灰樹(3)
「双灯ぃ!!!!!!!」
と、陽季。
「崇弥っ!!!!!!!」
と、由宇麻。
「どうしてだよ!!!!!!」
陽季は双灯に馬乗りになった。今にも殴り掛からん勢いだ。
「それは…」
抵抗せずに双灯はどもる。
顔を怒りに赤くした陽季は拳を振り上げた。
「この―」
「陽季君、落ち着きぃ!!!!」
由宇麻はそれを寸でで受け止めて捩りあげた。
痛みに陽季の顔が歪む。
「邪魔するな!!!!!」
獣の瞳。
由宇麻をはね除けた陽季は再び双灯に向き直った。
「お前は!!!!」
顔面に上がる石のような拳。当たったら骨が折れん勢いだ。
「陽季君、怒るで」
そこに落ちる由宇麻の一言。
「なんでっ!!!!…っ」
陽季はネジが切れたように動かなくなった。
「双灯さんから降りぃ」
降りない。
由宇麻は陽季の腕を掴んで引き摺り降ろす。力を無くした彼は床にへたりこんだ。
「…だって…なんで…」
苦しいはずだ。
辛いはずだ。
憎いはずだ。
悲しいはずだ。
「陽季君」
力一杯由宇麻は陽季を抱き締める。泣きじゃくる陽季を優しく優しく。
「好きやもんな。崇弥のこと好きやもんな。好きな人が誰かに身を捧げたなんて厭やもんな。憎いもんな。悲しいもんな。殴りたくなるもんな。見たくなくなるもんな」
どうしてこうなるんだよ。
陽季の声。
陽季を胸にきつく抱いた由宇麻は茫然とした双灯に囁いた。
「早く服着ぃ」
「俺は…」
「崇弥がやろ?事情は分かってる。そこにボーイが居るから相手してや」
「そしたら…」
「陽季君の部屋で待っとき」
「はい…」
「崇弥、起きてぇな」
陽季を宥めた由宇麻は、死んだように眠る洸祈を揺すった。
「う……し…の」
目を開けた洸祈はシーツを引き寄せて体を起こすと表情に影を落とした。
「言いたいこと分かるやろ?」
「滅茶苦茶にしたんだよね…」
「そうや。先ずは服着るんや」
洸祈の着替えを手伝う由宇麻は苦い顔をしてその状況を理解しようと努める。
「立てるか?」
「……立てない」
熱はまだある。
「崇弥、俺の質問に正直に答えるんやで?」
「…………うん」
洸祈はゆっくりと顔を上げた。
「何をしたか覚えているか?」
「…うん」
かくっと洸祈は頭を垂れる。
「崇弥が双灯さんにやってって言うたんやな?」
「うん」
「どうしてや?」
「……………疼くから」
震える手で胸を押さえた。
「疼く?」
由宇麻は訊く。
「胸が苦しくて…疼いて…どうしようもなくて…」
踞る洸祈。
曲がる背中。
「館の時と―」
「同じ…体が求めた…俺は売ったんだ…。自分の体を売ったんだ…。疼く…疼く…疼く…疼く…疼く…疼く疼く疼く疼く疼く―」
疼くんだ。
「崇弥!しっかりせぇ!!!!」
由宇麻は洸祈を抱き止めた。
「助けて…疼く…もう厭だよ」
苦しい。
「どうしようもない…そうやな…俺がおるから…」
悲しい。
「頭がどうにかなっちゃいそうだよ…」
痛い。
「大丈夫や…俺がおるから」
辛い。
「喉元に何かが…せり上がってくるようで…」
虚しい。
「崇弥……泣きぃ…」
寂しい。
「司野…司野…司野………」
熱い。
「ここにおるで」
…―疼く―…