君の囁き
「ビターじゃん!」
特大ホールケーキにはしゃぐ洸祈。
シャワーから出た陽季はその横顔に微笑した。
「なぁ―」
「早く食おうぜ!!」
「だからさ―」
「なぁなぁ、早くっ!さくらんぼだけじゃお腹空いてたんだ」
洸祈は少量のクリームを頬に付着させていることに気付かずにお腹を摩り、物欲しそうにおいしそうなスイーツを見詰める。
すると、
ぶちっ。
誰かの血管が切れた。
「洸祈!」
ケーキに目が釘付けの洸祈を陽季はベッドに押し倒した。
「何?」
首を傾げるのは洸祈。
「わざと?」
陽季は額にかかった前髪を指先で退かして緋い瞳を見詰めた。洸祈はクスリと笑ってそれに返す。
「わざと」
「ほんとっ焦らすの好きだな」
「大好きだよ」
―陽季が―
囁かれる言葉。
こういう時、陽季は無性に洸祈を抱き締めたくなる。
「マジで可愛い」
陽季は洸祈を抱き締めた。
「可愛いって言われても…かっこいいがいいんだけど」
“かっこ可愛い”ならどう反応するだろうか。
と、顔を上げた洸祈を見ながら陽季は考えてみる。
「何それって言いそう」
「?」
「つまみ食いはだーめ」
「なんで分かったの!?」
答えの代わりに彼は頬のクリームを舐めた。
「それよりさ、ケーキは後にして…」
「?」
クエスチョンマーク。
洸祈は本当に分からないと呆けた顔をした。
何で?分からない?
「裸で交わってからデザートにしようよって意味だけど」
…1…2…3…4…5秒たった。
「えー!!!!?ケーキの蝋燭の火消したいんじゃないわけ!?」
焦らすってそういうこと…
「シャワー入って来たんだよ?ベッドに押し倒したんだよ?」
「蝋燭だろ?」
何でだよ…蝋燭なんて餓鬼じゃんか。
それともSMプレイ?
なわけないけど。
「しょうがないなぁ……蝋燭ね」
「うん!」
何故か洸祈が楽しそうです。
「なぁ、火、大丈夫か?」
考えてみれば火が嫌いだったはず…。
「陽季の顔が見てるから」
はいはい。
陽季はケーキの蝋燭に灯りを灯す。その間、洸祈はぎゅっと目を瞑っていた。部屋の電気を消せば誕生日ケーキの完成だ。
「そんで?消していいの?」
「じゃあ…崇弥洸祈、陽季の二十歳の誕生日をお祝いしてハッピーバースデイを歌います!」
いやいや、待て!
お前は音痴だろ!!!!
「ハッピ~バ~スデイ~トゥ~ユ~、ハッピ~バ~スデイ~トゥ~ユ~、ハッピ~バ~スデイ~ディア~…」
歌が止まる。
陽季はちぐはぐな曲に眉をしかめながらも洸祈の方を向いた。
「どうした?こう―」
キス。
「陽季、誕生日おめでとう」
最高の誕生日だ。