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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
生きる代償
88/400

夢遊

誰かが俺の手を強く握って引っ張るんだ。





  …―何処へ行くの?―…


  …―貴方の生まれた地へ―…






「目、覚めた?」

「ここは…」

暗い…。

「ぼく達の秘密基地だよ」

懐かしい気配が動いた。カーテンの引かれる音がする。

次の瞬間、光が視界を埋めた。

眩しい…。


「びっくりしたよー。いきなり倒れるんだもん」

「ごめん」

「謝らなくていいよ。ここ悪いんだから」

彼はトントンと俺の胸を人差し指でつついてきた。擽ったくて体を捩ってしまう。

「あははは」

それが面白いのか、彼は楽しそうに俺に覆い被さって胸をつついてきた。

「もうやめろよ」

笑い疲れてベッドに伸びると彼は同じ様に俺の横で伸びる。

「今日はどんなお話?」

暫くして、澄みきった声で訊いてきた。

「ん~」

珍しく何も思い付かない。

「じゃあ、ぼくがお話考えてあげる」

「聞かせて」


ある日、ある国のお姫様は怪物に拐われます。そして、勇敢な騎士が怪物を倒して、お姫様を無事救出。

結婚してハッピーエンド。


「王道だな」

「やっぱ王道だよね」

俺達は王道、王道と言い合う。

「お、元通りだ」

すると、いつの間にか俺の胸に耳を当てた彼はドクンドクンと柔らかな声音で笑った。

そして、

「ねぇ、いい?」

不意に見せる潤んだ瞳。

「3日も経ってたな」

「辛いんだ」

するりと額に伸びる手。

俺が気絶してた時、必死に自制してたんだな。

「いいよ」

俺は四肢の力を抜いた。

俺の魔力なんかよければどうぞ。

「ありがとう」

彼は微笑んだ。




体が動かない。

「ごめん」

彼は罰が悪そうに謝ってくる。

「謝るなよ。ここが辛いんだからさ」

俺はトントンと彼の胸を人差し指でつついた。

くすっ

「今日はここに泊まっていきなよ。動けないんだし、ぼくも寂しくないし」

ね?

仔犬のような愛らしい顔で見上げてくる。

「じゃあ、泊まる」

当然、俺は言葉に甘えた。

彼の見えない尻尾が振られているようでなんか嬉しい。


それに、


俺にはここしか…


―居場所がなかったから―






「えーっと…」

彼は首を傾げた。

「これじゃないか?」

俺も多くの一つを手に取って参加する。

「残念。はまんないや」

周りと似ているが似ていない。

「おはよ」

微笑してきた。

「おはよう」

だから、微笑して返した。


広がるピース達。

彼の手元には未々小さい未完成の絵。

「手伝っていいか?」

「勿論だよ」

俺の横に位置を変えた彼は俺にぴたっと寄り添う。きっと近付けたその耳で俺の心臓の動きを診てくれているんだろう。

「う~ん。乱れてる。大丈夫?落ち着いて」

「夢を…見たんだ…」

鮮明な夢を。

「怖かったの?」

背中を優しく摩りながら訊いてくる。

「…分からない。ただ…見たんだ…俺は…」

見たんだ。

「駄目っ。早すぎるよ」

シャツの裾から入れた手で直に胸に触れた彼は諭すようにそこを優しく撫でてきた。

心臓が突然その動きを緩める。

「もっとゆっくり、ゆっくり」

澄んだ声が語りかけてくる。

「今日は顔色悪いよ。もう少し休んだら?このパズルは後でまた一緒にやろう?」

でも…。

「休んだら眠くなる。眠ったら夢を見る…イヤだ…」

「じゃあ、お話聞かせて」

俺に覆い被さった彼は俺のシャツを脱がしながら聞かせてとせがむ。

「今日は駄目だ」

「えー聞きたかったのに」

「お話は聞かせるよ。駄目なのはこっち」

はだけたシャツから見える俺の体に彼は吸い付く。その頭を少し乱暴に掻き回すとむすっとされた。

「疲れたら夢を見ないよ」

「“顔色が悪いから”だろ?」

と、

「この匂い…」

バレたか。

だから拒んだのに。

「あれほど言ったのに!」

珍しく怒られた。

しかし、俺にも言い分はある。

「お前を力ずくでやってやるって言われたから」

「ぼくは簡単に逃げることができるよ。でも、心臓が悪い君は…!」

そう言うと思ってた。

だけど…。

「銃だよ!?いくらお前が逃げ足早くても簡単に―」

「どのぐらいなの?」

有無言わせずに彼は訊く。

真っ直ぐ俺を捉えて。

卑怯だよ。

これで俺は正直に答えなきゃいけなくなる。

「…3…時間…」

「それで?」

「……6人…」

「それで?」

「…8…回…」

「ばかっ」

彼はその細い体躯で俺を抱っこし、部屋を出て廊下を歩いた。

「あんなとこに…君を返すんじゃなかった…」

「俺の恩人だから」

「…そう…だよね…」

水場に来ると、俺の衣服を全て剥ぎ、水の張った桶に浸す。

そして、自分も脱ぐと俺を支えたまま水を浴びた。

「ごめん」

「謝らなくていいよ。今日は許さないから」

完全に怒らせてしまった。

「夜は外に出ちゃいけないよ」

隅々まで細い指先で洗われる。擽ったくて体を捩っても止めずに。

「ぼくは君が好きなんだから、自分を大事にしてよ」

温かい声。

「お客様、今日はどういたしますか?」

「好きにしていいよ」



お前なら許せるから。





眠い。



眠い眠い眠い眠い眠い眠い。





誰かが俺の手を強く握って引っ張るんだ。




  …―何処へ行くの?―…


  …―貴方の死んだ地へ―…

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