夢遊(3)
「清とは言い難いね。微妙だ。清の記憶しかないのに洸祈と同じ行動を取る」
「本質は同じなんやろ?」
「初対面のはずの僕を蓮お兄ちゃんと呼ぶかい?第一、僕はまだ狼の親友って言っただけで名は名乗っていない。君が僕の名を一度呼んだが、その時、清は泣いていた。嘘泣きじゃない。泣いていた」
泣き疲れて眠る清をその腕に抱っこした由宇麻は泣き腫らした顔に笑んだ。赤く火照らしたほっぺをつつくと清は唸り、由宇麻の肩に顔を押し付ける。
「…そーやな」
それを繰り返しては頬を擦り寄せる由宇麻。
至福の笑顔が二之宮の苛立ちを上げるとは知らずに…。
「真面目に聞いてないでしょ。没収するよ?」
由宇麻より高いその身長と目で脅す。
「いーやーやー!」
「子煩悩め。梨々姉さんの夫になって子供ができた時には僕の前で子供とべったりして自慢話を夜通し聞かされるんだろうなぁ。あーやだやだ」
ふとしょんぼりする由宇麻。
二之宮は何をしたのかと頭を掻いた。
「由宇麻さーん?」
「あの…な…。……は…は…」
「“は”?」
ハスって何?
聞きたいが聞けない。
そんな顔。
二之宮は由宇麻のほっぺをおもいっきり左右に引き延ばした。
「ひゃうはぁう!?」
「崇弥を戻すために作業に集中するから連れて帰って。清は崇弥洸祈の人生の中で最も不安定な時期だ。とても脆い。君のちょっとした態度に神経が磨り減らされる」
重大責任。
由宇麻は引っ張られて赤くなった口元を摩りながら身を堅くする。
「でも、比較的に甘えん坊だから誠心誠意を持って接すれば大丈夫だよ」
甘えん坊という言葉に由宇麻は笑みを溢した。
「うん!」
先程、我が子を抱いた由宇麻さんを見送ったが、事情説明で省いたことがある。
急に眠いと言った崇弥と二階への階段を上がっていた時…崇弥の意識が遠退き始めたその瞬間だ。
歪んだ。
崇弥の魔力が荒れ、空間が歪んだ。その揺れと崇弥の機械的な言葉に驚いて崇弥を抱いたまま階段を転げ落ちた僕は暫く気を失って目を覚ますと崇弥は腕の中で幼くなっていた。
顔かたちが子供の頃へと。
魔力の歪みと同時に発せられた言葉。
「夜歌…」
それはシュヴァルツで語り継がれてきた童話の世界。
「死者の帰る場所」
崇弥洸祈は…―
「夜歌に帰らないと……か…」
夜歌に帰らないと。と確かに繰り返した。
「まさか…死んでないよな…崇弥…」
早く元に戻さないと。
こんなことで僕は崇弥を放してたまるもんか。
僕は洸祈を絶対に手放さない。