灰樹(2)
あの手は…
何なんだ。
いつの間にか懐から部屋の鍵を洸祈に取られていた双灯は開けっ放しにされていたドアを閉めた。
「どうしたんだよ、洸祈君」
シングルのベッドを撫でた洸祈はそこにのろのろと登り這う。
「俺は君が熱だって言うのに二人で煩く、やる。やらない。って騒いでたから止めただけだ」
レモンティのルームサービスの電話を掛け終えた双灯はその長い髪をくくり直すと、取り出したタオルを水に浸して絞り、洸祈の額に乗せた。
洸祈は双灯の行動をじっと見詰めると、自らのワイシャツに指を掛ける。
「何も君にどうこうなんてこれっぽっちも……って!」
脱ぎ始めた洸祈。
双灯は眉をひそめてそれを阻止しようとした。
「何で止めるわけ?」
傾く顔。
「何で脱ぐの!?」
驚く顔。
そんな双灯の身体に、再び洸祈の指は触れた。
「何を…っ!!?」
誘うような指先。
後輩の親友であり愛情の対象。
それが崇弥洸祈だろう!?
双灯は後退るがそれを洸祈の腕は許さない。
仕舞いには双灯も洸祈と共にベッドに倒れていた。双灯はがばりと体を起こすと壁に背中を付けて滑る。
洸祈はというと、
―ワイシャツを脱ぎ捨てた。
「いいよ」
洸祈は誘う。
動けないでいる双灯に跨がり、
半身をさらけだして。
誰だ?
これじゃあまるで…―
「水商売…じゃないか」
「清いと書いて“清”。ほんの一時期は優しいと書いて“優”だった。無料だから買って」
俺は洸祈君の素性を知らない。
洸祈君は陽坊が連れてきた。
何処だか知らない場所から…―
「洸祈君…君は―」
「娼婦みたいなもの」
洸祈は飽き飽きしたと言わんばかりに双灯の腕を引く。
「ねぇ、買ってよ」
妖艶な笑み。
指先を柔らかい舌で舐めた洸祈は艶やかな笑みを浮かべた。
「無理だ。俺は男とやる趣味はないんだ。知ってるだろう?やよちゃん一筋。報われなくてもな。だから大人しくするんだよ」
娼婦。
洸祈君は水商売を。
だからなんだ。
洸祈君は男をも落とせる。
「疼く…胸が疼く…」
「やっぱり具合悪いんじゃないか。俺は胡鳥のとこで寝かせてもらうから洸祈君はここでお休み」
早く逃げないと。
彼のペースに巻き込まれる。
双灯は乱暴に洸祈を退けようとして…。
「…お願いします」
潤んだ瞳が訴える。
「俺は…」
「…買ってください」
火照った体が訴える。
「お願い…やって…」
疼くから…―
洸祈はベッドに腰掛けた双灯の衣服を脱がせるとその上に重なった。
「好きにしていいよ」
魅せられる。
未知の体験に双灯はその手を伸ばした。
「陽坊…ごめん」
もう止められない。