由宇麻(ゆうま)が連れてきたのは小さな子供。

それも、何故か幼くなった姿の家族を。

それもそれも、その子供にあるのは(せい)という名の時の記憶のみと言う。

葵には兄の“清”なんて時代は知らない。そのためか、同じ顔の子供が他人にしか見えない。

「弟やろ!?」

「第一印象が最悪だから」

兄といえど年下に何にもしてないのに「怖い」なんて言われたらムカつく。

「笑った葵君が悪いんや!」

由宇麻は「双子やろ」と頬を膨らました。

千里(せんり)だってイヤだろ」

葵は清否定派として千里を呼ぶが…―

「僕のことはお兄様と呼ぶんだよ~」

「…おにー…さま…?」

「よぉーくできました~」

彼は店長|(子供)をちゃっかり調教していた。

「千里君!」

「千里!」

「あお、僕は洸のこと預かっていいよ。今だけだからねぇ」

こんなに素直なのは今だけと主語を隠して清の頭を撫でる。

「たーだーし、」

そこに千里は条件を付け足した。

その内容は、

(くれ)君と琉雨(るう)ちゃんはレイラさんと旅行中。今週は僕らやりたい放題する気だから夜は気に掛けられないよ?」

「やりたい放題?崇弥(たかや)も交ぜて遊べばええやんか」

「あお、聞いた?」

にやり。千里の笑みは裏があると言いたいようにしか見えない。

まぁ、裏しか見えない葵は、昨夜のこともあって痛む腰を摩ってそっぽを向いた。

「俺に振るなよ」

…………………………。

すると、とてとてと足を進めた清は由宇麻の脚にしがみつく。

「ゆー…ゆー…ゆー…」

それは仔猫の泣き声。

「どないしたん?」

膝を折って同じ目の高さにすると、清は由宇麻に抱き付いた。

「……置いてかないで…」

「夜には迎えにくるから。お兄さん達と待っててな」

もう慣れたと言いたげに清を抱きしめる姿は、同じ顔の葵をイラつかせる。


まったく、双子というのは色々と面倒だ。


由宇麻が清の頭を撫でると、潤んだ瞳で、それでも彼はこくっと頷いた。

こういう時は素直に退き下がる。妙なところで洸祈と同じだ。由宇麻を困らすために我儘を言えばいいものを。

そして、ソワソワと三人の足下をうろちょろ歩く清。

葵は溜め息を吐くと彼を胸に抱えた。

洸祈(こうき)を預かるよ」



「清…か…」

「清…ね…」

フローリングでジグソーパズルに夢中の清をソファーで寛ぎながら眺める葵と千里は同時に呟いた。

「聞いたことある?」

と、千里。

「あるわけないだろ」

答えた葵は千里の促した手に合わせて彼に身を寄せると、頭を押さえて溜め息を吐く。

「どれくらいだっけ?洸の失踪…」

「さぁな」

「覚えてないんだよね」

「あぁ…。はっきり言うと記憶が曖昧なんだ。朧気にしかそこら辺は思い出せない。月華鈴(げっかりん)には3ヶ月間いた。それだけは確かだ。双蘭(そうらん)さんがそう言っていた。でも、いつから洸祈が消えたのかは分からない」

