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SubEpisode―包む光(2)―

「……氷羽(ひわ)



それは誰の為にあるの?



立喜(たつき)…」

氷羽は立喜を濡れた瞳で見上げた。緋の瞳から流れるそれはまるで血の涙。

「探した」

朝飯に昼飯。

腹減りを通り越して腹が痛い。立喜は小柄な氷羽を抱き上げると彼が見ていたそれを眺めた。

「氷羽…これは…」

「お家」

お家と呼ばれるのは大理石でできた立派な墓だ。

あるはずの名前がない。

誰のと訊く前に氷羽は答えた。

「友達のお家。ねぇ、立喜。この世に神様っているのかな?」

「俺は神様も魔法も信じない」

そんなことは家族を失ったあの時から夢見ることをやめた。

赤十字職員として人々を助けた両親が3年振りの帰国で、空港からのタクシーが事故に遭って死ぬなんて。それも相手は酔っ払い運転。

理不尽だ。

偶然が起こすのが事故なら、その偶然を創った神様なんて死んでしまえ。

天秤の傾いた世界を創る神様なんてそれこそ最悪の犯罪者だ。

この考えは偏っている。そんなこと知っている。

だけど、ううん…だからこそ、傾いた天秤を正す裁判官を目指す俺は、傾いた世界の存在なんて信じちゃいけない。

じゃないと俺は馬鹿みたいじゃないか。

最初から土台が傾いていたらたとえ天秤を正しても無意味じゃないか。

「立喜!駄目ぇ!!」

氷羽はぎゅっと立喜を抱き締める。立喜ははっと目を見開くと流れていた涙に気付いて氷羽から目を背けた。

「ごめんなさい。立喜、ごめんなさい。ごめんなさい」

「謝るなよ…氷羽。謝るのは俺だ。言い過ぎた…だから…その…帰るぞ。明日は休みだし、久し振りに野球でも―」

「立喜、大好き!」

結局、墓や友達に関して訊けなかったがそれでいいと立喜は氷羽を下ろして手を握った。




俺達はどうやら仲直りできたようだ。

しかし、俺と氷羽の物語はそう長く続かなかった。


「氷羽、ごめんな」


ただの風邪が俺の体を蝕むようになったのはこれから少し先の出来事。氷羽の風邪は治ったのに俺のは長く長く続いた。気付いた時には遅かった。

立てなくなることも自力で食事ができなくなることもこの時は予想もつかなかった。

最期にしたことは雪野瀬(ゆきのせ)への手紙を書いたこと。




氷羽のことを頼んだ。







雪野瀬へ

お前の言うことがもし正しかったのなら…

また会えるだろう?

そして…

そこに氷羽を入れてくれよ。

今度は3人で一緒に暮らそう。

一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に生きよう。



「君は本当に…」








…―雪野瀬(れん)、また会おう―…





「また会おうね、立喜」




             立喜由宇麻(ゆうま)より

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