君の囁き(3.5)
「『それはもう、可愛い声だったんだよ』で?どうだった?」
ニヤリと陽季の言葉を引用した二之宮は、消毒液を付けた脱脂綿で傷口を消毒しながら訊いた。
「うっさい」
「エロいねぇ」
そして、染みる痛みに顔を歪めて毒づいた洸祈の肩をTシャツを擦り下げて見る。
「いーっぱい痕付いてる」
……いーっこ…にーっこ…―
「数えるな!」
洸祈は軽く数え始めた二之宮の膝を蹴った。
「動くな。傷が開くぞ」
不意に真剣になる二之宮。
洸祈はむっと顔をしかめた。
それに打って変ったように笑みを見せる二之宮。
「二之宮?笑うなよ」
「ううん。笑ってない。微笑んでるの」
「ふーん」
ひらりと舞った手のひらは洸祈の頬を撫でた。
「あったかい」
「もっとあったかかったでしょ?」
「まあね」
抱きしめてきた二之宮の首筋から少しだけ香水の匂いがする。
二之宮の細い指はTシャツの襟首から洸祈の背中に進入した。
「あったまった?」
「うん。あったまった」
洸祈の指も微笑む彼の頭を撫でる。
「繋いだ手、すごくあたたかったでしょ?」
「うん」
「洸祈、もう夕霧から離れちゃいけないよ」
「うん」
「浅い傷は自然治癒が一番。呼吸が苦しいだろうけど我慢してよ?」
首に包帯を巻き終えた二之宮は項から首根までをすっと撫でた。
「喋る分には小さい声なら余り問題ないけど…飲食は止めて欲しいんだ」
「はぁ?」
「てのは流石に君でも無理だから…あ、点滴でもいいんだけどね…ま、置いといて、堅いのは嚥下する時に喉を大きく開くから傷が開きかねない。だから、柔らかいものを治るまでは食べて」
「うん」
「キスは柔らかい?なんて訊かれても堅いって答えるから。あ、僕のは柔らかいよ」
アホだ。
軽く二之宮は洸祈の唇に自らの唇を触れさせる。
触れるだけ。
だって…―
もう…俺には好きな人がいるから。
すると、うっすらと意識が遠くなってきた。
「眠いや…」
なんやかんやで昨日からちゃんと寝てない。
「眠いの?なら、僕のベッドまで行こ?」
添えられる手。
二之宮のベッドは気持ちい。
洸祈は首を縦に振り、二之宮の肩を借りる。
地上への階段。
ヤバい…眠い。
ヤバい………………………………。
「崇弥?あと少しだから」
分かってる。
でも、眠いんだ。
瞼が重い。
胸は苦しいのに眠い。
「ちょ…崇弥、まずい!」
何がまずいんだ?
眠い。睡魔が。
もう…―
寝かせて…よ。