洸祈には“清”と呼ばれていた時期があり、それを家族である俺達に秘密にしていた。

その中で何か壮絶なことが洸祈に起きたのは間違いない。

「子供だったからあんまり覚えてない?」

「分からない。その時だけ(・・)の記憶が曖昧な気がしないでもない。てか、お前は?」

「何言ってんのさ、その頃…えっと…あおが熱出した夏祭り、あの時、僕、祭りやってたとこの河原で倒れてさ、暫く家から出させてもらえなかったじゃん。だから知らないよ」

「そうだったな」

そこで、千里がキスをねだる仕草をしたので、清がパズルに夢中なのを確認して、葵は唇を触れるように重ねた。


「ゆー…ゆー…ゆー…」

「由宇麻か」

清が瞳を潤ませてできたパズルの周りを意味もなくぐるぐると回る。

いや、あるのかもしれない。由宇麻にできたのを自慢したいとか…?本当に、清は由宇麻に懐いている。

さらにムカつくぐらいに。

「こ…清、由宇麻は夜だよ」

「ゆー…ゆー…ゆー…」

しょんぼり。

「1000ピース。やる?」

確か棚に…。

葵は箱を取り出して清に見せる。

すると、彼はできたパズルを裸足で踏んだまま、こくりと頷いた。




「あお、ごはん」

葵のいなくなったソファーに寝転がった千里は見ていた昼ドラが終わり、料理番組に代わった頃、呻き声を出す。

「何がいい?」

葵は清と共にジグソーパズルを進めながら聞いた。

「ビビンバ!」

丁度テレビにそれが映った時だった。

「めんど。清は?」

「…………………………ゆー」

「可愛いけどムカつく」

しかし、葵は溜め息一つで諦めた。

「洸祈は…お茶漬けが地味に好きだよね」

あの味は大好物のようで、すぐ面倒になると、彼のメニューはお茶漬けだった。あと、普通の味噌汁。

洸祈はシンプルな日本食が好きらしい。

「じゃーおっちゃづけー!」

それに千里がソファーの背もたれから体を乗り出してはしゃぐ。

「はいはい」

葵は頷くと、テーブル用の椅子に掛けてあったエプロンに手を伸ばした。


「美味しい?」

「美味しい」

こくり。

洸祈が面白いかも。

葵は清の口をティッシュで拭いてあげる。

「今、無性に愉しい」

兄の世話なんて早々できない。

「みたいだね。愉快犯の顔だ」

千里も愉しそうだ。

俺達二人とも愉快犯だ。

「写真撮って後で見せよっと」

千里がデジカメを登場させた。

彼は笑みを見せると、葵と清の間に入る。

「三人で撮ろ!」

そして、葵を世話をしている清と一緒にシャッターを切った。清がカメラのレンズを見詰めると、小さくはにかむ。

案外、おませさんだ。

「あおがお母さん、僕がお父さん、清が息子。ね、おかーさん」

千里はその姿に目を細めると、同じように清の笑みに微笑んだ葵の唇を奪って再びシャッターを切った。すると、すぐに葵がむすっと膨れる。

「消せ!ばかっ!!」

「馬鹿で結構」

千里はカメラをテーブルに置き、葵の顎に手を添えて、平然とかなり濃いキスをした。

「んーっ!!!」

清が見てるっ!!!!!

葵はぎゅっと瞑った目で訴える。

しかし、清は…―

「おかーさん、おとーさん」

違う意味で“ぎゅっ”だった。

葵と千里の首に抱き付く清。

「わぁお!裏ルートだ」

千里はおおはしゃぎ。

「おかーさんはちょっと…」

葵は微妙。





「清、寝ちゃっいましたよ、お父さん」

『と、俺に言われてもだ。傷だらけで動けない司野(しの)に直接訴えてくれ』

「そーですね。由宇麻、帰れそうにないですか?」

『無理』

救急車のサイレンを背景に瑞牧(みずまき)はぷつりと電話を切った。

まぁ、大変そうだからしょうがない。


「早速だな」

「早速だね」

由宇麻、仕事中に殴られ重症。清の迎えには来れず。

清はすでに眠っている。ならば、自分達の睡眠中に煩く騒ぐことはないだろう。明日になれば「ざんねんだったね」だけで済む。


すっと伸びる指先。


「清がいる」

葵は千里の手を反射的に掴んだ。それがとてつもなく早かったのは、このところ毎夜毎夜に慣らされた成果なのかもしれない。

「寝てるもんね」

「ん?………………………………っ!?やめっ」

しかし、これは慣れてなかった。キスしようとするそれは拒む気はなくて、激しくなるそれに砕ける腰を必死に両手で支えていたら、ソファーに寝かされていた。

身を捩る葵は千里の下。

「やめ?違うでしょ?」

などと言いつつ準備に掛かる。

「あのねー」

「何?」

葵は服の裾から入ろうとする手を食い止めて聞き返した。

「今日、面白いもの手に入れたんだ」

「何?」

ポケットから出てきたものは…想像していたものであったりする。

だからなのだ…―

「玩具」

「近寄るな馬鹿!!!!」

胸へと向かおうとする指は方向を変えてズボンに掛かった。

「フェイント~」

止める間無く脱がされる。

「もう反応?」

うるさい!!!お前が時間掛けるからだよっ!!!!!

「見んな!」

パンツを凝視ときた。葵は手で隠し、千里は玩具を隙間から押し付けた。

「っ…あ」

「手ぇ放して」

千里の片手で捻り上げられる葵の両手。

「やりたい放題だし~、いつもと違うシチュエーションもいいでしょ?」

「あ…んっ…う…」

「肯定ね。体は嘘をつかない」

制御の失せた千里の目が光る。

だからイヤなんだ。

この瞳の後の千里は抑制があまり効かない。俺を好いていることは痛いくらい分かるが。

千里とは最初に約束を半日ぐらいかけてした。何が赦せて何が赦せないか。俺は千里に無理矢理や強制だけはやめてくれと頼んだ。千里は頷いて了承してくれた。そのかわり、スキンシップなら受け付ける。千里の欲求を完全に無視はしないこと。それを俺は約束した。

だが、千里は案外欲望に素直で困る。

最近は俺を扱うことに慣れてきたと言っている。事実、俺自身、あいつになんやかんやで流され始めている。素直に認めるが、俺は気持ちいことが嫌いじゃない。勿論……千里とでも。

だから、なんかイヤだ。

俺の理性がそういう関係をまだ拒んでいる。千里は恋人であっても、親友であることには変わりない。と、言うより、千里は親友という感が日常では強い。俺にとって、千里が恋人だと認識し出すのはキスの時からだ。

しかし、千里はお構いなしで話を進める。ここで葵が本気で拒めば彼は手を止めるが、彼は今、完全に千里に流されていた。

「電気消すから脱いでてね」

そして、千里が葵に最後に付け足した注文はかなり意地悪だった。

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